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自律的問題解決とは?(その2)

 人の運動システムには、機械と違って「自律的問題解決」という作動上の特徴があると前回述べた。

 機械では部品が壊れてしまうと、止まるか誤作動を起こして本来の機能を果たさなくなる。しかし人の運動システムでは麻痺などの問題が起きても、問題解決を図ってなんとか機能を維持しようとする。

 前回紹介したように腓骨神経麻痺があって下垂足が起こっても膝を高く挙げることで安全に歩行しようとする。(鶏歩)片麻痺後に麻痺で患側下肢が振り出せなくなっても健側の下肢や体幹を使って患側下肢を振り出して歩行を維持しようとする。(分回し歩行)

 他にも腰椎ヘルニアが起きて痛くて動けない場合は、体幹全体を硬く固めてなんとか痛みを軽くして動こうとするなども見られる。

 これらの問題解決はどのように行われているかを観察してみると、身体の内外に利用可能な運動リソース(運動に使われる資源)を探して、必要な課題達成のためにそれらの運動リソースを上手く利用するための運動スキルを生み出して課題を達成していることがわかる。

 たとえば腓骨神経麻痺で下垂足の場合は、つま先が引っかからないように股関節屈曲を大きくしてつま先を高く挙げる。股関節の屈筋群という運動リソースが問題解決に利用可能であると運動システムが判断して、歩行のための鶏歩と呼ばれる運動スキルを生み出しているわけだ。

 片麻痺の場合は、患側下肢が麻痺のために振り出せないので、健側下肢や体幹を利用可能な運動リソースとして発見し、健側へ重心移動し、患側下肢を釣り上げて、更に健側下肢と体幹の伸展や回旋で患側下肢を振り出していくという運動スキルを発見している。

 これらの例では、運動システムが使っている運動リソースは身体内にあるものなのでCAMRでは「身体リソース」と分類する。

 ここでセラピストが杖という道具を片麻痺の患者さんに提案する。患者さんはそれを実際に手にして色々に使ってみる。健側に杖をついて健側に基底面を大きく広げることができるため、より健側へ大きく安定して重心移動することができて患側下肢を簡単に釣り上げることができることに気がつく。

 あるいはセラピストがプラスチックの短下肢装具を提案する。実際に使ってみると、患側足底が接地する際に足部をより安定させるということに気がつく。

 つまり患者さんの運動システムは杖や短下肢装具が歩行をより安全に、より効率的に行うために価値があると気がつくわけだ。

 杖や短下肢装具は身体の外にあるためCAMRでは「環境リソース」と分類している。

 患者さんは課題達成のために身体リソースや環境リソースを利用するための運動スキルを生み出して、より安全に、効率的に歩行という機能を維持・改善していけるわけだ。

 このように運動システムは「必要な課題達成のために、身体の内外に利用可能な運動リソース(身体リソースと環境リソース)を常に探して、課題達成のための運動リソースの利用方法である運動スキルを生み出して、問題解決をしたり課題を達成したりしているわけだ。

 このような人の運動システムが基本に持っている問題解決や課題達成の方法をCAMRでは「探索利用スキル」と呼んでいる。

 そしてこの「探索利用スキル」は通常意識に登ってくることはない。これは運動システムが人の意識とは独立して、自律的に作動しているからだ。従来意識とは独立した「運動知」と呼ばれるものがあることは知られている。まさしく探索利用スキルを含む「自律的問題解決」の作動は、意識とは独立して問題を解決し、課題を達成するという「運動知」と呼ぶに相応しいものだろう。

 さて、しつこいようだが最後にもう一度述べておこう。

「『探索利用スキル』とは運動システムが、利用可能な運動リソースを身体の内外に探索し、その利用方法である運動スキルをその場で生み出して、人にとって必要な運動課題を達成するための基本的な能力である」(その3に続く)

※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「新しい視点を身につけることの難しさ(その1)」
以下のURLから
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