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自律的問題解決とは?(その5)

 今回は「外骨格系問題解決」を歴史的な視点で見てみよう、なんて少し大げさだが、これは振り返る価値があると思う。
 それは僕が新人の頃(38年くらい前(^^;))、全国の脳性麻痺学会に出席すると、「筋の硬さが問題である。この筋の硬さが正常な運動の出現を邪魔しているのだ。過緊張こそが脳性運動障害の主症状なのだ」などと多くの人が発言していた。僕もその頃は素直なもので、「ああ、筋の硬さという症状が出現するために正常な運動が出ないのだ」などと素直に信じたものだ。
 ジャクソンの神経学(階層型理論)では、脳性運動障害の症状は「陰性徴候」と「陽性徴候」に分類されると習った。陰性徴候は脳の機能が低下・失われたことを示す症状で弛緩性麻痺や筋力低下、姿勢反射の消失などである。陽性徴候は下位レベルの解放現象として、筋緊張の亢進や原始反射などの優位な出現などがある。
 また「陽性徴候の筋緊張亢進が正常運動の出現を抑える」というのは僕の臨床の経験から納得できる部分があった。たとえば脳性麻痺の尖足位で歩いているこどもがいる。その尖足位の足関節に対して持続的な伸張を繰り返すと尖足がある程度改善し、足底をほとんど接地して歩くようになる。尖足位で歩いているときは少し不安定で歩隔を広げて基底面を広くして歩く。当然歩隔が広いので重心移動も大きくなり、見た目左右に揺れて歩いている。
 しかし尖足が改善して足底がつくようになると不安定さがなくなって歩隔も狭くなり、左右への重心移動も目立たなくなる。見た目スムースでバランスが良くなる。単純だが、このような経験をしていたので、なんとなく納得がいったものだ。
 そうすると同様の発表で会場から発言があった。「過緊張が正常運動の出現を邪魔しているなどと言っているが、そんなことはない!過緊張状態を改善してみるとわかることだが、弛緩状態が露(あら)わになるだけである!弛緩状態が改善しないのに健常な運動が出るものかね?」
 勇気ある発言である!陽性徴候が陰性徴候の出現を抑えているというのが主流派の意見であり、それにたった1人で堂々と反対を唱えたわけだ。発表者も会場もシーンとした。発表者は何か言って誤魔化そうとしたように見えたが、そのおじさんはなおも色々と突っ込んできた。少し会場が騒然としたが、司会者が何か言って収まったようだ。
 だがその光景は、なぜか僕の中にずっと残った。そのおじさんの主張は至極僕の心に響いた。
 今思うと、脳性障害後に出現する硬さを巡ってこの当時は相当混乱していたと思うし、今だってそれを引きずっていると思う。
 矛盾の一つは「硬さという陽性徴候を原因として正常運動の出現が邪魔される」というアイデアである。脳細胞が壊れたことを原因として、陰性徴候と陽性徴候という二つの結果が現れるわけだ。だが先のアイデアでは陽性徴候が原因で陰性徴候(正常運動の低下・消失)が現れていると因果の関係を想定している。つまり結果同士の間に因果関係を想定している。ありえない!多数派がこんな矛盾したアイデアを主張していたのである。あのおじさんは正しかった!
 しかし一方で過緊張が緩むと運動範囲が広がってより大きな運動や滑らかな運動が出るのは僕の経験からも確かである。でもあのおじさんの言う通り、弛緩性麻痺が改善しないのに正常運動が出現するというのはどうもおかしい。
 ではどんな説明が可能なのか?
 そうすると筋の硬さが改善すると出てくる大きく滑らかな運動は「それまで存在しなかった新しい正常運動ではない」と考えるべきだろう。その運動は元々持っていた運動が、筋が硬くなることによって閉じ込められていたのではないか。そして筋がやわらかくなることで可動域が広がり、閉じ込められた運動が再び出現しただけではないのか、と考える方が自然ではないか?   
 陰性徴候と陽性徴候を巡るもう一つの矛盾は次回説明する。(その6に続く)
※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
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