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お酒の小話

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お酒に関する小話を真面目に書きます。
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#Cland

浅酌低唱:日本酒にとってのカウンター・カルチャー

浅酌低唱:日本酒にとってのカウンター・カルチャー

先日、日本酒とカウンター・カルチャーについて話をしていた。カウンター・カルチャーとは支配的(に見える)文化に対するアンチテーゼのこと。既存に対する懐疑性、ないしは否定性を伴う点で先鋭的に映ることがあり、またそれは消えてなくなるものというよりは対立項として併存するものである。どちらが正しい・正しくないということではなく、カウンター・カルチャーの存在は業界全体を拡張する可能性を持っているにも関わらず、

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浅酌低唱:モノゴトをポートフォリオで考える

浅酌低唱:モノゴトをポートフォリオで考える

物事をポートフォリオ、つまり全体観をもって立体的に捉えることで選択と集中ができるという話は枚挙にいとまがない。日本酒も同様で、小さな単位では酒蔵の商品構成(価格帯と販売本数まで)、大きな単位ではイベント構成(蔵開きから全国規模イベントまで)などもポートフォリオとして考えると役割や存在意義がグッと明確になる。

数年前、コンサルティングの仕事のときに、とある世界的なブランドの出店計画を担う役員の方と

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浅酌低唱:蔵人全員で蒸し米を囲む意味

浅酌低唱:蔵人全員で蒸し米を囲む意味

つい先日、石川県白山市の吉田酒造店に撮影に伺ったときのこと。蒸し上がりの甑の周りに造り手全員が集まっていた。『手取川』『吉田蔵u』を醸す吉田酒造店では12人程度で酒造りをしているが、蒸し上がりの作業にはそこまでの人手は必要ないはずだ。主催する『若手の夜明け』に参加する蔵の多くは小規模の酒蔵で、仕込みの作業も4〜5人、中には2人という蔵もあるだけに、その日の朝礼に集まっていた蔵人たちが全員甑の周りに

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浅酌低唱:清酒製造免許の規制緩和で次の100年をつくるには

浅酌低唱:清酒製造免許の規制緩和で次の100年をつくるには

初めに書いておくと、僕は清酒製造免許の規制緩和には賛成だ。戦後70年間以上も新規の清酒製造免許が発行されていない状況は、僕のような新しいことに取り組む立場からすると違和感しかない。そうした状況に対して「伝統や歴史を盾にした既得権益の確保だ、保守的だ」と揶揄する気持ちはよくわかるし、昨今のインターネットでも清酒製造免許の規制緩和に向けた機運が高まっているように思う。

だからこそ同時に検討しておきた

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浅酌低唱:浅酌低唱:蕎麦屋のカレーとアンコンシャス・バイアス

浅酌低唱:浅酌低唱:蕎麦屋のカレーとアンコンシャス・バイアス

先日とある地方都市を歩いていたときのこと。打ち合わせが終わったのが午前11:30で、お昼には少し早かったが、お腹も空いていたので街道沿いにひっそりと佇む静かな蕎麦屋に入ってみることにした。

濃紺が陽に焼けて薄くなった暖簾をくぐると蕎麦出汁のいい香りが店内を充満していた。大テーブルに座りメニューを取ると、中には年季と折り目の入った定番メニューとラミネート加工された季節のメニューが挟まれている。ざっ

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浅酌低唱:”酒蔵”中心性理論

浅酌低唱:”酒蔵”中心性理論

米国MIT(マサチューセッツ工科大)のMedia Lab出身のBen Waberと2015年頃に取り組んでいた共同プロジェクトで、職場の生産性を可視化して空間づくりに役立てる、というものがあった。人と人とが相互作用をし、関わり合いを持ちながら生活をしていく。その人の単位が複数になり、それが家族や職場、コミュニティや会社、ひいては地域や社会、国家などへと昇華されていく中、それぞれの関わり合いのネット

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浅酌低唱:水はおもしろい

浅酌低唱:水はおもしろい

日本酒のおもしろさに気付かされたのはどのタイミングだろう。醸造や発酵のサイエンスから、その長年の歴史と伝統という文化性、そしてメディア、経済に足を踏み込んでいくと、それぞれのベクトルのおもしろさの違いがある。のめり込んだ理由はいくつもあるけれど、その中でも最近は「水」が気になっている。

日本酒はその大部分が水であり、米の栽培から原料処理、仕込みそして掃除に至るまであらゆる場面で水を大量に使う。そ

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『酒屋大賞』を開催します

『酒屋大賞』を開催します

何でもしくみから考える僕が日本酒の事業を推進する中で常日頃考えていることは、この世界に誇れる文化をどのようにすれば世界に広められるか、子どもたち次世代に継承できるか、ということです。その活動の一環として、映像や写真に残したり、イベントを開催していますが、一方でこれは日本酒業界が抱える問題への構造的なアプローチになっていないと感じてもいます。

日本酒業界が全体として盛り上がるには、健全な競争環境が

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向こう一年どう動く

向こう一年どう動く

通年の活動にこれまでの『若手の夜明け』は蔵元が主催していたことは以前も書きました。そのため、お酒造りが盛んな特に冬の時期はイベント開催はおろか準備もままならないため、春から秋にかけての少し落ち着いた時期に開催されていました。
せっかくイベントで認知度が広がっても、興味関心が継続しないことには忘れてしまうというのが世の常。そこで私たちは通年で様々な方を対象にしたイベントを開催することで、『若手の夜明

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いつだって業界が盛り上がることをやっていきたい

いつだって業界が盛り上がることをやっていきたい

前回までの振り返り前回の記事で、日本酒業界が衰退する一途の現状を憂い、ワインでいう「Vivino」のような情報管理アプリを作ろうとした結果、ドキュメンタリー番組を撮影するカメラマン・倉渕宏幸さんに出会い、3年間で150日を酒蔵の撮影に費やすようになった、という経緯を書きました。これまで日本酒については門外漢だった僕は、映像データの提供をきっかけとして、日本中の様々な酒蔵と関係性を築くことができるよ

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日本酒の市場規模を10倍にしようとしたら、150日酒蔵を撮影して過ごすことになった

日本酒の市場規模を10倍にしようとしたら、150日酒蔵を撮影して過ごすことになった

日本酒の市場規模はワインの0.7%ブームなんかじゃない

「日本酒ブーム」という文字は毎年のようにメディアで散見されます。が、実はそんなことはまったくありません。日本酒の生産量は1973年をピークに当時の3割以下にまで減少していますし、現在稼働している酒蔵の数も1970年頃に比べて3分の1以下の1,000程度です。
これは一体どれくらいの規模なのかということを、ワインとの比較で考えてみましょう。ワ

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日本酒イベント『若手の夜明け』について

日本酒イベント『若手の夜明け』について

酒蔵の当主「蔵元」、そのなかでも若手の蔵元が集まり、新しい酒造りへの思いを発信してきたイベント「若手の夜明け」。2007年から続いているこのイベントの主催が、第32回から株式会社Clandに引き継がれました。
2022年9月21日から24日にかけて大手町仲通りの会場で行われた第32回「若手の夜明け」には、24の都道府県から41の酒蔵が参加。さらに、今回初めて酒販店も参加しました。これまでは試飲会の

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Clandという会社について

Clandという会社について

はじめまして。日本酒イベント「若手の夜明け」を主催している株式会社Clandのカワナアキと申します。多くの方にとっては初めて聞く社名であり、何をやっている会社なのかご存じない方も多いと思います。はじめにそうした方に向けて、Clandについてお話をしたいと思います。

Clandとは2007年から始まった若手の蔵の日本酒イベント「若手の夜明け」を、今年から引き継いで開催している会社です。日本酒の蔵の

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日本酒とワインの市場規模比較

何かを調査する際にはまず大まかな数字の規模感を把握することにしています。そこでここでは、日本酒の市場規模とワインの市場規模について、その概略を捉えられる資料を元に数字の規模感を把握していきます。引用する主な元データは2017年12月21日に帝国データバンクより発表された「清酒メーカーの経営実態調査」と、2019年1月30日に発表されたZion Market Researchによる"Global W

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