日本酒とワインの市場規模比較

何かを調査する際にはまず大まかな数字の規模感を把握することにしています。そこでここでは、日本酒の市場規模とワインの市場規模について、その概略を捉えられる資料を元に数字の規模感を把握していきます。引用する主な元データは2017年12月21日に帝国データバンクより発表された「清酒メーカーの経営実態調査」と、2019年1月30日に発表されたZion Market Researchによる"Global Wine Industry Trends Will Reach USD 423.59 Billion by 2023: Zion Market Research"です。
帝国データバンク [WEB] [PDF]
Zion Market Research: [WEB]

日本酒市場は4500億円、ワイン市場は30兆円
帝国データバンクによる清酒メーカー1254社への聞き取り調査によれば、2016年の清酒製造を主業とする清酒メーカーの売上高合計は4416億円となりました。日本酒の関連市場を含めるともう少し増えそうではありますが、だいたいの規模感としては4500億円くらいと見て妥当でしょう。
一方でワイン市場ですが、Zionによると2017年で$302 billion(米ドル、およそ30兆円)、2023年には$423 billion(米ドル、およそ42兆円)に成長するとしています(これは本レポートを購入するには50万円ほどかかるため元データをご覧になりたい方はこちらからご購入ください)。だいたい100倍くらいということですね。

売上1位の白鶴は300億、獺祭は140億
ではその市場の中でどんおようなプレーヤーがいるかというと、1位の白鶴酒造で売上およそ300億円、獺祭はおよそ140億円です。ただし獺祭を醸す山口県の旭酒造はここ十数年で目覚ましい成長を遂げていて (2016年度前年度比65.3%増加)、純米大吟醸のみを醸造してでのこの数字は、他の蔵とは一線を画しています。

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酒蔵数は1,400、ワイナリー数は22万
日本酒については国税庁が「酒のしおり」を発表しており、これが日本酒業界を俯瞰する上で非常に重要な一次資料となっています。ワインについても同様にあると思いますが(未調査)、ここでは簡略化のためにワインボトルのエチケット(ラベル)を撮影することで銘柄のスペックやレビュー、価格が見られるワインアプリVivinoが自社サイトで様々な数値を公開しているのを利用したいと思います(2019年8月31日時点)。
国税庁の清酒製造業の概況によれば、30年前の1989年に2,327者あった製造業者は2016年には1,405者にまで減少しています。一方で前掲Vivinoに掲載されているワイナリーの数だけで219,247あります。1つの酒蔵が年間で様々に20銘柄程度を生産しているとしても現状で日本酒はビンテージ(日本酒で言うBYによる年代の区別)は標準化されていないため、30,000銘柄程度としても、Vivinoに掲載されているワイン銘柄数11,080,129銘柄と大きな差があります。
平成の間に半減して1,400程度になった酒蔵が30,000銘柄程度を醸造しているのに対し、世界中で22万程度のワイナリーが1,100万銘柄程度を醸造しているということです。

有力酒販店で50億円、エノテカは250億円
酒蔵と販売店の関係は昔から深い関係にあります。お互いの協力関係により市場を牽引してきた歴史がありながら、イノベーションのジレンマとでも呼ぶべきお互いの関係性があるからこそ縛られてしまっている状況も散見されます。筆者の住む東京で日本酒を専門的に扱う小売店舗の規模の大きいプレーヤーといえばはせがわ酒店いまでやがありますが、売上高で見るとはせがわ酒店はおよそ48億円、いまでやは51億円です。他にも中国地方の有力である酒商山田はおよそ10億円、九州で有力な住吉酒販は公開データは見つかりませんでしたが同様と考えられます。
一方で「酒のしおり」の酒類販売業者の概況を見ると一般酒販店の経営状況について一者平均で総売上高が7500万円前後ですので、その規模と影響力は大きなものだと推察されます。
一方で、ワインを専門に扱い、数年前にユニゾン・キャピタルからアサヒビールに売却されたエノテカは売上高256億円です。ここでもワインの規模との違いが浮き出ていますね。

日本酒は戦中に税収の30%を占めていた時代もある国の産業です。日本酒ブームと盛り上がりを見せる一方で、消費量が減っていること、生産者が減少していることなど統計データは芳しくありません(唯一、輸出量が10年前に比べて3倍に伸びていることが言われていますが、こうした記事にもあるように実感との乖離は言われているようです)。こうした国内外の一般消費者としての実感はバイアスがかかっていますが、統計データも合わせて冷静に議論をしていきたいですね。

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