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青い惑星(SFショートショート)

   あらすじ
 宇宙艦隊を率いる「私」は、青い惑星を侵略しようとしていたのだが……。


 私の率いる宇宙艦隊の前方に、青い惑星が浮かんでいた。この星は、恒星に近い側から3番目の惑星だ。
 コバルトブルーの宝石のようなその姿は、私の生まれ育った赤茶けた母星とは何もかもが違っていた。
 すでにこの青い星には以前から秘かにドローンを潜入させ、調査している。
 文明はそれなりに発展しており、都市部には高層ビルが林立し、哺乳類から進化した知的生命体が多数居住していた。
 惑星の周囲にはかれらの造った人工衛星や宇宙ステーションが浮かんでいる。
 ロケット打ち上げ能力はあるが、我々のようにワープ航法で恒星間航行をするだけのテクノロジーは有していない。
 せいぜい同じ恒星系内に無人探査機やロケットを飛ばす程度の技術しかないのである。
 かれらもドローンを使ってるが、我々が潜入させたドローンのように光学迷彩で視覚的に周囲から見えなくしたり、レーダーに見つからぬよう特殊な粒子を散布する能力はなかった。
 この惑星の広大な海には石油を積んだタンカーや富裕層を乗せた豪華客船、軍艦や釣り船等、様々な船が航行している。
 深海には原子力潜水艦の姿もあった。陸にはガソリンや電気で動く自動車が多数走っている。
 その時我々の母星から量子テレポート通信が入る。発信元は、母星の連邦政府の大統領だ。
 私の眼前に、大統領の全身を映したホログラムが浮かぶ。それは頭部と体が一体化した球体の下部から四本の細い触手が伸びた姿である。
 大統領だけではない。私も含め母星の知的生命体は、全員が似た姿をしていた。
 進化の過程で脳が巨大になり、逆に両腕と両脚は退化して4本の触手に変化したのだ。
 当然細い触手では体を支えられないので、脳波を感知して自在に動くオート・チェアーに座っていた。
 そして、こけてしまわぬよう体はシートベルトで固定され、オート・チェアーの上部は透明なカプセルで包まれている。
 カプセル内の気温と湿度は常に、その人物にとってちょうどいい具合に設定されていた。
 性器も退化し、我々はメタバース内の架空の異性か同性とヴァーチャル・セックスをして、直接他の人間と性交渉をする事はなくなったのだ。
 今やマザー・コンピューターが理想の配分で精子と卵子をかけあわせ、人工授精で赤ん坊を人工子宮から産みだした。
 女性の子宮も乳房も退化し、出産や授乳はできなくなっている。人工子宮から生まれた赤子はロボットが教育し、大人に育てた。
 優秀な遺伝子のみ選別されるので、先天的な病気や障碍は今や存在しない。
「侵攻計画はどうなってる」
 大統領が、質問した。
「すぐにでも、この惑星に侵攻できます。先住民は原始レベルのテクノロジーしかありません。短時間で征服できます」
「頼もしいな」
 大統領は笑顔になる。
「いくらメタバース内で理想の人生を堪能できると言っても、実際に他の惑星に侵攻し、異種族を支配する醍醐味に勝るものはないからな」
「仰せの通りです。閣下」
「頼んだぞ」
「承知しました。大統領閣下」
 私は部下に命じ、ホログラムで映しだされた青い遊星に住む者達に通信を送らせた。そしてすぐ降伏するよう通告したのだ。
 最初は我々が遠い惑星から来たの自体なかなか信用されなかったが、いくつかのやりとりの後ようやく原始人共は、こちらの意図を飲みこんだ。
最終的に返答があったが『降伏するつもりはない。徹底抗戦する』という内容だった。
 私は部下に命じ眼前の星の主要都市にミサイルを一基ずつ発射させる。核弾頭は積んでないが、強力なミサイルだ。
 全部で五つの主要都市が壊滅すると、青い星の知的生命体は『最終的な回答』を返上し、降伏を選択した。
 かれらには高速で飛んでくる我々の放ったミサイルを迎撃する手段もなければ、私の率いる勇猛な宇宙艦隊に攻撃する能力もないから無理はない。
 私は勝利者の指揮官として、敗者の星に軍艦内から、マイクロ・ワープで地上へと降下した。
 結果は最初からわかりきっていたが、それでも嬉しい。
 私を乗せたオート・チェアーごとワープアウトして原始人共のいる惑星上に降りたつと、哺乳類から進化した住人達の姿があった。
 肌の色が白い者もいれば黒い者もいる。我々が進化の過程で失った頭髪や体毛もあった。
 髪の毛の色も黒や茶色や金色と様々で、スラリと長く伸びた腕と脚が二本ずつあり、直立歩行で歩いていた。
 我々地球人の、太古の姿とそっくりだ。
 太陽が1つしかない我々の太陽系と違い、頭上に2つの恒星が浮かぶ。
 我々の住む地球は太古に我々の先祖がやらかした核戦争で赤茶けた惑星になってしまったがこの星は、それ以前の地球のように美しい。
 技術レベルは、地球の21世紀前半と同レベル位だろうか。重力や気圧も同じ位だし、恒星に近い側から3番目なのも奇遇だが同じであった。

#創作大賞2023

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