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ビジネスとスポーツに見る人材アセスメントの共通点

米国のキャリパー社は関連会社「キャリパースポーツ社」を設立し、 野球、バスケットボール、アイスホッケーなど、数々の全米プロスポーツ・チームの選手採用で力を発揮しています。最近では、大学のスポーツチームにもキャリパーが採用されるようになっています。

身体能力や技術はプロスポーツ選手ともなれば、もはや 「基本要件」です。トップになれるかなれないかは、精神面の差と言っても過言ではありません。その選手に望まれるポジションはどこか、プレースタイルは個人プレーかチームプレーか、期待される役割はチームリーダーか、それともアシストか、といったことによって「潜在行動力」もおのずと異なります。 チームの監督がポジションを決める場合でも、それを把握できているのといないのとでは、成功の確率に大きな差が出てきます。

その結果、たとえばMLBでキャリパーが推薦した選手によるシーズンの平均ヒット数は125.64本。これに対して推薦しない選手の場合は51.81本で、大きな差が出ています。ホームラン数も同様に14.96本対4.86本、打率も2割7分3厘対2割3分7厘と、大きな違いとなって現れています。

ゴルフのツアープロの適性

私たちは最近、ある男性プロゴルファー(ここではKプロとしておきます)のパーソナリティを調べる仕事を依頼されました。ツアープロとしてすでにトーナメントで何勝かをしている期待のプロゴルファーです。

Kプロはこのところ、思うような結果を出せないでいました。もしかしたらツアープロには向いていないのではないか、厳しいトーナメントを勝ち抜くだけの精神力を持ち合わせていないのではないかと悩みはじめていたのです。心配したマネージメント会社が、実際にそうなのかどうかを確かめるために、私たちにKプロの職業的な適性を調査するように依頼してきたのです。

男子プロゴルフのトーナメントは、2日間の予選ラウンドを行い、それに勝ち抜いた上位の選手だけがさらに2日間の決勝ラウンドに進むことができます。しかも、何カ月にもわたるシーズンの間、ツアープロは毎週、過酷な競争に勝ち抜くことを求められます。技術力もさることながら、その重圧に耐え、多くのプレッシャーをはねのける精神力の強さがなければとてもこの世界で生き残ってゆくことはできません。

 トーナメントプロとしての仕事で要求されるのは 「勝利への飽くなき欲求」と厳しい状況下での「冷静な判断力」、それにリスクを恐れない 「チャレンジ精神」と、自分をコントロールできる「自己管理能力」 です。当然のことながら、スランプに陥ったときの 「エゴ・ストレングス(復元力)の強さ」も重要になってきます。

「人柄の良さ」という難点

Kプロのキャリパープロファイルは以下のようなものでした。

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Kプロの長所と課題がはっきり示されています。まず長所です。

・勝負を楽しみ、相手を必ず打ち負かそうとする充分な競争意欲がある。
・駆け引きが必要な局面で、相手の反応を読みながら戦略を立てることができる。
・状況の変化に対する適応力も高い。人並みはずれた情報収集力があり、 一度経験したことは完全に習得していく。
・幅広く人の意見を聞いて、理論やテクニックを学び、新しい練習方法を積極的に取り入れようとする意欲が強い
・社交的で、人に対して親切。「感じのいい人」という印象を与える。

感応力(エンパシー)や社交性の高さから読み取ることができる、何の問題も無さそうな所見です。しかし、職業適性という観点からは、日常生活では長所と見えることでも、逆に克服すべき課題となってしまうことがあります。ゴルフのツアープロという職業であるK氏の場合、下記のような課題があります。

・他人の意見や周囲の状況など、様々な情報を取り入れすぎる傾向があり、情報が多すぎることによって判断に迷いが生じ、確固とした自信を維持できない。
・自分に対する自信が低い水準にあるため、常に漠然とした不安を抱えながら勝負に挑まなければならず、ここぞという局面になるとその不安が表面化し、自信を持ってプレイすることを妨げてしまう恐れがある
・人柄のよさが禍して、強い競争意識を持った相手からは、それほど恐れられない。
・周到に準備することが苦手。そのために、事前によく調べておけば防げたはずのミスを冒しやすい。

「自分に対する自信が低い水準にある」ことはエゴ・ストレングス(復元力)の低さに表れており、プロとしては是が非でも克服したいところです。また、柔軟性の高さ、切迫性の高さ、慎重性の低さが、せっかちな性格を示しており、トレーニング方法やフォーム矯正が首尾一貫せず、成果を出しにくくなっている可能性があります。

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Kプロには、職務に必要な競争意欲と柔軟性、状況に対処していく能力がありますので、この点を強みとして伸ばしていければ、トーナメントプロとしてやっていくことは十分、可能です。また、とても親切な面があり、自分で吸収した理論や技術を周囲の人に伝えていこうとする「潜在行動力」 にも恵まれています。優れた対人関係の素質によって、熱心な後援者がつくことも考えられます。

これからは、自分が信じられるものーつだけを持って、迷いなくそれに集中していく訓練が必要です。そうすればKプロの潜在能力はこれまで以上に大きく開花し、好成績のよい循環に変えていくことができるでしょう。

合うか、合わないかではなく、どちらが幸せか?

強みや弱みを理解し、それなりにトレーニングを積めば、ある程度は勝つことはできるのですが、勝ち続けることは難しく、ここがプロの厳しいところです。Kプロに限ったことでなく、本人のみならず、周囲も精神的にどんどん辛くなってゆくことは想像に難くありません。

Kプロは、現在、トーナメントの解説や、レポーターとして活躍しています。自らの経験に、感応力(エンパシー)や社交性の高さという強みを重ね、ツアープロの心情を汲み取ることができることともあいまって、わかりやすく爽やかな話しぶりが評判になっています。

人によってさまざまな価値観や美学があります。「初志を貫きたい」と考えるのも尊いことです。ただ、忘れないで欲しいのは、ビジネスでも、スポーツでも、強みを活かして職種を修正するという選択肢は決して逃避や弱腰ではないということです。迷った時は「どちらが幸せになれるか」という基準で、これからのことを考えてみることをお薦めします。