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箱根駅伝とララムリ族

突然ですが『ララムリ族』をご存知でしょうか。
知ってる、聞いたことがある、という方は南米か、走る世界に詳しい方かもしれません。

ララムリの人たちはメキシコ・チワワ州の銅渓谷(バランカ・デル・コブレ)に暮らしており『走る民族』とも呼ばれます。
標高2400メートルを超える険しい山中で生活し、部族内でレースを行い、山羊や羊などの家畜を取り合うことで、走るための能力を特化させ、重要な文化として長く守り続けてきた民族です。
世界的なウルトラマラソンで成功を収めて脚光を浴び、本の出版やドキュメンタリーが制作されたことでも話題になりました。

新年早々、なぜこんな話を始めたかというと、今朝の箱根駅伝で、ふとこの人たちのことを思い出したからです。
箱根駅伝の中継を観ていると、過去のアーカイブ映像が流れることがあるのですが、その中で国士舘大学OBの方の、あるエピソードが紹介されていました。
『裸足のランナー』として有名になったこの方は、レースの途中で突如立ち止まってシューズを脱ぎ捨て、残りを裸足で走りました。その結果、ご自身は区間3位、学校も初の3位入賞という成果を残しています。
ご本人が語るには、どうにも靴が重く、脱いだほうがもっと走れると感じたということでした。絶対にやれると思った、裸足で走るのは慣れていたし、いつも裸足だったのだ、と。

そう聞けば納得できる気もします。足に合わない靴ほどわずらわしいものはなく、裸足はさすがに真似できなくとも、地面を感じられるほどに底が薄くて軽い、ベアフットシューズはランナー界に完全に定着しています。
明治以前の日本人は、長旅を草鞋や足半といった、これも底のごく薄い履き物で通し、祖母からも、山の中で遊ぶ時は当たり前に足袋を履いていたと聞きました。

そういえばララムリだって、とここで他国の走りのエキスパートに連想が及びます。
ララムリには極めてユニークな特徴がいくつかあり、まず、走るためのトレーニングは一切しません。口にするのはトウモロコシやトルティーヤなどごく質素なものを少しだけ。男女ともにスカート状の民族衣装をまとい、足元は普段の生活でもレースの時も変わらず『ウワラチェ』です。

ウワラチェとは古タイヤに革紐をつけただけの簡易なサンダルで、なんと日本の草鞋とも関係しています。
17世紀の初め、仙台藩の支倉常長がローマ行きの途中でメキシコに立ち寄った際、現地の人に「日本人達が履いている物は何?」と尋ねられました。
その答えの「わらじ」をメキシコ人は「ウワラチェ」と聞き取り、それ以来メキシコではサンダルをウワラチェと呼ぶようになりました。今でもビーチサンダルや普通のサンダルも、メキシコでは『Huarache=ウワラチェ』で通じます。

極めて危険で過酷なレースの世界で、最新テクノロジーを駆使したシューズで挑んだ選手たちがリタイアする中、濡れた路面や崖をものともせずにトップスピードで駆け抜けてゆく、ウワラチェ姿のララムリ達の姿は映像でも目を見張るものがあります。
ララムリについての本の中で、著者のクリストファー・マクドゥーガルはこう記しました。

Running shoes may be the most destructive force to ever hit the human foot.
ランニングシューズは人間の足にとって最も破壊的なものである

人の体の持つ本来の力を遺憾なく発揮するララムリ族と、かつての日本人。
自分の先祖たちとメキシコの優れた人々の共通点と、その人たちの持つ、私達の忘れてしまった知恵と力について。
あれこれと思い巡らせる、お正月のひと時でした。

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