「きのう、何読んだ?」(2024/5/12-2024/5/16)
久しぶりのフルで働く一週間。読書は睡眠時間を削りながら……。とか言って、ランチはしっかり食べてますね。改めて写真を見返すと麺類ばかり。冷やししぐれ辣麺がはじまってうれしい。
トップ画像は、3歳の甥がくれたお手紙。お返事を書かなければ(うきうき)。
『われら闇より天を見る』2024/5/12(日)読んだ本
「きのう、何読んだ?」
数ある文学賞の中でも、本屋大賞は「読みやすさ」「今っぽさ」が抜群にあると思っています。
とはいえ、そこまで文学賞に詳しいわけでもなくしっかりチェックしているとは言えない私。2024年の本屋大賞発表を見て、「あれ、翻訳部門なんてあったっけ?」なんてお間抜けな驚きが。
2024年本屋大賞翻訳小説部門受賞は、『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(ファン・ボルム著、牧野 美加訳/集英社)。私はこの本が大好きで、2023年のベストブック10選に選んだほど。そんなお気に入りの本が受賞しているのを見て、やっとこの部門の存在に目を向けたのでした。
そして、2023年の受賞作がこちら。
『われら闇より天を見る』(クリス・ウィタカー著、鈴木恵訳/早川書房)
原題は、『We Begin at the End』。「終わりから始める」しかなかった人々の運命の残酷さ・決断のゆくえが、カリフォルニアの海沿いの街とモンタナ州の広大な農園を舞台に、どこかセピア色を纏って描かれます。
15歳の時に、恋人の妹を過失により殺してしまった男ヴィンセント。その男の親友で、彼の戻りをずっと待っている実直な警察官ウォーク。妹と母を相次いで亡くし、心が壊れてしまったスター。スターの娘で、一人で幼い弟を守ろうとするダッチェス…。
いわゆる「親ガチャ」大失敗の主人公・ダッチェス13歳の、「私は無法者よ」という口癖が…あまりに悲しい。人生に期待するのをあきらめてしまっている彼女の救済を、周囲の大人一人一人に感情移入するようにして願いながら読みました。
著者のクリス・ウィタカー自身、順風満帆とはいえないキャリアをサバイブしてきた作家。本書も、ティーンの頃に暴漢に襲われたことをきっかけに陥ったPTSD克服のため、執筆療法として20年以上かけて書き続けていた断片をまとめたものだと言います。なんといいますか、小説家になるべくしてなったという感じですね。
本屋大賞翻訳小説部門受賞作、未読のものが何冊かあったので読み進めるのが楽しみです!
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『木挽町のあだ討ち』2024/5/13(月)読んだ本
「きのう、何読んだ?」
こんなに気持ちよく乗せられて、悩まされて、「あぁ!」と最後には膝を打つ(タイトルが…!)作品はなかなかありません。素晴らしいミステリ、いえここは敢えて「世話物」と呼びたい。
『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子/新潮社)
第169回直木賞、第36回山本周五郎賞受賞は伊達じゃない。この痛快さ、ぜひ味わってみてほしいです。
江戸の芝居街「木挽町」で起きた、お芝居のように華麗な仇討ち。白皙の美少年が、父を殺した憎き仇を討ち取ったりーー。事件の二年後、若い侍が仇討ちの話を聞きたいと木挽町を訪れる。芝居小屋の客引き、剣術指南役、衣裳部屋で働く女形……事件を目撃していた芝居者たちの話から、思わぬ真実が炙り出されていきます。
これはいわゆる「藪の中」形式の物語だなと思いながら読み進めました。一つの事件について、目撃した者それぞれが語る。そしてその内容が少しずつ違う……あれあれなんで?というミステリなのかなと。でも違いましたね。これはネタバレなしに読んでほしいので、内容についてはここまで。
永井さんは着物がお好きなようで、インタビューにもよく着物で登場されます。以前どこかの新聞で、着物生活について書いてらしたような。私も最近着物ブームなので、写真を色々見るのがも楽しい🤍
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『男たちの部屋: 韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』2024/5/14(火)読んだ本
「きのう、何読んだ?」
ずっと読もう読もうと思って積読になっていた一冊。久しぶりにリアルで性風俗店の話をする機会があり、手に取りました。
『男たちの部屋: 韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』(ファン・ユナ著、森田智恵訳/平凡社)
「n番部屋事件」や「バーニングサン事件」で暴露された、韓国の「遊興店」(クラブやキャバクラのような場所)やオンラインコミュニティの実態。男性の快楽のために女性を商品化する社会構造と人々の意識を解き明かす一冊です。
「危ないところだと分かっていて来る女性が悪い」
「対価を払っているから問題ない」
「女性だって得してる」
いろいろな言い方で、こういった場所を擁護する声は世間に溢れています。しかしそれを「自分こそロジカル」と言わんばかりの顔で口にする人を目撃するたび、虫酸がはしる。
本書のポイントは、テーマが「男の部屋」ではなく「男たちの部屋」であること。複数人で集い、共通のターゲットを持つことで、ホモソーシャルな空間が生まれる。そこで秘密を持ち合ったり、どれほどお金が遣えるかを競ったりすることで、男たちは連帯するのだと著者は主張します。
「そういうものでしょ」としたり顔で話を閉じる前に、もう一歩踏み込んで考えるべき問題があると思います。
興味のある方はぜひ、n番部屋事件を追った女子大生の記録、『n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録』もぜひ。
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『不機嫌な英語たち』2024/5/15(水)読んだ本
「きのう、何読んだ?」
世界的な指揮者・作曲家であるレナード・バーンスタインと二人の日本人の交流を追った『親愛なるレニー: レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』で河合隼雄物語賞などを受賞された吉原真里さん。
『親愛なるレニー』が素晴らしすぎて、吉原さんの自叙伝的エッセイ(私小説になるのでしょうか?)があるのを知って飛びつきました。しかも、水村美苗さん推薦✨
『不機嫌な英語たち』(吉原真里/晶文社)
アメリカ、ハワイ、日本で暮らした吉原真里さんの、幼少期から現在までの「文化と私」「言語と私」をテーマにしたエッセイ。英語との出会い、2言語話者となってからのアイデンティティのあり方など…。彼女の感性や興味関心が、どのように育まれたのかが小さなエピソードからもビビットに伝わって来る一冊です。不機嫌で、意地悪で、気まずくて、いとしい世界。
この本を勧めたい人、今パッと思い浮かべただけでも5人はいます…!!
改めて、自分自身や自分がいる環境を相対化する体験は大事だなと。それが頭が柔らかい時期であるほど、きっと良いのだろうな。私にはそういう経験は希薄だったので、なんだか悔しいです。翻訳家の方や2言語使う方の書くものって視点も視座も違う気がします。
1968年生まれの吉原さん。これからまだまだたくさん執筆してくれることを期待しています!
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『異界を旅する能 ワキという存在』2024/5/16(木)読んだ本
「きのう、何読んだ?」
抜けられぬモヤモヤ、不安定な体調、ハネる髪。あぁ、人生ってままらならない…。あまり俗っぽいものを読む気力がなく、そして週末に能を見に行く予定があることから、安田登さんの本を手に取りました。
『異界を旅する能 ワキという存在』(安田登/ちくま文庫)
能楽師であり、NHK「100分de名著」の平家物語や太平記の回で講師をつとめたこともある安田登さん。能にとどまらない日本の古典全般にまつわる著書を多数執筆されています。私は、『見えないものを探す旅』『あわいの力』や内田樹さんとの共著『変調「日本の古典」講義』が特に好き。
『異界を旅する能〜』は、脇役と捉えられがちな「ワキ方」の視点から能の世界観を分析する一冊。
能は、他の古典芸能と比較しても「物語の形」がかなりしっかり固定されています。「ワキ(面をつけず、地味な装束で舞台上でもあまり動かない)」がある場所に行きがかり、「シテ(面をつけ、舞台上で舞ったり跳ねたり目立つ動きをする)」と出会う。シテが語りだし、しばらくすると正体(亡霊的なもの)を現して舞を舞う。ワキとシテの出会いにより舞台は異界に入り込み、幻想的な空気に辺りがつつまれる……。
「なぜワキは異界に出会うのか?」
舞台で目立っているのはシテであり、ワキはシテの話を引き出す存在です。(安田さんはワキ方)そんなワキの視点で、「異界との出会い」という定型が意味するものを解き明かしていく安田さんの道行は、壮大な謎解きのよう。
「異界との出会いは、今の人生をリセットし、生き直すということ」という一節には、ついページを捲る手を止めてしまいました。
公認ロルファー(アメリカ発祥のボディワーク術。吉本ばななさんのパートナーもロルファー)として、身体術・体にまつわる著書もいろいろ。(内田樹さんと相性がよいわけですよね😚)そちら方面だと、『日本人の身体』が面白かったです。
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