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リストラ注意報

ふぉんふぉんと、不穏な音がフロアに鳴り響く。

“リストラ注意報”のサイレンだ。

丸閥不動産では、リストラ候補者の危機感を煽る施策を導入した。
黄色いランプは注意報、赤いランプは警報だ。警報は当日中に結果を出さないと、リストラが宣告される。

今回の候補者は営業ニ課の薄田だ。

「薄田さん、頑張って下さい」
後輩の金成が声を掛けた。

薄田は課長の剛田に口答えした結果、不毛地帯と言われるA地区の担当を割り当てられた。嫌がらせなのは、誰の目にも明白だった。

同僚は皆、薄田の努力を知っている。毎日朝から晩まで、人が動いている時間なら、個人宅でもビルでも飛び込み続けた。しかし、結果が出ない。この半年は給料泥棒の状態だ。

三日後、不穏な音と共に、赤いランプが回った。
その日も朝から薄田は外を走り回っていた。同僚達は、薄田を想い、祈る。

終業直前、剛田の携帯が鳴った。
「良くやった」と言って、剛田は電話を切った。

しばらくして、警報は鳴りやんだ。


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