マガジンのカバー画像

水深六千メートルで息継ぎをしている

6
書き殴りで、覚えておきたいことをしたためてみます。
運営しているクリエイター

記事一覧

飛行機雲が見える

飛行機雲が見える

 無事に年を明かして4日目が経った。何か書く事はと考えていたけれど、対して深く考えることはなく、それはそれで良いことだ。
 かと言って筆を取らないと、いつの間にかまた2年くらい文字を放ったらかしにしそうなので、脳みそをこう、あの年末掃除の時の水浸しの雑巾を震える手でひねるように、こう、何か書いてみようと思う。

*

 今年は喪中であった。自分だけかと思っていたが友人も喪中で、なんとなく「そうだっ

もっとみる
優しい音が聴こえる丘で

優しい音が聴こえる丘で

 すっかり寒くなった。家を出たときに思い切り白い息を吐くのは、大人になっても楽しい。
 住んでいる街にはまだ紅葉した樹木が立ち並んでいる。毎年いつのまにかなくなっているイチョウの葉っぱは、落ちた後どこにいくんだろうと考えながら踏み歩いている。
 去年よりほんの少し、ゆったりと優しい気持ちで冬を越せそうだと思う。

 こうやって穏やかに居られるのは、ひとえに絵や、私自身を好きでいてくれる人のおかげだ

もっとみる
さよならのかわりに。

さよならのかわりに。

 今週、母方の祖母が亡くなった。
 ピンクのガーベラと種類の様々な白い花の供花に囲まれ、棺桶も薄ピンク色と、可愛らしい斎場で見送った。
 最後に、ひとつひとつ、花を棺桶に入れていく瞬間は、不謹慎かも知れないけれど、なんて美しい儀式なんだと思った。
 焼き場に向かう途中の、夕陽に照らされた木々の紅葉がとてもきれいで、冬枯れの景色じゃなくてよかったねと母と話した。

 ようやくぼうっと考える時間ができ

もっとみる
あの日投げた銀の首飾

あの日投げた銀の首飾

 誰かの1番になりたいと思った事は何度かある。

 ひとつ、うら若き少年少女に言っておきたい事は、大人になってもそれをときどき、強く望む日があると言う事だ。

 酒もろくに飲めないで大人になった。「飲めたらどんなに良いだろう」と、誰にどれくらい言ったか分からないほど方々で愚痴っている。
 頭の中は考え事でいっぱいなのに、話せる場所がなくて、こんな場所で、出鱈目であてのない文章を書いている。どうしよ

もっとみる
走り書きのおるもすと

走り書きのおるもすと

 なんだか「おるもすと」を読まなければならないという衝動に駆られている。吉田篤弘さん著の隠れた名作である。

 冒頭はこうである。

 2年前、この一節が頭の中から離れず、数時間あれば読み終える程の短い物語を、1週間かけて丁寧に読んだ。
 終わりのない「終わり」の物語である。
 最後には見事なまでに、ささやかで美しいエンドロールが流れる。曰く、曲はキース・ジャレットの「My Wild Irish

もっとみる
身の回りと甘酸

身の回りと甘酸

「大事なことは大事にできたら」という曲がある。
最近は特に、そう思うことが増えた。

 今年の8月に、悶々と苦しかった縁を切った。
 自分の大切なものを、大切だと言えなくなっていた。会いたい人に会いたいと言えずにいた。
 だから、相手を責めてもよいだろうというタイミングを見計らった。我ながら最低だったと思う。少しの猶予を与えても、理解などされず、私も理解などしなかった。
 残ったのはお互いを傷つけ

もっとみる