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2021年6月の記事一覧

言葉を無くして

気づけば言葉を失っていて
もう話すことも
聞くこともできない

言葉はない
あるのは一般と
普通と当たり前と
情感
気持ちよさ

落としてしまったのか
それとも奪われてしまったのか
あるいは自ら捨てたのか

いずれにしたって言葉はもう
どこにもなくて

話はできない

一つとして
聞こえない

許してくれずに

風飼いたいなと思っても
風はそのこと許してくれずに

雲食みたいなと思っても
雲はそのこと許してくれずに

雨溶けたいなと思っても
雨はそのこと許してくれずに

影剥ぎたいなと思っても
影はそのこと許してくれずに

遠くへ遠くへ消えていく

気づけば

気づけば大気のなかにいて
きゃあきゃあ笑ってられました

気づけばお水のなかにいて
溺れず泳いでられました

気づけばお家のなかにいて
服もご飯もありました

気づけば校舎のなかにいて
問題ぜんぶ解けました

気づけば医院のなかにいて
胃薬ひとつで済みました

気づけば人らのなかにいて
言葉は通じておりました

気づけば自分はここにいて
ただただここにおりました

ただただここにおりました

不安になった

見たことのない鳥を見て
見たことのない月を見て

見たことのない雲を見て
見たことのない虹を見て

見たことのない花を見て
見たことのない虫を見て

有無

朝日は期待を押しつけられて
雨は悲しみを握らされた

肉体は役割を孕まされて
立っている場所は価値に変わった

存在の親は科学に代わって
存在の子は希望となった

言葉はどれも裏返されて
すべての行為は意味となった

あるは全部ないになった
ないは全部あるになった

汚して

風に揺られる花を眺めて
美しさってもので汚して

海のにおいと波音触れて
心地よさってもので汚して

空に向かって腕を広げて
気持ちよさってもので汚して

時間をじっくり味わい飲んで
満足感ってもので汚して

滴る汗を甲で拭って
価値や義務ってもので汚して

すべてに向かって笑みをこぼして
意味ってものでひどく汚して

それから幸福なんてもので汚した


花開いたあとの
その見目形と色彩と
においと美しさで殺し合うもの

形が違っているだけで
虫喰う生き物みたいに雨は呑むし
痛みを見て笑う瞳みたいに輝くし


もし咲かなければ
色も形も失ってしまうもの
容赦なく殺されてしまうもの

理想幸福綺麗によさと
こんなにも言葉で飾られた
種になっても結局は
同じものを孕んでる

幽霊

人を見ているつもりになって
ほんとに見てたの
言葉の意味で

存在触れてるつもりになって
実際触れたの
それらの定義

存在なんて実際は
これっぽっちもありはしなくて

話して分かることなんて
目にして分かることなんて
響いた言葉の意味と定義と
こびりついてる観念ばかり

ほんとは一つも
分かりはしない

存在なんてどこにもいない
目には一切映らない

輝くことを強いられて

気づいたときにはもう
輝くことを強いられていて

人工の光羽織らされ
その眩しさで数字にされる

光れ輝けと
決められた光度になるまで調整させられ
仮に達することができなければ

あるいはその光の熱に耐えかねて
もう少しぬるい輝きのほうへと
袖を通そうとすれば

たとえば透明にされたり
あるいは睨まれたり
もしくは名前が不幸になったり

肉体がまとっていた
星や月の影のような
あの自然な瞬きや

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