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伊藤緑
2019年9月11日 13:53
目が合えば、スーツを着た女の人は足早に去っていった。雨足が強くなっていく。公園の芝は水を吸い、街灯の白い光で淡くきらめいていた。ベンチに腰掛けたまま上げていた顔を下ろしたら、胸がひざにくっついて。重たい頭。こみ上げてくる胃液。また吐いた。吐いて、雨に濡れた手の甲で口元を拭えば、肌がぬるり。口からアルコールが蒸発していくような気がした。 ちらつく。こずえの下に溶けていった黒い背中が。彼女の手に
2020年9月14日 20:03
人間は幸せになるために生まれてきたんだって、人は私に微笑みました。 でも、理解できませんでした。受け入れられませんでした。無理して、呑み込むことも。 生まれてきたことに、意味なんてないんですから。人は、気づいたらそこにいたに過ぎません。たまたま、私というものが産み落とされただけに過ぎないんです。誰も、自らの意志で卵子を目指し泳いだわけじゃない。精子をそっと抱き締めたわけじゃない。産道を下