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『世界史の針が巻き戻るとき』でABD①

『世界史の針が巻き戻るとき』(マルクス・ガブリエル著)で、オンラインのABDを行いました。はじめての哲学書のABDでしたが、本書は古典に比べて読みやすく、また社会学的な要素も強いように感じました。

 本書でまず特徴的に思えたのは、トランプと習近平を例に挙げてポストモダンの問題点を論じているところでした。

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 このことを発端にして、ニーチェの想定した「超人」と「トランプ」「習近平」が深くかかわっていること、そしてこのような事態から脱却したい筆者の思想が見えてきました。考えてみると、1990年代、2000年代のポップカルチャー(『新世紀エヴァンゲリオン』や『世界に一つだけの花』)などにも、「境界線の崩壊」や「すべてに価値がある=すべてに同等に価値がない」という、ポストモダンの思想が見て取れるのです。このような世界では、道徳や倫理はもはや必要なくなり、「力」だけが残ります。(規範がないSNSもその典型かもしれません)。筆者は新しい実在論を唱えてこの危機を乗り越えようとしています。

 本書によれば、新しい実在論は、「あらゆる物事を包摂するような単一の現実は存在しない。現実は1つではなく、数多く存在する。」「私たちは現実をそのまま知ることができる」という2つのテーゼによって成り立っています。そして「対象は、意味の場に存在」します。「意味の場」とは、特定の解釈をする際、対象をいかに配列するかということを意味します。

 原理的に現実はアクセス可能なのものだと筆者は述べています。私たちをとりまく相対主義やフェイク、バーチャルとリアルの混沌からいかに現実や真実にアクセスしていくのか、本書は私たちにそのビジョンを示してくれているように思いました。

 コロナウイルスを取り巻く現実も、意味の場と対応させてみると、それぞれの個人が話す内容も理解しやすくなるのかもしれません。それぞれの立場によって見える現実は大きく異なるからです。

(続く)



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