山田貴文

・最新のショートショート。怪作です。「十七歳」(2023/6/11) ・ショートショー…

山田貴文

・最新のショートショート。怪作です。「十七歳」(2023/6/11) ・ショートショート書きました。すぐ読めます。ニヤリとする話:「猫と筆談(1)〜(3)」、「ごんぎつね、その後」。ももクロをモデルにしたせつない話:「途中」。実体験から:「酔っぱらい課長の話」

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【連作短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第1話

早くいなくなれとは思っていたが、本当に灰田課長が死んでしまうとは。ぼくは何とも複雑な心境だった。 月曜日の朝、一番早く出社した先輩社員の柿谷さんが見つけたのだ。課長は自席で電話の受話器を握ったまま死んでいた。いったい誰と話していたのか?しかも、その表情が凄かったそうだ。信じられないといった驚愕の表情を浮かべていたと。 ポロシャツ姿だったため、日曜日に休日出勤してそのまま事切れたようだった。営業部は騒然となった。ぼくが出社した時、既に課長は死後硬直のまま病院へ運ばれた後だっ

    • 【ショートショート】譲るべきもの

      コーヒーの香りがしなかった。 ダイニングテーブルで妻と向かい合っている。目の前のコーヒーより妻が飲んでいる紅茶の方に目が行ってしまう。そちらの匂いだけが彼の鼻孔に流れ込んでくるようだ。 「どうするの?」 能面のような顔で妻が言った。 「・・・・・・」 「処分しないなら、私が出て行くから」 マッチングアプリで知り合って2ヶ月。いわゆるスピード婚だったが、彼はどうしても結婚したかった。ルックスが完全に彼好みだったのだ。 貯金をはたいて頭金を準備し、彼女が新居に欲しが

      • 【ショートショート】同窓会

        SNSにアップされた写真を見て、彼はうわっと叫んだ。 彼が行けなかった同窓会。写真に写った同い年の同窓生たちがあまりに老け込んでいたのである。 会社の定年が近づいた現在。写真に写っている大学の同級生たちは皆結婚し、子供を育て上げていた。孫がいる者もいる。 彼自身は一度結婚に失敗してから独身のままだ。ここ十年は女性アイドルグループにはまり、ライブだイベントだと楽しんでいる。このグループは老若男女を問わず幅広い年齢層から支持されていることが特徴だ。また、ファン同士がたいへん

        • 【ショートショート】営業という仕事

          「お願いしますよ。社内手続きに見積書がいるんです」 「あっ、料金は前回と同じです」 「いや、御社の社印と今月の日付が入った見積書が必要です」 今どき社印かよ。どれだけ時代遅れなんだ。 「ではファイルで、PDFでいいですか?メールで送りますけど」 「申し訳ないです。うちは社内手続きに紙の見積書が必要なんです」 本当にめんどくさい客だぜ。 私はとあるメーカーの営業マン。大型機械を販売している。ある分野において、我が社は性能と価格の安さで他の追随を許さない。今、電話を

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          【ショートショート】還付金

          「申し訳ございません。私どものミスで、本来あなたが受け取るべきお金をお渡しできていなかったのです」 スーツ姿の男性は彼に頭を下げた。 気がつくと、彼は応接室のような場所にいた。自宅で夕食を食べ終え、シャワーを浴びようとしていたのだが。 これは夢ではない。目の前の男性はいわばあの世の役人である。何らかのミスで、本来彼がこの世で受け取るべきお金を受け取り損ねていたので、その謝罪と補償のためここに呼び出されている。 彼はなぜか自分がおかれている状況を一気に理解した。 「そ

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          【ショートショート】猫と親父

          本当にあった話。 猫は父の最後の友達だった。 一人暮らしの父の話し相手になり、一緒にテレビを見て、夜は同じ布団で寝た。 ある時。父を訪ねた私が帰り際に猫へ「父ちゃんを頼むぞ」と話しかけていたら、父にそれを見られていた。 「俺のことを猫に頼むやつがあるか。馬鹿野郎、この」 と、苦笑まじりに怒られたっけ。 やがて病気が悪化した父は施設に入所し、猫は妹一家に引き取られた。 愛くるしくて性格のよい猫は皆に可愛がられた。 数年後の深夜。 猫が狂ったように大騒ぎして、寝

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          まだ見ぬケンジ【2/2】後編

          (前のエピソード) まだ見ぬケンジ【2/1】前編 午後になって、作成した提案書を前に私は考え込んでいた。内容には、特に問題がない。誰が作っても、こうなるだろう。提案する我が社の製品を導入した方がコストが下がり、機能もアップする。普通であれば、何の問題もなく売れるケースだ。  普通であればというのは、夕方訪問する顧客が普通じゃないのだ。初老の担当者は仕事が嫌いみたいで、使用中の他社製品から我が社のそれへ切り替えることを面倒くさがっていた。コストが下がろうが、社員の生産性が向

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          まだ見ぬケンジ【0/2】あらすじ

          こちらは創作大賞応募用のあらすじです。ネタバレを含みますので、読者の方は読まないでください。面白くなくなります。これを読まずに  まだ見ぬケンジ【1/2】前編 からお読みください。 (あらすじ)  IT企業の営業である中川喜代美は三十二歳の独身女性。最近、夢で自分の息子とよく会う。なぜか名前がケンジということがわかっている。ある日、ついにケンジは喜代美の会社に三歳児の姿で現れた。喜代美以外には誰にも見えないらしい。さらに、休日の美術館では喜代美と同い年のケンジと会う。彼はい

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          まだ見ぬケンジ【1/2】前編

           最近よく息子の夢を見る。名前をケンジと言う。 健司か憲二か、それとも別の字なのかはわからない。 なぜなら、ケンジはまだ生まれていないからだ。  と言って、私が妊娠しているわけでもない。三十代前半だが未婚だし、もちろん出産経験もない。  しかし、夢に出てくる男の子は間違いなく私の子なのだ。なぜか名前がケンジだということもわかっている。  柔らかいブルーのベビー服に包まれたケンジは、じっと私を見つめている。 とても優しい目。その笑顔は、この世の幸せと喜びをすべて吸い込んで

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          恋の至近弾【8/8】エピローグ

          (前のエピソード) 恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?  恋愛体験を語った男女はすべて部屋を出た。残ったのは師匠と弟子のみ。 「師匠、ありがとうございました。勉強になりました」 「じゃっ、彼らの面倒を見てもらうよ」 「えっ、今日は話だけじゃなかったんですか?」 「いや、実際に指導霊をやってもらう。きみならできる」 「全員ですか?」 「もちろん」 「いきなり四人はつらいな」 「五人だ」 「初恋が実った大川さんに女狂いの相羽さん、高望みの村山さん、そ

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          恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?

          (前のエピソード) 恋の至近弾【6/8】恋の至近弾 「さて、最後だ」 「今度はどんなパターンでしょうか?」 「これぞ純愛というのがいるらしい。私も詳しいことは知らない」 「最初の大川さんは違うんですか?」 「あれは単なる幼い恋だ。言っておくが、最後の村山さんも違う」 「まあ、彼は純愛を求めているんですよね。なかなか手に入らないみたいですけど」 「百聞は一見にしかず。まあ、話を聞いてみよう。どうぞお入りください」  ドアが開き、男が入ってきた。これまでで一番若い

          恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?

          恋の至近弾【6/8】恋の至近弾

          (前のエピソード) 恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)  村山信太郎です。相羽と同じ会社に勤めておりまして、同期です。たぶん、彼は私の話もしたのではないでしょうか? 「おお、あのストイックな」 「相羽さんは、あなたをやたらとライバル視していましたね」  正直、彼とは同僚だから最低限の付き合いをしているに過ぎません。友人と呼べるほど仲良くないのが正直なところです。あまり人としても、好きではありませんし。  別に私は女嫌いというわけではないのですが、相羽とは対極

          恋の至近弾【6/8】恋の至近弾

          恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)

          (前のエピソード) 恋の至近弾【4/8】カサノバの夕べ(前編)  そんな毎日でしたから、とにかく会社が嫌で嫌で仕方ありませんでした。まず始めたのは転職活動です。複数の転職あっせん会社に登録し、片っ端から面接を受けました。しかし、条件が合わず、これといった会社にはなかなかめぐり合うことができませんでした。勤めている会社にはすっかり嫌気がさしていましたが、だからと言って、給料を極端に下げてまで転職する気にもならなかったのです。その頃勤めていた会社は、明らかに給与水準が高かったの

          恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)

          恋の至近弾【4/8】カサノバの夕べ(前編)

          (前のエピソード) 恋の至近弾【3/8】初恋は美しすぎて(裏面) 相羽秀樹です。物心ついた時から、私は妙にモテました。 「いきなり、かましてくれたな」 「ははは。楽しみですね」  初体験は中学二年でした。 「今日は下ネタの日ですか?」 「そういうわけじゃないけど」  中学時代は、完全な不良ではないのですが、ちょいワルでした。これが、その頃の写真です。 「どれどれ。これもまた、いい男ですねえ。はあ、ぼくの友達には絶対いないタイプですよ」 「初体験の相手は同級生

          恋の至近弾【4/8】カサノバの夕べ(前編)

          恋の至近弾【3/8】初恋は美しすぎて(裏面)

          (前のエピソード) 恋の至近弾【2/8】初恋は美しすぎて 大川さやか、旧姓は岸谷さやかです。  私たちの話を聞いてくださって、ありがとうございます。私が今から申し上げることは、たぶん主人が言ったことと違うところがあると思います。 「はい」 「詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」  はい。私の母は小学校三年の時に病気で亡くなり、その三年後に父は後妻、今の母と再婚しました。私は一人っ子です。  新しい母は決して悪い人ではありませんでしたが、私はひたすら反発し続けま

          恋の至近弾【3/8】初恋は美しすぎて(裏面)

          恋の至近弾【2/8】初恋は美しすぎて

           (前のエピソード) 恋の至近弾【1/8】プロローグ  大川洋介です。あれは中学の入学式でした。  新しい生活が始まったその日に、あの子に恋に落ちました。色白でおかっぱ頭。目鼻立ちが整った可愛い子でした。 名前を岸谷さやかと言いました。  同じクラスになったのですが、男子の中で彼女はダントツで一番人気でした。私はその頃、勉強もスポーツもクラスで上位の方でしたし、ルックスも自分で言うのは何ですが、悪くなかったと思います。その頃の写真がこれです。 「へーっ、格好いいなあ。

          恋の至近弾【2/8】初恋は美しすぎて