山田貴文

・最新のショートショート。怪作です。「十七歳」(2023/6/11) ・ショートショー…

山田貴文

・最新のショートショート。怪作です。「十七歳」(2023/6/11) ・ショートショート書きました。すぐ読めます。ニヤリとする話:「猫と筆談(1)〜(3)」、「ごんぎつね、その後」。ももクロをモデルにしたせつない話:「途中」。実体験から:「酔っぱらい課長の話」

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【連作ドタバタ短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第4話

ー第3話はこちらー それからも課長は会社へ出現した。代行の黄林主任が課長席に座ると必ず課長が現れて黄林さんを突き飛ばしてどかし、そこに座るのだ。回を重ねるごとに小柄な黄林さんは遠くに飛ぶようになってしまい、さすがに命の危険がと、彼はもう座らなくなった。 実務上で困ったことは会社の捺印手続きである。うちの会社は電子化が遅れていて、各種承認手続きはいまだに書類へ物理的な印鑑を押さなくてはいけない。 そして課長が幽霊になって以来、課長承認欄があるすべての書類にはいつの間にか灰

    • 【連作ドタバタ短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第3話

      ー第2話はこちらー 得意先の応接室で担当者を待っている間、ぼくは柿谷先輩と小声で商談の打ち合わせをした。課長の幽霊に気を取られて、何も準備ができていなかったのだ。作ろうと思っていた資料もできていない。今日は口頭でごまかそうということになった。全く迷惑な話だ。 担当者が入ってきた。ぼくたちは立ち上がる。担当者は、まず私たちに深々と一礼した。 「灰田課長の件、お悔やみ申し上げます」 「ありがとうございます」 課長の声。隣を見ると私たちと一緒に頭を下げていた。 「どわー

      • 【連作ドタバタ短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第2話

        ー第1話はこちらー 翌日。告別式に課長の幽霊は現れなかった。やはり素人の私たちとは違って、本物の坊さんが上げるお経は効果絶大なのか? 式の前に柿谷先輩とぼくは坊さんへ昨日あったことを話し、助力を仰いだ。すると相当たちが悪い霊のようなので自分では力不足だ、紹介状を書くのでそちら方面に強い僧侶に相談して欲しいとのことだった。悪霊払いに経験と実績がある方がいるそうだ。 それにしても、人がまわりの人たちからどう思われていたかは葬儀で如実に表れる。ぼくはこれまで、こんなに閑散とし

        • 【連作ドタバタ短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第1話

          早くいなくなれとは思っていたが、本当に灰田課長が死んでしまうとは。ぼくは何とも複雑な心境だった。 月曜日の朝、一番早く出社した先輩社員の柿谷さんが見つけたのだ。課長は自席で電話の受話器を握ったまま死んでいた。いったい誰と話していたのか?しかも、その表情が凄かったそうだ。信じられないといった驚愕の表情を浮かべていたと。 ポロシャツ姿だったため、日曜日に休日出勤してそのまま事切れたようだった。営業部は騒然となった。ぼくが出社した時、既に課長は死後硬直のまま病院へ運ばれた後だっ

        【連作ドタバタ短編】幽霊課長(こちら第一営業部①)第4話

          【ショートショート】譲るべきもの

          コーヒーの香りがしなかった。 ダイニングテーブルで妻と向かい合っている。目の前のコーヒーより妻が飲んでいる紅茶の方に目が行ってしまう。そちらの匂いだけが彼の鼻孔に流れ込んでくるようだ。 「どうするの?」 能面のような顔で妻が言った。 「・・・・・・」 「処分しないなら、私が出て行くから」 マッチングアプリで知り合って2ヶ月。いわゆるスピード婚だったが、彼はどうしても結婚したかった。ルックスが完全に彼好みだったのだ。 貯金をはたいて頭金を準備し、彼女が新居に欲しが

          【ショートショート】譲るべきもの

          【ショートショート】同窓会

          SNSにアップされた写真を見て、彼はうわっと叫んだ。 彼が行けなかった同窓会。写真に写った同い年の同窓生たちがあまりに老け込んでいたのである。 会社の定年が近づいた現在。写真に写っている大学の同級生たちは皆結婚し、子供を育て上げていた。孫がいる者もいる。 彼自身は一度結婚に失敗してから独身のままだ。ここ十年は女性アイドルグループにはまり、ライブだイベントだと楽しんでいる。このグループは老若男女を問わず幅広い年齢層から支持されていることが特徴だ。また、ファン同士がたいへん

          【ショートショート】同窓会

          【ショートショート】営業という仕事

          「お願いしますよ。社内手続きに見積書がいるんです」 「あっ、料金は前回と同じです」 「いや、御社の社印と今月の日付が入った見積書が必要です」 今どき社印かよ。どれだけ時代遅れなんだ。 「ではファイルで、PDFでいいですか?メールで送りますけど」 「申し訳ないです。うちは社内手続きに紙の見積書が必要なんです」 本当にめんどくさい客だぜ。 私はとあるメーカーの営業マン。大型機械を販売している。ある分野において、我が社は性能と価格の安さで他の追随を許さない。今、電話を

          【ショートショート】営業という仕事

          【ショートショート】還付金

          「申し訳ございません。私どものミスで、本来あなたが受け取るべきお金をお渡しできていなかったのです」 スーツ姿の男性は彼に頭を下げた。 気がつくと、彼は応接室のような場所にいた。自宅で夕食を食べ終え、シャワーを浴びようとしていたのだが。 これは夢ではない。目の前の男性はいわばあの世の役人である。何らかのミスで、本来彼がこの世で受け取るべきお金を受け取り損ねていたので、その謝罪と補償のためここに呼び出されている。 彼はなぜか自分がおかれている状況を一気に理解した。 「そ

          【ショートショート】還付金

          【ショートショート】猫と親父

          本当にあった話。 猫は父の最後の友達だった。 一人暮らしの父の話し相手になり、一緒にテレビを見て、夜は同じ布団で寝た。 ある時。父を訪ねた私が帰り際に猫へ「父ちゃんを頼むぞ」と話しかけていたら、父にそれを見られていた。 「俺のことを猫に頼むやつがあるか。馬鹿野郎、この」 と、苦笑まじりに怒られたっけ。 やがて病気が悪化した父は施設に入所し、猫は妹一家に引き取られた。 愛くるしくて性格のよい猫は皆に可愛がられた。 数年後の深夜。 猫が狂ったように大騒ぎして、寝

          【ショートショート】猫と親父

          まだ見ぬケンジ【2/2】後編

          (前のエピソード) まだ見ぬケンジ【2/1】前編 午後になって、作成した提案書を前に私は考え込んでいた。内容には、特に問題がない。誰が作っても、こうなるだろう。提案する我が社の製品を導入した方がコストが下がり、機能もアップする。普通であれば、何の問題もなく売れるケースだ。  普通であればというのは、夕方訪問する顧客が普通じゃないのだ。初老の担当者は仕事が嫌いみたいで、使用中の他社製品から我が社のそれへ切り替えることを面倒くさがっていた。コストが下がろうが、社員の生産性が向

          まだ見ぬケンジ【2/2】後編

          まだ見ぬケンジ【0/2】あらすじ

          こちらは創作大賞応募用のあらすじです。ネタバレを含みますので、読者の方は読まないでください。面白くなくなります。これを読まずに  まだ見ぬケンジ【1/2】前編 からお読みください。 (あらすじ)  IT企業の営業である中川喜代美は三十二歳の独身女性。最近、夢で自分の息子とよく会う。なぜか名前がケンジということがわかっている。ある日、ついにケンジは喜代美の会社に三歳児の姿で現れた。喜代美以外には誰にも見えないらしい。さらに、休日の美術館では喜代美と同い年のケンジと会う。彼はい

          まだ見ぬケンジ【0/2】あらすじ

          まだ見ぬケンジ【1/2】前編

           最近よく息子の夢を見る。名前をケンジと言う。 健司か憲二か、それとも別の字なのかはわからない。 なぜなら、ケンジはまだ生まれていないからだ。  と言って、私が妊娠しているわけでもない。三十代前半だが未婚だし、もちろん出産経験もない。  しかし、夢に出てくる男の子は間違いなく私の子なのだ。なぜか名前がケンジだということもわかっている。  柔らかいブルーのベビー服に包まれたケンジは、じっと私を見つめている。 とても優しい目。その笑顔は、この世の幸せと喜びをすべて吸い込んで

          まだ見ぬケンジ【1/2】前編

          恋の至近弾【8/8】エピローグ

          (前のエピソード) 恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?  恋愛体験を語った男女はすべて部屋を出た。残ったのは師匠と弟子のみ。 「師匠、ありがとうございました。勉強になりました」 「じゃっ、彼らの面倒を見てもらうよ」 「えっ、今日は話だけじゃなかったんですか?」 「いや、実際に指導霊をやってもらう。きみならできる」 「全員ですか?」 「もちろん」 「いきなり四人はつらいな」 「五人だ」 「初恋が実った大川さんに女狂いの相羽さん、高望みの村山さん、そ

          恋の至近弾【8/8】エピローグ

          恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?

          (前のエピソード) 恋の至近弾【6/8】恋の至近弾 「さて、最後だ」 「今度はどんなパターンでしょうか?」 「これぞ純愛というのがいるらしい。私も詳しいことは知らない」 「最初の大川さんは違うんですか?」 「あれは単なる幼い恋だ。言っておくが、最後の村山さんも違う」 「まあ、彼は純愛を求めているんですよね。なかなか手に入らないみたいですけど」 「百聞は一見にしかず。まあ、話を聞いてみよう。どうぞお入りください」  ドアが開き、男が入ってきた。これまでで一番若い

          恋の至近弾【7/8】愛しているのは誰ですか?

          恋の至近弾【6/8】恋の至近弾

          (前のエピソード) 恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)  村山信太郎です。相羽と同じ会社に勤めておりまして、同期です。たぶん、彼は私の話もしたのではないでしょうか? 「おお、あのストイックな」 「相羽さんは、あなたをやたらとライバル視していましたね」  正直、彼とは同僚だから最低限の付き合いをしているに過ぎません。友人と呼べるほど仲良くないのが正直なところです。あまり人としても、好きではありませんし。  別に私は女嫌いというわけではないのですが、相羽とは対極

          恋の至近弾【6/8】恋の至近弾

          恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)

          (前のエピソード) 恋の至近弾【4/8】カサノバの夕べ(前編)  そんな毎日でしたから、とにかく会社が嫌で嫌で仕方ありませんでした。まず始めたのは転職活動です。複数の転職あっせん会社に登録し、片っ端から面接を受けました。しかし、条件が合わず、これといった会社にはなかなかめぐり合うことができませんでした。勤めている会社にはすっかり嫌気がさしていましたが、だからと言って、給料を極端に下げてまで転職する気にもならなかったのです。その頃勤めていた会社は、明らかに給与水準が高かったの

          恋の至近弾【5/8】カサノバの夕べ(後編)