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春の夜のコンビニで一期一会した。

春になってしばらく、この季節にも
なし崩し的に慣れてしまわないと
行けない頃になると。

大阪の梅田にあった北新地のコンビニを
思いだす。

わたしの広告事務所の職場は、大阪の新地の
近くにあって。

夕方のコンビ二は、下っ端のわたしがよく
行かされた。

ボスやチーフ同僚のスーちゃんの夜食の
好みをメモに書かないでも覚えられる
ぐらいになっていた。

彼らの食べる者の好みを知って。
同僚のスーちゃんの好きなものも知って
ゆく。

働いていると生活そのものに救われることも
あって。

商品の短い文章を誰に向かって書くとか、
書いているものがチーフに合格点を次こそは
もらえるのかとか。

なにひとつ手応えのなかったわたしはそういう卑屈に感じていた広告の言葉に関するものから一瞬離れられた。

コンビニにご飯を買いに行ってる時は
かなり息抜きになっていた。

唯一叱られないから。

だからそのパシリ担当については
気に入っていた。

土地柄、新地のバーなどお店に出る前の 準備中の女の人やゲイバーの方々とそのコンビにでよく一緒になっていた。

いつだったか、冷蔵コーナーの同じ商品を
隣あわせたお客さんと、ゆずりあった 
ことがある。

顔はみてなかったけど、指の仕草が、
すごくきれいで。

でも指がびっくりするぐらい、あらびき
ウインナーぐらいに太くて。

おそるおそる視線をあげてみて、
ゲイバーにお勤めの方だなってわかった。

その人がすこし動くたびにほんのりと
香水の匂いもしていた。

手首を、いちどひねったみたいな仕草を
されて商品にちかづいていく感じ。

冷蔵コーナーのヨーグルトでさえ
その指に狙われている。

昆虫が、獲物の虫を捕らえる時のあの
真っ赤な赤い舌のように。

そしてその所作は歌舞伎の女形みたいにも
みえてちょっと感動していた。

も一回みたいです、その仕草ってこころの
中で想っていた。

声はまだ寝起きみたいな声で、じゃらじゃら
していた。

ごめんあそばせって聞こえた。

ごめんなさいじゃなくて、

あそばせがついていて、途端に心がきゅっと
なった。

丁寧な言葉を投げかけられると暴言を
吐かれた時よりも緊張する。

わたしの指もそのヨーグルトをゆるりと
目指していて。

指が触れそうになった刹那その声を
お聞きした。

わたしは、すみませんしか言えなかった 
けど。

ふたりが、欲しがった、

ふたりともゆずりあった、

ふたりあきらめた、

そのヨーグルトはきっと誰かのもとに
もらわれていったんだろう。

夜のコンビニに行くと、あらゆる香水の残り香が辺りに漂っていて。

そのひとの髪型は、和服に似合うように
結ってあるのに、身体はトレーナー
だったりした。

夜中まで言葉と格闘して。

いつもおしゃれとは無縁な破れたジーンズで
ぼろぼろになっていた自分とはちがう世界の
仕事する人を垣間見るのが好きだった。

コピーが書けないいうことの悩みからも解放
されたくて。

夜のおつかいはわたし行きます!って
いつも手を挙げていた。

ほんとうは。あのゲイの方がまたいらっしゃるかなって。
期待していた。

あの時の彼女も、たぶんこれからその世界で
生きていく始まりの感じの風情で。

わたしも、ぜんぜんまだまだ不安だけの
かたまりの見習いコピーライターで。

ちょっとだけシンパシー感じていた。

勝手に感じていた。

あの人の不安とわたしの不安が夜のコンビ二で商品選んでる時は、ないまぜになっているようで。

ちょっと凹んでいるじぶんのことも
忘れられた。

でも、あの人の所作をみたとき、指の
使い方や物腰などすべて。

たぶん、なりたい姿になるように努力しているその途上であったに違いないから、おおいに刺激されていた。

わたしはあの人の指の仕草に代わる
努力を書くことでしてるかな?

って。

そして、あわててコンビニの広告をみながら、キャッチフレーズどうなん? って、 
考えるふりを付け焼刃でしたりした。

その所作につられるように、広告の言葉についてとか、商品のネーミングについてを学ばなきゃって焦った。

レジに並んでいるその人の赤いトレーナーの
大きな背中に、頑張ってくださいでもなくて。

元気でその道を生きていってくださいみたいな。

偉そうなこと言えないけれど、そんな感じの
声をかけたくなって。

あの人がいる限りは、わたしも会社を辞めないで頑張ってみようと思っていた。

あれ以来、わたしがコンビニで彼女に
会うことはなかったけど。

いつか会えると思って夜のパシリを続けた。

今頃どこでどうしてるだろうって、時々思いだす。

みえないどこかであの人が、頑張っている。

この仕事が向いているのかどうか悩んでいたのでその方は、わたしにとってのエンジンだったかもしれない。

なにより、夜のコンビ二で指が触れそうになったあの瞬間は、心がガツンと瞬く間に揺さぶられていた。

あの熱量を今手繰り寄せたい。


いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊