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ふたりになれない、ひとりとひとり。

ふたり。

ふたりは世界でいちばん最強だと

思っていた頃知ったフレーズがあった。

蝙蝠傘は、世界で一番小さな、二人のための屋根である。

寺山修司著
さかさま博物誌 青蛾館 さかさまシリーズより。


二人のためという言葉に酔っていた。

みんなとうまくいかなくても

ふたりならうまくいくと思っていたわたしに

とってふたりという単位は、最強だった。

寺山修司のこの言葉の中に甘いふたりを

傘の下にあてがって、にこにこしていた。

そこにじぶんを入れていたかもしれない。

でもそれがもろくも崩れてしまうのは

それからほどなくしてだったけど。

たしかに最強だ。

上手くいっている時は、

もうあしたこの世が終わってもいいと

おもえるぐらい最強だと思う。

先週、ドラマを見ていた。



『いちばんすきな花』。

脚本は一年前にぞくぞくしながら

見ていた『silent』の生方美久さん。

4人の男女が登場するのだけど。

彼らは小さい頃からずっと「ふたりぐみ」に

なれなかった4人だった。

「ふたりぐみ」になれないって、

いつの話だよって思ってたら今も
「ふたりぐみ」になれないまま
彼らはおとなになっていた。

四人の名前、すごく不思議。

潮ゆくえ(多部未華子)
春木椿(松下洸平)
深雪夜々(今田美桜)
佐藤紅葉(神尾楓珠)

春木さんは春と木だけで名前が
完結しているし

深雪夜々さん、みゆきよよさんはもう
芸名だし。
みゆきさんってどっちが苗字だか
わからないし。

佐藤紅葉さんは男の方で紅葉さん
というところにわたしのバイアスかかって
いたことを気づかされるし。

ゆくえさんが普通っぽいけれど。
名前がふつうってよくわからない
けど。

下の名前のゆくえというところが
このドラマの行方のようで、
それをひらがなに記されると
ちょっと不安げ度が増す。
(わたし調べ)

小学校の先生に「二人組」になってって
言われたことあったかな。

そういえばそういうのあったかな。

いつもわたしはひとり好きだったので
参加してなかったかもしれない。

きっとクラスの中でひとり「ひとりぐみ」
だっただろう。

劇団ひとりみたいだ。

潮ゆくえさんは二人組を作るのが苦手だった。
ふたりになりたいのにそこにたくさんの人を
引き連れてくるから二人組にさせてもらえなかったざんねんな春木椿さん。
一対一というふたりになることがこわかった
深雪夜々さん。
逆に一対一で向き合ってくれる人さえいなかった佐藤紅葉さん。

そんなふうに彼らのことが紹介される始まりは、何かがきしみ合っている。

このドラマは「ふたり」という言葉が
まるで主役のように思えてくる。

あなたにとって「ふたり」ってなんですか?

そんなふうに問いかけられている気持ちになる。

今若ければちょっと痛かったかもしれない。

二人というのは難しい。あらゆる人数の中で
特殊で。二人である人たちには理由や意味が
必要になる。
ふたりは一人より残酷。
ふたりはひとりいなくなった途端一人になる。
もともと一人だったより確実に孤独なひとりになる。

『いちばんすきな花』のナレーションより。

ふたりになりたての人たちはまっしぐら
なのでみえないけど。

案の定この中のひとり。

春木さんが、新居まで用意していた婚約者に
唐突にふられる。

婚約者の名前は純恋で、すみれさん!

すごいな、純恋って名づけるお父さん
お母さんってうちの親とは違う惑星に
生息しているに違いない。

恋愛って二人組をつくる作業でしょ。
ごめんね。苦手なんだ二人組。

春木椿さんの婚約者の非情な台詞。

婚約してたのに、苦手とかいってんじゃね。

と思いつつ。

これはかつてのわたしだったと痛い所を
抉られた。

新居までは用意してなかったけど。
婚約していたのに逃げた。

二人組が苦手というより二人組をずっと
つづける自信がなかった。

違う人とふたりぐみになりたがったら
どうしようと自信がなかった。

ほんとうに最低だった。

これは、silentとはすこし異質の
匂いがする。

あまり甘やかしてくれない。

でもこのドラマを毎週木曜日になると
みてしまうことはわかってる。

だれもがうまくいかなかった傷をみせあう
4人であるところから、
始まった。

そんなところが好きなのかもしれない。

ドラマってうまくいかなさを、まっすぐ
描いてほしい。

成功物語とかはもういい。

小学校に二人組になれなかっただけなのに
大人になってもまだそれをちゃんと
引きずっている彼らがどこか
愛おしい。

肉親以外とふたりぐみにならなかった
わたしは、いつかだれかとふたりぐみに
なることはないような気がするけど。

でも、ひとって瞬間瞬間で
だれかと喋っていて楽しい時や
ごはんを食べてて美味しいねって
言ってるときなど。

この人との「ふたりぐみ」いいなって
自分を俯瞰してみる。

そういう思いがけない幸せの
時間って訪れるものだから。

長い年月を生きてきて、いまわたしは
ここにいる感じがする。

それを知った今だからこのドラマのことは

ひとりとひとりが、もがきながら生きてゆくんだろうな。
そんなひとりとひとりがいつかふたりぐみになれるといいなと思いながら見るんだろうなって思う。





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