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好きって、名前を呼びたくなることかもしれない。

青い表紙、なつかしい飾らない線。

人を好きになるときのあの痛みが

よみがえってくる。

それが異性愛じゃなくても心の痛みは

同じだと想う。

むかしから、女のひとだとか男のひとだとか

じゃなくて。

人として好き。

それだけでいいじゃないかって想っていた。

でもあまり賛同を得られなくて、誰にも

言わなくなった。

それはそうだけどって、言葉をさえぎられる

のが面倒になった。

懐かしい痛みがよみがえるように、昔

好きだった『blue』を読んでいる。

読み始めたらこんなに付箋だらけに

なっていた。

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遠藤にどうしても惹かれていく、片桐。

ふたりは女子校に通うクラスメートだ。

遠藤は中絶した過去があって、それが

原因で停学になった過去がある。

片桐は、テトラポットに座って

ぼんやりと海を眺めるのが好きだった。

そして遠藤をここに連れてきたいなって

思う。

そして、その想いが叶う。

あたしたちは
日が暮れるまで
とりとめのない話をした
遠藤の目のかたちや歯並びが
キレイだと思った
あたしは遠藤を好きになっていく
自分の感情がうれしかった

遠藤が断ち切れない男性への思いを

片桐に隠したままでいた終業式の

前の日。

わたしが一番好きなシーンがある。

片桐は頼まれて遠藤の髪を切るシーン。

マンガのコマのなかには、切られた

髪の毛しか描かれていない。

それもまるでゆっくりと髪が遠藤から

離れていくようにはらはらと

落ちるシーン。

まるで木の葉が舞うように落ちてゆく。

この情報量のすくなさにわたしは

どきどきする。

不倫している男性への思いを断ち切る

ため逃れるために髪を切ってもらう

ことにした遠藤は、終業式の日に姿を消す。

しばらくして戻って来た時、片桐はほんとうの

ことを違うクラスメイトに話していたことを

知ってもやもやとする。

ぜんぶ話してほしかったと。

喉の奥になにかがつまるカンジに片桐は

苛まされる。

まさみちゃんが
あたしを必要としてくれなかったことが
悪いんだよ

こういう想いに駆られたことは実生活では

わたしはないけれど。

この痛々しさを、なぜかわたしもよく

知っている気がしているような気持ちに

なって、胸がくるしくなる。

それはもう遥か昔に経験したあの

高校の頃の戻れない感じが切ないから

なのかなになのかわからない。

高校3年。

必ずやってくる別れがあって。

片桐は絵を描きたいという未来を

思い描いている。

遠藤は、なにもない。

なにを目指せばいいのか、なにになりたいのか

わからない。

やりたいことがある人っていいなって

遠藤が言う。

あの頃わたしにもなにもなかった。

それからしばらくしても、何になりたいとか

何をしたいという夢が見えなかった。

ただ心を整えることだけ。

無事に一日を終えることが仕事のような

日々を過ごしながら。

わたしも片桐は夢をみつけてたんだね

いいなって遠藤のように言ってみる。

この『blue』はモノローグがとても

詩のように美しい。

遠い海の上に広がる空や
制服や 幼い私たちの一生懸命な不器用さや

あの頃のそれ等が
もし色を持っていたとしたら
それはとても深い青色だったと思う。

絵やデザインを学びたいと

漠然と思っていた片桐らしい

言葉だと思う。

blueという色は。

すぐに辺りの景色になじんでしまって

気がつくと空の海の色に溶けてしまう

そんな危うい色なんだと思う。

その不器用な彼女たちにいちばん

ふさわしい色がblueだったとしか

思えない。

人を好きになるってどういうこと

だろうって。

男とか女とかどこの生まれとかそういう

ことじゃないよねって。

そんなみずみずしいふたりの心のカタチ

までもが青く染められてしまったような

『blue』にふたたび出会えたことを

いまうれしく思う。

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好きってやっぱり、名前を呼びたくなる

ことかもしれない。



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