【エモい小説書こうぜ企画】北斗七星を探してる。

彼の名前をずっと前から知っているような気がしていた。

ピスタチオ。

彼が、バーニューノマンのカウンター席でバーボンを

呑んでいた時、この人だってすぐにわかった。

ぼくのこと、知ってるって眼を今したね。

って言いながら、君もぼくに似てるってすごいしゃがれた声で

耳元に囁いた。

わたしの耳は、いろんな男の人が囁いた声たちが

棲んでいるけど。

ピスの声は、すぐにわたしの身体の名前のないどこかに

密やかにおちてゆき、わたしを滲ませた。

なにかが始まるとき、わたしは耳の後ろでキャッチする。

キャッチする時、耳たぶのふくらみあたりに

ついているほくろがすこしだけふくらむ。

君の歩き方ふわふわしてるって、カウンター席で

わたしを眺めていたピスが言った。

ふわふわしてるのは、ちゃんと生きている感じが

しないからだって言えなかった。

その時、店に来ていたきれいな女の子たちがスマホに

夢中になってイヤフォンをひとつずつ分け合って

音楽を聴いてるはしゃぐ声がした。

彼女たちは、これ、ピスのあのめっちゃ流行ってる曲だよねって

興奮している。

ちょっと声がうるさくて嫌だったけど

ピスは君たちの目の前にいるよって、わたしは教えてあげたい

気分でマスターのニューノマンさんに視線を預けると彼は

細い目をしてほほ笑んだ。

ピスタチオの自由を守ってあげたいから、みんなピスがこの店の

常連だということも、黙ってあげている。

このバーにいる時のピスタチオの名前は、猫田千雄。

常連客のかわいいkikiさんと一緒に考えた。

1年前の夏のまんなか。

ピスと付き合い始めて間もない頃だった。

部屋のモニターにピスが映っていた。

いいよいま開けるからって、言うと、

しばらくしてエレベーターが開く音がして

ピスがドアの前に立っていた。

破魔矢みたいなのと金魚たちと、綿菓子をもって。

どうしたの?

って目で問うと、

乙杯神社に行ってたんだってうれしそうに言う。

わたしにそれを渡すと、金魚はフリーザに入れといてって

あのざらついた声で言う。

金魚たちは、わたしたちふたりの欲望の餌食になるためだ。

金魚たちを彼から受け取るとき、ビニール袋の水の器の中で

ぴちゃぴちゃとそして揺れるたびにたぷんと震えた。

玄関先でホーキンスのシューズのひもをゆっくりほどくピス。

今日は時間がないんだって、靴紐をほどきながら謝る。

目を見て言ってほしいけど、あのくぐもった声も大好き

だから

許してあげる。

ピスはあのヒット曲「君は冷蔵庫」以来立て続けにヒットを

飛ばしていた。

ピスが人気なのは仕方ない。人気が出るってもう運命なのだ。

みんなが好きなピスをすこしだけひとりじめできる時間が

あればよかった。

とりわけわたしが、今好きなのはこれだった。

歌詞がせつないって言うと、どういうふうに切ないのって

ピスはわたしをじりじりとベッドにナビしてゆく。

腰の辺りの窪みを撫でた時、紫色のワンピの上からでも

体が熱くなるのがわかった。

わたしを誘導する時に、リビングのテーブルの上にあった

綿菓子の袋を片手で持つと乱暴に口でびりびりと破った。

ワンピのボタンはくるみボタンで。

彼の指がそれをひとつずつ外し始める。

あの歌詞のように

やわらかくて
あたたかくて
大きいのや 小さいのや
色も形も様々で
隠さないで 僕に見せて
君の胸の中

が私の耳の中でピスの声でリフレインされる。

紫のワンピがくしゃっと床に投げられる。

紫って知ってる? 男と女が融合した色が紫なんだって。

声が耳の奥に墜ちてゆく。

北斗七星。

って彼がわたしの胸をそう名付けた。

わたしの胸やお腹、おへそにあるほくろの数のせいだ。

みえている場所には6個あって、

7個目はピスが舌で探してくれた。

ピスは6個のほくろの上に、乙杯神社の縁日で買ってきた

桃色の綿菓子を置いてゆく。

ピスの舌。

綿菓子のザラメが肌に残って彼が舌を動かす度に、

声がでそうになるのをなぜか

がまんしてしまう。

声を出してって

ピスが言えば言うほど言えなくなって。

今日も7個目の星に見立てたほくろの在りかを

シュガーに導かれた蟻みたいにピスの舌が探してくれた時。

溜め息みたいな音が喉の奥から漏れてしまった。

時間がないってどれぐらい?

吐息みたいな声でわたしがつぶやく。

もうデザートじゃだめかなって困った顔をするから

わたしはピスの眉間に指を這わせてしわを伸ばして

あげる。

ピスのこと好きだから、困った顔はみたくない。

時間がないぐらいで、苦しんでほしくないだけだ。

いい?

いいよ。

ピスがフリーザに凍った金魚を取りに行った。

袋のまま生きた姿のままで凍っていた。

わたしの腰とお尻の間は格好の器らしい。

誰のって、フリーザーに入れた金魚の格好の器だ。

腰の辺りに氷の塊がふれたとき、尾骨あたりが

ぴくんとした。

凍った金魚は今、ピスの視界の中にある。

あの7個目の星が住んでいる辺り。

丘にたどりく。分け入りながらピスの指が

触れて。すぐにピスが入って来た時、

観葉植物のアジアンタムのちいさな葉が

ベッドのスツールの上で揺れた。

葉が小刻みに震えてる。その上をカタツムリが

糸を引きながらちいさな葉の上を歩いているのが

見えた。

ふいにわたしはひとつになりたいって

ピスに言った。

なってるよもうってピスは息も絶え絶えに言うけど。

そうじゃなくてほんとうにひとつに。

って言った時、ピスの喉の奥から聞いたことのない

刻んでくる声が聞こえてきて

腰のあたり。

凍った金魚達の氷が体温でゆるゆると溶けていった。

しずくが流れ落ちてゆく。

その時。

生き返った金魚が、ピスのお腹とわたしの尾骨の

辺りで、ぴちょんと跳ねた。

いつもとちがう感覚をおそう。

するりと背中の重みがぬけてゆき、わたしは

ピスを後ろから吸い込んだみたいになって

ピスとわたしはひとつになった。

画像1

まっくろい猫の姿になって、わたしの中にピスが

いるのがすごくわかった。

いつも耳の辺りでは、忘れられない魅惑の音が

鳴っている。

わたしが眠るときはピスも眠ってくれる。

泣いている時は、そばにピスがいてくれるのが

わかる。

時々ピスって声をかけると、なぜだか北斗七星の

2番目と4番目の胸の頂きあたりが過敏になる。

不思議だけれど、わたしピスとふたりで猫に

なってからのほうが、ふわふわ歩いていない。

ちゃんと地に足をつけて歩いているのがわかる。

永遠にふたりだからだね。

今日あたりバーニューノマンの扉の前で待っていたら

誰かわたしがピスでピスがわたしだって気づいて

くれるのかなって、黒猫の姿で夢想していた。

<おわり>

ピスタチオさんへ。

わたしアイコンつながりでピスタチオさんと仲良くなれてすごく幸せです。そして大好きなkikiさんがピスタチオさんに捧げる小説を書かれていて、度肝を抜かれながらも感動しました。わたしもトライしようって思っていたらこんなに遅くなってしまいました。これが最初で最後のかんのーですが。
ピスタチオさんに捧げます!note100日記念おめでとうございます✨✨

ふりかえる 首の角度を 憶えてるから
よく似てる 後ろ姿の 尻尾 焦がれて







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