君は観ていた
#1 東京タワー
夕焼けと呼吸しながら
自宅へ帰る。相変わらず澄んだ空気だ。
大都会の空気とはまるで「味」が違う。
ここに来るまでは1日を終えるたびになぜこうなった?
反省と憤りとが記憶を反芻し交差する。
家の最寄りの交差点では目を閉じ、青になるとそのまま瞼を閉じながら信号を堂々と歩く。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12
目を開け上を見上げると決まって青色が点灯をしている。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12
2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12
いつもの川添から観える夕日が、今日は涙で滲む。
「1つ、減ってしまった」
■□■□■
自転車で駆け抜けて、四季折々の匂いを纏う。
あぁ、いい気持ちだ。本当にこの街に来てよかった。
3年前の東京生活では味わえなかった生活。
今は、空は駆け抜けて、川は広く、森を見るとワクワクする。
僕はこの街と共に生きようと思った。
なぜなら、今までの都会の喧騒から逃げたかったからだ。
小学生の夏休みに、大分の爺ちゃん家で毎日毎日川やもりを駆け巡ってた想い出が蘇る。
「空ってこんなに広かったっけ」
「曇ってこんなに分厚かったっけ」
【3年前】
「おい!新人!アポのリストあげてんのか!?」
「す、すいません先方からの返信まちで!」
「待ってる場合かボケ!!今月の予算達成できんのかゴラァ!!」
「い、今から催促のアポを取り報告します!」
月末になると苛立つ上司。
オフィスはスカイツリーに隣接している大手企業だ。
観光客も増え、商業施設を誘致するなどかなり経営実績としてはかなり安定している。
僕はというと、実はスカイツリーより東京タワーが好きなのだ。
仕事帰りにはコンビニでチューハイを買って、公園で一人で晩酌。
チラッと横目に観えるオレンジのタワーが、田舎から出た僕のシンボルだった。
お酒のつまみより、美しい女性より何よりも。
田舎から出て勝負するためのモチベーション。
それが東京タワー
【君は観ていた1】
僕は、東京タワーを観ていた。
そして、ノスタルジックな気分になったのか、今日上司から受けたパワハラに精神的限界を迎えたのか。・・・はたまた酒の勢いなのかもしれない
僕は会社を辞める決心をした。
■□■□■
【5年後】
この穏やかな街にも慣れ、行きつけのお店や職場仲間と釣りに行くなど交友関係もできてきた。
東京じゃほとんどできなかったプライベートだ。
そんなある日、東京時代に働いていた同期から電話がきた。辞めた時以来だから実に5年ぶりである。
「おー久しぶり。大輔なしたん急に?」
「和哉久しぶり。なんかすっかり方言になってるな笑」
「そりゃ5年も長崎におったら方言喋らないかんばよ笑」
「郷に行っては郷に従えってやつだな。ところでどんな街なんだ?長崎って」
「いい街だぞ!自然も豊かで歴史もあって、駅前なんて博多くらい街なんだから」
「流石に博多駅には勝てんだろう」
「インパクトだよインパクト」
「インパクト?」
「ああ。駅近のショッピングセンターの屋上に観覧車が乗っかってるんだぞ。ゴンドラの数12個!」
「はしゃいどるな!つか12個って多いいのか?少ないような・・どっちでもいいけど」
「そこから世界三大夜景が観れるわけ」
「おー!それは興味深い。是非一度行ってみたいな」
「おう。あ、そうれでなした?電話。急に」
「あのな、本当にこんな形で久々の会話をしたくなかったんだけど」
刹那、嫌な予感がした
「同期の山下が死んだ」
「は!?え!?山下って翔が!?」
「うん。山下翔」
ショックを通り越し呼吸が、呼吸の仕方がわからなくなった
「死因は?通夜は?告別式はいつだ?」
「すべて親族内で取り繕ったらしい。死因は・・・不明らしい」
何で・・・僕と山下翔は同期の中で一番仲が良かった。僕が退社を決めた時、一番に報告したのも翔だった。
何十回、何百回と引き止められたが翔自身、僕が上司から度々パワハラを受けていたのも目撃していたので、
最後は労いの言葉と「和哉、自由に生きろ」とメッセージを贈って貰った。
出発前日、焼肉やで2だけの送別会を開いてくれた。
店を出て最後に、店長にお願いをして写真を撮って貰った。
「お互い、満遍の笑みで撮ろうな!」
「おう!」
そう言って肩を組んで。
店長が「ハイっチーズ!」
パシャ
■□■□■
大輔と電話を切った後、しばらくまだ何が起きたのか実感が湧かなかった。
取り敢えず、東京に向かってみるしか無いという結論だけが出た。
そしてふと、章と最後に撮った、あの焼肉屋の前で肩を組んだ写真を少し迷ったが見て観ることにした。
そういえば、現像した写真は渡されたが見た記憶はない。
クローゼットの最上段に写真関連はすべて保管している。
結構な枚数だったが10分くらい探すと出てきた。
これだこれだ。懐かしい。「焼肉大将」のネオンの下に僕と小は腕を組んでた。
僕は酒を飲み過ぎてたのだろうか、40点の変顔だ。翔は・・・
・・・ん
全く表情を変えず、僕の横顔を観ている
・・・どう言うことだ?
焼肉屋の店内でもいくつか撮っている写真も出てきたのだが、すべてが最後の写真と同じく真顔で僕の横がを観ていた。
【君は観ていた】
何故か不気味な予感がしたので、急いで東京に行く準備をする。例の写真はすべて持っていくことにした。
最低限の準備だけで家を飛び出し、長崎空港へ向かう。
その道中、大輔に電話をする。
「あ、大輔?悪い俺今から東京行く」
「は!?今から!?もう葬儀とかとっくに終わってるぞ」
「いやちょっと気になったことがあって!」
「気になったこと?」
「大輔さ、最後に翔と会ったのいつだ!?」
「最後に・・・ああ、先月の花見の時だな」
「勝訴の時なんか様子変じゃなかったか?」
「それもな、花見にいたみんなで色々話し合ったんだけど、特になかったんだよなぁ・・」
「あのさ、その時の花見の写真とか撮ってるやついた!?特に翔が映り込んでたりするやつとか!」
「みんなパシャパシャ撮ってたから、確実あるとは思うんだけど・・何で?」
「おっけありがと!東京着いたらまた連絡する!」
#2 連鎖
3、4、5、6、7、8、9、10、11、12
プップッー
「赤だぞコラ目も開けてねえで!!死にてえのか!!!」
「こっちは、こっちは2つ亡くしたんだぞ!!」
「何言ってんだこら!!次あったらぶっ飛ばしてやる!!」
東京には、行かなければよかった
<続>
「文字で紡ぐ笑いのプロセス」を伝えられるよう仕組みを構築したい。リモートなどで。この笑いのプロセスを理解できれば、笑いのある「日記」「エッセイ」「コント」「戯曲」の書き方が習得できる。はず。