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いま日本において「社会人を指導する人」に足りないものは何か?


前提

この記事は主に次のような人に向けて書かれたものです。

・教育という言葉に少しでも何かを感じる人
・社会人教育に従事している人
・企業などで部下の育成を任されている人
・そのほか教育や人材育成に関心がある人

ぜひ最後まで、お付き合いください。

まず簡単に私のことを。とはいえ、できればいまは私の自己紹介は読まずに飛ばしていただき、先に進んでいただけたら幸いです。読後に興味があれば、ぜひ私のことも知っていただければと思っています。

ではさっそく、本題に入りましょう。要点は私の動画チャンネルでも公開しています。こちらをご覧いただいてからお読みいただくのもよろしいかと存じます。

幼児教育と社会人教育の交差点〜ビジネス数学・教育家の提言〜


仮説

「幼児教育と社会人教育には共通点がある」

私はそんな仮説を持っています。幼児と社会人。まったく違いますよね。しかし幼児教育と社会人教育は共通するものがたくさんある。私はそう考えているのです。もちろん表面的にはまったく違います。ですから私は表面の話をしているのではありません。深く深く掘り下げた先にある「本質」のところについて言及しています。

『いま日本において「社会人を指導する人」に足りないものは何か?』

そんな問いを提起してみます。社会人教育の現場で指導者と呼ばれる人種は講師、コンサル、専門家と呼ばれる人たちが一般的です。彼らは立派な人であり、たくさん勉強し、たくさん成果を出し、そしてそれゆえプライドが極めて高い人種です。

一方で、というかそれゆえに、欠けていることや忘れてしまっていることもあるのではないかと。優秀な実務家が必ずしも優秀な教育者になれるとは限らない。これはビジネスの世界だけではなくスポーツの世界などでもはっきり証明されています。優秀な実務家と優秀な教育者の差はどこにあるのでしょうか。


一般論

教育という文脈においては、「エントリー層」の指導がいちばん難しい。たとえば社会人教育の世界でも、実は「入社1年目の新人研修」がもっとも難易度が高いのです。(もっとも簡単だと思っている人が多いことはとても残念ですが)
人間的にも能力的にも優れている講師に任せないと「入社1年目の新人研修」は必ず失敗します。

たとえば算数教育では、意外に割合や分数の計算を指導することは難しい。すでに勉強し理解した人間にしてみれば当たり前のことでも、それをまったく知らない人に割合や分数の概念を理解させることは簡単ではありません。もっと言えば、幼児に「多い・少ない」「広い・狭い」といったことを教えることは実に難しいものです。

愛とか、絆とか、友情とか、笑顔の大切さとか。私たち大人が簡単に理解できたと思っている概念ほど、実はそれを知らない人に教えることはとてつもなく難しいのです。

そこで私はこう考えました。

人を指導するという仕事において、もっとも「エントリー層」を扱っているのは誰かと。特に私の専門でもある算数・数学・ビジネス数学といった領域において、実はとてつもなく難しいテーマを指導している人はどこにいるのかと。

そのひとつの答えが、「幼児教育の現場」でした。

幼児さんすうインストラクター制度

幼児さんすう教室SPICA(スピカ)

私は公益財団法人日本数学検定協会が認定するビジネス数学インストラクター制度を創設し、現在も指導者の開発を行っています。(興味ある方は後ほどお調べになってください)

それと同じように、公益財団法人日本数学検定協会が認定する幼児さんすうインストラクター制度というものがあります。上述のさんすう教室で活躍されている先生方が、まさに幼児さんすうインストラクターの先生がた。つまり幼児さんすう指導のスペシャリストたちです。

繰り返しですが、何事も「エントリー層」の指導がいちばん難しい。とするなら、ここで活躍されている先生の考え方や仕事には、「人を指導する」という観点でとても大切なことが隠されている可能性があります。

代表の大迫ちあきさんとは以前よりご縁があり、今回は私からお願いする形で現場を拝見させていただくことになりました。当日は大迫さんのほか、インストラクターである今井江衣子先生にも細かいところまでご説明いただきました。(ありがとうございます)

※先生や生徒さんのお顔が入らない形で、お写真を数枚ほど失礼しました。


幼児教育に必要な2つのこと

結論から申し上げれば、「私の思っていた通り」のことがわかりました。つまり仮説は正しいという結論です。とても深い学びがありました。大きく2つ挙げます。

①指導者自ら、授業を楽しんでいること
学習者は楽しから学ぼうとするし、学び続けようとする。これは人間の本能であろうと思います。先生が楽しそうでないのに生徒が楽しめるわけがない。これは幼児や子どもの教育なら当たり前のことでしょう。ある意味でディスニーランドのお姉さんの感じ、エンターテイナー、役者的要素も必要です。しかし大人の教育現場においてはどうでしょうか…   これは後ほどまた触れることになります。

②たくさん問いかける(質問をしている)
「これはどこに置けばいいかな?」「どっちかな?」「もう少し頑張れるかな?」・・・ インストラクターの皆さんはとにかくたくさん問いかけていました。「それは子どもが相手だからだろう?」と思われる方はその考えをいますぐあらためることをお勧めします。社会人教育の現場でも、優秀な講師は実に問いかけが上手い。もっと本質的なことを申し上げれば、人間は質問されることでようやく考えたり動いたりできる生き物です。「育む」という目的がある場において、問いかけがないなどあり得ません。


幼児教育と社会人教育の交差点

そのほか、私の専門分野である社会人教育との細かい(でもとても重要な)交差点がありました。

・「態度を育む」という目的
子どもの教育において大切なことのひとつが、「◯◯◯な態度を育む」という目的が常にあるということです。これは我が国の教育に関する有識者(?)たちも口を揃えて言っていることです。幼児さんすう指導の現場であれば「量というものに対する姿勢や接し方」であり、「試行錯誤できる耐性」なども育むことが求められるでしょう。
一方で社会人教育の現場でも「◯◯◯な態度を育む」という目的が必須になります。「数字に対する関心を高める」「定量的な説明をする」「DX時代の仕事の仕方という発想を持つ」といったビジネススキルのお題目はすべて「どういう態度を育むか?」という問いの答えに他なりません。

・事後に保護者へフィードバック
これは今回の大きな発見のひとつでした。幼児さんすう教室SPICA(スピカ)では授業の最後に、インストラクターから保護者の方にフィードバックする時間があります。子どもの様子はどうだったか。何ができて何ができなかったか。(そしてこれがとても重要ですが)ご家庭で何をやってほしいか。インストラクターは保護者の方にこれらを説明をします。「ご家庭で何をやってほしいか」をしっかり聞き、家庭で実践している子どもは伸びるそうです。しかしそうでない子どもはいくら教室に通わせても…   「子どもを見ていれば、親が何をしているかがわかる」ということなのでしょう。
これは社会人教育においてもまったく同じ。私は大手企業から研修などをご依頼いただくことが多いですが、私の仕事は単にセミナーをやって終わるわけではありません。実際の研修において気づいたことや職場で実践してほしいことを参加者の上司や人事・育成担当者、時には経営者にレポートをします。そのレポートの内容に関心を持ち、実際に職場でフォローを行える企業は育成の観点で成果が出てきますが、そうでない企業は「いい研修でした」で終わってしまい、人材は何ら変わりません。なんともったいないことでしょう。
子どもも大人も同じ。「◯◯◯な態度を育む」ために必要なことは、ご家庭(職場)で親とこどもが何をするかにかかっているのです。

・褒める
最後はあまりに当たり前かもしれませんが、しかし確かに共通することです。褒める。とにかく褒める。幼児さんすうインストラクターの先生がたはとにかく子どもを褒める。「すごいね〜♪」「よくできたね〜♪」と拍手をする。
「それは相手が子どもだからでしょ?」という思考は今すぐ捨ててください。社会人教育の世界で10年以上、述べ2万人のビジネスパーソンやトップアスリートの育成現場で戦ってきた(学んできた)私が断言します。私もまったく同じことを、いい大人たちに向けて実践してきました。
特に拍手をするという動作は意識的にやっています。人間は大人になるにつれて、拍手をしてもらう機会が減ります。認められること。賞賛してもらえること。これは人間にとってとても嬉しいことであり、拍手とはそれを簡単にボディランゲージで表現できます。しかし私の知る限り、いい大人に心から拍手をして見せてあげることができる研修講師やコンサルタントはほとんどいません。


提言

以上を踏まえ、日本の社会人教育に足りないものをコンパクトにまとめました。

★良質な問いをたくさん投げかけること
社会人教育の現場には、「問い」が足りません。仕事に必要な知識は、インターネットやビジネス書にいくらでも書いてあります。それをそのまま喋ることが教育者の仕事ではありません。(それこそそんな仕事はAIがやればいい)
良質な問いができる指導者の育成が急務です。

★一緒に考え、一緒に体験し、答えに導いてあげること
社会人教育の現場で指導者と呼ばれる人種は講師、コンサル、専門家と呼ばれる人たちが一般的です。彼らは立派な人であり、たくさん勉強し、たくさん成果を出し、そしてそれゆえプライドが極めて高い人種です。ゆえに残念ながら、この「一緒に考え、一緒に体験し、答えに導いてあげること」が極めて苦手です。まどろっこしい。イライラしてしまう。なぜできないのか、なぜわからないのか、理解できないのです。どれだけ優秀な実務家でも、根本的な意識改革がないと指導の世界では活躍できません。

★試行錯誤(正解をすぐに求めない忍耐力)させること
幼児さんすう教室SPICA(スピカ)では「試行錯誤させる」ことを大切にしているそうです。やってみて、うまくいかなくて、だから別のやり方を考えて、やってみて、うまくいかなくて、また別の……   これを試行錯誤すると言います。
すぐに正解を求める子どもが増えていると聞きますがこれはとても危険なこと。そしてそれはビジネスの世界でも顕著に表れています。最近の新入社員や若手と呼ばれる層は、とにかく無駄なことを嫌います。少し乱暴な言い方をするなら「いいから正解を教えて。あとはその通りにやるから」という思考です。動画を2倍速で観る世代。インターネットでなんでも答えらしきものを探してしまう世代。「試行錯誤」という概念と極めて親和性が低いことは間違いありません。
だからこそ教育はそこに焦点を当てなければなりません。いかにして試行錯誤させるか、試行錯誤できる人間にしていくか、問い続ける必要があります。

★まず指導者がもっともその場を楽しんでいること
私の研修に参加した方から「深沢先生はいつも楽しそうです」「深沢先生の講義はとにかく独特です」といった類のコメントをよくいただきます。これが意味するところは、深沢講師のような社会人教育の従事者が他にいない(会ったことがない)ということです。私はこれまで常に現場では「楽しむ」ことを第一にやってきました。それが間違っていないこと、とてつもなく重要なことだということを、今回の幼児さんすう教育の現場で確認できたように思っています。

以上より、私たちは次の結論を得ることになります。


誤解のないよう補足をします。
(この記事を読まれる方はこんな誤解などしないとは思いますが)

これは社会人教育の従事者に「相手は幼児だと思って下に見ろ(バカにしろ)」と言っているわけではありません。いい大人をあえて幼児だと思うことで見えてくることがある、うまくいかなかったものがうまくいくようになる、という意味です。これくらい大胆な視点の変換がないと、何も変わらないという意味です。
社会人を幼児だと思うことで、指導者はある意味でその学習者に対して「愛」が生まれます。親が子に持つ愛に近いものかもしれません。その愛が指導という営みの中でパフォーマンスとして表現されるようになったとき、少しだけ良い方向に進むのだと私は信じています。


おわりに

ラストメッセージです。

人を指導する立場の人間は、ぜひ異分野からヒントを得てください。特に社会人教育の場合、指導者と呼ばれる人はとにかく立派な人であり、たくさん勉強し、たくさん成果を出し、そしてそれゆえプライドが極めて高い人種です。ゆえにどうしても「こういうものだ」「これが正しいんだ」という固定観念にとらわれがちになります。プレイヤーとしては優秀だったにも関わらず指導者のフェーズに入った途端にヘナチョコになる人はたいていこのパターンです。

たとえば学校の先生なら、塾業界の授業をたくさん見てください。私のいる社会人教育の現場やビジネスセミナーと呼ばれる場でのプロ講師の仕事を見てください。
大人ばかり指導している人は、子どもの指導を体験してみてはどうでしょうか。子どもの指導しかしていない人は、大人を指導するとはどういうことか体験してはどうでしょう。

たとえば一流の経営者は、自分とは違う業界で結果を出した人の話を聞きたがります。一流のアスリートや料理人は、異なる分野で成果を出した人と自分との共通点を探すのが大好きです。

この国には、一流と呼ばれる社会人教育のプロフェッショナルが必要です。人を指導する立場の人間は、ぜひ異分野からヒントを得てください。本当に、勉強になりますから。

ちなみに私は一流ではありません。だから異分野からヒントをもらおうと動いたり、このような記事を発信したりするのです。人に「やってみては?」と言う以上は、自分がやっていなければならない。自分がやっていないことを人に「やれ」と言わない。これは私がとても大切にしている価値観のひとつです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。どなたかのヒントやきっかけになっていれば、これほど嬉しいことはありません。



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