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水色のワンピース  〜短短短編小説#4〜


あたしにも、よく分かんない。
なんで、こうなっちゃったのかな。
絡みつく罠の中で、自問する。
キレイなチョウチョに憧れた。
ただ、それだけだったのに。




こう見えて、けっこう努力もしたの。
子どもの頃は、お世辞にも
美しいとは言えない見た目だったから。
キモい!って言われたことも、数えきれない。
老若男女問わずね。
ヒドいでしょ?
これでもかってヤケ喰いした後、
しばらく閉じこもった時期もあった。




でもね。
これじゃダメだ!って、
ある日、殻を破って外に出たの。
そこから世界が変わった。



自分で言うのもなんだけど
スタイルもすごく良くなった。
生まれ変わったみたい。
みんなの見る目も変わった。
水色のワンピースはあたしのお気に入りなの。
子どもの頃には戻りたくない。
絶対に。




スタイルといっしょに体質も変わった。
昼間はすごく眠くって、
夜は逆に活発になるの。
ネオンが大好きで、
つい、フラフラ惹かれてしまって。
水色のワンピースで毎晩お出かけした。




でも、喜んだのも束の間。
結局、本物にはなれなかった。
似て非なるモノ、なんて言う人もいる。
分かってる、そんなこと。
でも、生まれ変われたと思ったの。
憧れの、キレイなチョウチョに。



ある夜、
いつものように惹かれたネオンのそばで
あたしは悪い女に捕まった。
あたしみたいにネオンに近づくコを
餌食にする恐ろしい女だった。
そいつの仕掛けた罠が
あたしの体に絡みついて離れない。




きっと、本物のチョウチョは
あたしみたいに夜中に飛んだりしない。
あたしみたいにネオンに惹かれることもない。
だから多分、こんな風に捕まったりしない。
なんで、あたしは
チョウチョになれなかったのかな。
こんなにキレイなのに。
水色のワンピース、素敵だと思わない?




女郎グモの毒牙が迫ってくる。
もう、終わりだ。
もし生まれ変われたら、今度こそ、
キレイなチョウチョになれますように。
覚悟を決めた、その時だった。




突然、全身が何かにバサリと包まれ、
視界が塞がれた。
何?!
次の瞬間、何かに包まれたまま、
あたしはクモの巣ごと地面に落下した。
バリバリとクモの巣が破れる音がする。
何が起きたかも分からず、辺りを見回す。
身動きは取れず、
視界は白くぼやけて見えないままだが
女郎グモの気配は、ない。
助かった…?




「すげぇ!水色のでかいチョウチョだ!!」
歓声とともにあたしを指でつまんで持ち上げる、
声の主は、少年だった。
クモの巣に捕まったあたしを、
捕虫網でクモの巣ごとキャッチしたのだ。




「ん?でも何かヘンだな…??」
少年が違和感を感じ、指の力が少し緩んだのを
あたしは逃さなかった。今だ!!
渾身の力で羽をばたつかせ、
少年が指を滑らせた隙に、
すかさず夜空へ羽ばたいた。
「あっ!!逃げられた!!」









ごめんね。
でもおかげで助かった。
ありがとう。
遠ざかる少年に向かってつぶやいた。
残念だけど、あたしはチョウチョじゃないよ。
でも、この水色のワンピース、素敵でしょ?
だから、
あたしに手を伸ばしてくれたんだよね?







うれしい。







最後に、あたしの名前を教えてあげる。
オオミズアオ、って言うの。
見つけてくれて、ありがとう。


少年の姿が見えなくなる前に、
あたしはもう一度、そうつぶやいた。







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