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ビデオ通話

それは、本当に偶然だった。
私がビデオ通話のテストをしていたら、なんと古い友人のジェイクと繋がったのだ。

この偶然を、私たちは心から喜んだ。
そして、ジェイクが昔のエピソードを語り始めた。

最初は懐かしい思い出話だった。
しかし少しづつ、彼の言葉に感情がこもり始め、半分泣きそうな顔で語り始めたのだ。

私は驚いた。
再開はたしかに嬉しいが、泣くほどのことではない。

しかも彼の話には、私の知らない出来事も含まれていた。

ジェイクは熱心に語り続けた。
知らない過去の思い出がどんどん出てきて、私はすごく混乱した。

私たちは確かに同じ瞬間を共有してきたはずだった。
なのになぜ、私はジェイクの語る出来事が分からないのか、理解できずにいた。

私が「そんなことあったっけ?」と聞くと、「なぜ覚えていないんだ!」とか「大切な思い出なのに」と、問い詰められること……。

ジェイクの態度は険悪になっていった。

私はジェイクの剣幕に圧倒され口ごもりながらも、なぜか彼に対する感情が変わらないことに気がついた。

普通なら、嫌味の1つでも言って通信を切るだろう。
だがなぜか、そんな気にならない。

ジェイクの態度を腹立たしく思いながら、それでも友人として親しみを持っていたからだ。

だが、私が何度も「覚えていない」と言うと、ジェイクはついに泣き出してしまったのだ。

そして……。

「君の愛情はそんなものだったのか。なぁシェリー」

そう言った。

私は驚いてジェイクに聞いた。

「なぁジェイク。俺の名前はマイクだ。俺のことを忘れちまったのか?」

すると、ジェイクは驚いた顔で応えた。

「マイク? いつからそこに居た?」
「最初からだ。ずっと思い出話をしただろう?」
「……」
「ジェイク?」
「……すまない。また連絡するよ」

そう言うと、ジェイクは通話を切ってしまった。


それから数週間後。
ジェイクから手紙が届いた。

あの日彼は、天国とつながる、という方法を試していたらしい。
そして、たまたま私のビデオ通話と繋がったようだ。

ただジェイクから見た画面には、私じゃなく彼の亡くなったパートナーが写っていたという。

だから私にはわからない、ジェイクの思い出話が沢山出てきたのかと、妙に納得した。

と同時に、激しい後悔の念が押し寄せてきた。

ジェイクにとって最愛の人との会話。
その最後に、私は何度も「分からない」と言ってしまったのだ。

しかも、そのままジェイクとパートナーどの通信は切れてしまっている。
私が「俺を忘れちまったのか?」なんて、余計なことを言ったせいで……。

そう考えると、いたたまれない気持ちになった。


その後、ジェイクとは連絡を取っていない。
彼は元気だろうか。

〈了〉

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