小説創作で学ぶ文章の技術

出版社「文芸社」が運営する通信講座。文章と小説の書き方について添削サポート。 初学者…

小説創作で学ぶ文章の技術

出版社「文芸社」が運営する通信講座。文章と小説の書き方について添削サポート。 初学者からプロの作家志望の方まで受講できます。 受講申込み受付中。お問い合わせなどは manabu@bungeisha.co.jp までお気軽にどうぞ。

最近の記事

散策的な、あまりに散策的な3

フランケンシュタインの正体 「冬来たりなば春遠からじ」という言葉を聞いたことのある人は多いだろうが、この言葉の出典を知る人はほとんどいないのではないだろうか。実はこれ、イギリスの詩人パーシー・ビッシュ・シェリーの詩の一節なのである。と、勿体ぶって言ってみたところで「誰だそれ?」と言われることはわかっている。しかし、彼の妻メアリー・シェリーであれば、その名を知る人は世界中にたくさんいるはずだ。それというのも、彼女は小説『フランケンシュタイン』の作者だからである。  フランケ

    • 散策的な、あまりに散策的な2

      インスピレーションについて  ジョニー・デップが好きで彼の出演作を見まくった時期があった。その中に『デッドマン』という珍妙な西部劇があり、強烈な印象を心に残している。  1995年公開の映画だが映像はモノクロ、音楽はギターのみで(なんと、すべてニール・ヤングの即興演奏)、一部のセリフは哲学的すぎる。予備知識なしに観たため面食らったが、生と死の狭間を揺蕩うように終着の場所へと運ばれていく男の旅路を見守るうち、酩酊感にも似た心地よさを覚え、けっこう過激なシーンなどもあるのだが、

      • 散策的な、あまりに散策的な 1

        文学とくしゃみ 「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする」と人間を評したのは、『吾輩は猫である』の名もなき猫だった。陰にこもった情感が滲むように発する「音」に、人は良くも悪くも惹かれる。 そしてこの「音」には、くしゃみのように思わず出てしまう性質のものがあって、私はそれを文学的だと思う。 私は二六歳のときに初めて喫煙した。もともと煙草には全く興味がなく、むしろ嫌いであった。けれども、中上健次の『十九歳の地図』を読み終えた途端、なぜか異常に吸いたく

        • Hello, Goodbye「金曜日の挑戦」

          当講座の企画「金曜日の挑戦」が終了する。2021年1月22日にはじまって約2年半、全87回の出題をしてきた。残り3回、全90回をもって終えることにした。初回のツイートはこちらであった。 5件の「いいね」が付いている。そのうち2件は弊社の販売部と企画編集室によるので、実質は3件ということになる。見方によっては「たったの3件」「回答はゼロ」だが、こんな唐突な、しかも応答したところで何のメリットもない問いかけに反応をいただいた「中の人」は、密かに小躍りしていた。(ちなみに初回の答

        散策的な、あまりに散策的な3

          「えほん大賞」の最終選考会から見えてくる審査のポイント

          2022年10月10日応募締切の「第23回 えほん大賞」の最終選考会が12月6日に実施されました。最終選考ノミネート作は次のとおりです。 最終結果については後日、正式に発表されますが、この記事では最終選考会においてどのような観点から作品が評されたのかをまとめたいと思います。ノミネート作品の個別的な評価ではなく、選考委員の審査ポイントを整理しますので、次回「えほん大賞」にチャレンジされる方はご参照くだされば幸いです。

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          「えほん大賞」の最終選考会から見えてくる審査のポイント

          「文章読本」を読み比べる(第3回)

          第1回 は こちら 第2回 は こちら 今回は、谷崎が「現代の口語文に最も欠けている」と指摘する「音調の美」から考えていきましょう。 なぜ「現代の口語文に最も欠けている」のかといえば、朗読の習慣が廃れて、黙読が一般化したことからだと谷崎はいいます。しかしながら「今日においても、全然声と云うものを想像しないで読むことは出来ない」と述べ、心のなかで声を出し、聴きながら読んでいるのだから、文章の音楽的要素をなおざりにしてはいけないと主張しています。 ここで谷崎が標的としている

          「文章読本」を読み比べる(第3回)

          MARE展にお邪魔しました。

          文芸社×毎日新聞社 第2回人生十人十色大賞 長編部門の最優秀賞受賞作『マレタイム』。 『マレタイム』は、ダウン症を持って生まれた息子との普通で幸せな毎日を綴った家族の記録です。その著作者である佐々木真紀さんのお子さん、希(まれ)君の作品展が先日、開催されました。 希君の作品の数々が、空間いっぱいに展示されていました。また、ご両親(真紀さん・海さん)共作の絵本や、海さんによる遊び心いっぱいの作品なども並んでいました。カラフルに彩られた作品、身近なものを素材にした立体的な作品、

          MARE展にお邪魔しました。

          「文章読本」を読み比べる(第2回)

          「文章読本」を読み比べる(第1回)は こちら 前回に引き続き、谷崎潤一郎の『文章講座』を取り上げます。前回で触れた谷崎の主張の要点は次のとおりでした。 ・「文章に実用的と芸術的との区別はない」 ・「最も実用的に書くと云うことが、即ち芸術的の手腕を要するところ」 ・(散文(「現代の口語文」)は)「分らせるように書く」ことが肝心 難しい単語や言い回しなど馴染みのない(日常的ではない)語彙を駆使すれば「芸術的」となるわけではありません。華を去り実に就くというように「簡単な言葉

          「文章読本」を読み比べる(第2回)

          「文章読本」を読み比べる(第1回)

          『文章読本』は、1934年に刊行された谷崎潤一郎による文章講座の随筆集です。その後、菊池寛や川端康成、三島由紀夫、伊藤整、中村真一郎らが同じ書名で文章講座を発表しています。ここでは、いくつかの「文章読本」を読み比べて、それぞれの作家たちが文章についてどのようにアプローチしているのかを明らかにしたいと思います。その上で、文章の書き方と読み方のエッセンスを抽出できればと考えています。 まずは、谷崎潤一郎の『文章読本』を取り上げます。関東大震災(1923年)を機に関西へ移り住んだ

          「文章読本」を読み比べる(第1回)

          「ま、いっか」の功罪

          公募・コンテストの一次審査を通過するために必要なものは何か。その問いに答えるのは非常に難しいが、一次審査を通過する作品に共通する事柄がある。それは、丁寧であること。 以前、次のようにツイートしたことがある。 巧拙の話ではなく、丁寧であるか否か。封書やレターパックに書かれた文字、作品に添付された「あらすじ」、原稿の綴じ方など、応募原稿の中身とは別の部分の印象と、作品の出来栄えは決して無関係ではないというのが、10年以上審査に携わってきた者の経験則である。 丁寧の対義語は、

          「ま、いっか」の功罪

          「金曜日の挑戦」について

          株式会社文芸社の通信講座「小説創作で学ぶ 文章の技術」が行っている「金曜日の挑戦」。毎週金曜日、Twitter上で、小説から引用した一節のなかで伏字としている比喩表現は何かを考えていただく、という企画である。 2021年12月17日(金)現在、42回目を迎えた。何事にも飽きっぽい中の人がこれまで継続できているのも、フォロワーをはじめとして、ご参加いただいたすべての方々(挑戦者たち)のおかげである。この場をお借りして心より感謝申しげたい。 一部のフォロワーの方から「比喩クイ

          「金曜日の挑戦」について