2つの慟哭/NHK大河ドラマ『光る君へ』第5回
ついにまひろは、三郎(道長)が道兼の弟であることを知った。
(以下、ドラマの内容を含みます)
だが三郎は、6年前のことを知らない。まひろに会いたいと文をよこしたのは、ただ素性を明かさずにいたことを謝るためだった。
屋敷ではなく、どこか二人きりで会いたい。まひろは、あの日のことを家の誰にも知られずに、道長に話したかったのだろう。彼女が頼ったのは直秀。散楽の一員で盗人までやってしまう彼が、まひろを気にかけている理由が分からない。興味があるのは間違いないが。貴族社会を嫌っているのに、道長のことも嫌いではないようだし。まだまだ謎の多い男。昔塩軍団だった毎熊さんが、大河ドラマの序盤からこんなに重要な役で登場するなんて、ちょっと感慨深い。
「私が三郎に会いたいと思わなければ」
道兼のやったことを反故にした父親を責めながらも、自分のせいで母親が死んだのだと、あの日からずっと後悔を胸にしまってきたまひろ。幼子の面影を残しながら泣きじゃくる吉高さんに目を奪われ、その慟哭にこちらも涙した。そしてまひろの後悔が、何も知らなかった道長にとってどれほど残酷なものだったか。ただ謝罪することしかできない道長が気の毒過ぎた。
彼はまひろのことを「信じる」と言い、彼女を直秀に託して、その場を静かに立ち去った。
「帰るのかよ……」
直秀のツッコミはたぶん、視聴者全員の総意だろう。
まひろの悲しみと怒りと後悔、まひろの母が殺される遠因になった自分、あの日見た道兼の顔。すべてが道長を揺さぶっていた。彼は声に出していないけれど、私には道長の慟哭が聞こえた。
道長の怒りは、静かで青い炎だなあと思いながら観ていた。その怒りのままに道兼の元へ馬を走らせる。兄は「お前が俺をイライラさせるからだ」と逆ギレし、父・兼家にいたっては、マイペースな道長にも怒りを滾らせることがあるのかと喜ぶ始末。兼家が怖い。完全に毒親である。前回の詮子の件も然り。子どもを出世の道具としか見ていない兼家は(そういう時代とはいえ)、しっぺ返しをくらうことはないのだろうか。兄と父の仕業に、道長の心は壊れないのだろうか。
詮子の怒りと悲しみだって、このまま終わるはずがない。詮子って、どうなるんだっけ?と史実を調べたら、なるほど。もしかして、道長とは幼いころから仲良しという設定が、後になって効いてくるの? 個人的にこのドラマの道長に親近感があるのは、末っ子っぼいところ。実際には末っ子ではないようだが、兄や姉の行動を見て、自分はどう動こうかと考えるタイプなのではないか。私にはそんな風に見える。姉に好かれているのも、分かる気がする。
大河が始まる前、「紫式部と藤原道長はソウルメイト」という設定を耳にした。この回で、胸の中の漆黒を共有することで、2人は恋人や家族とは違う運命共同体となったのかもしれない。それでも、まひろは道長に会えば事件のことを思い出し、道兼のことを思い出し、母のことを思い出す。最後に自分を責めるというループに陥るのは間違いない。
会いたくない、でも会いたい。そんな2人になるのか? どうなのだろう。倫子との関係も気になるし、清少納言の登場も気になる。
次の日曜日も楽しみだな。
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