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150cm未満の恋

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田崎智也の初恋について
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150cm未満の恋

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 おれは考えた。奏多兄ちゃんが言う通り、橘先生と星川先生は付き合ってない。そう思って見ると、段々そんな感じに見えてきた。それに、橘先生はおれが星川先生を好きなことに本当に気付いてない。その証拠に、橘先生はおれにやたらと女子の間で流行ってる物をリサーチして教えてくる。おれにこんなアイドル目指せっていうのか?勘弁してくれ。それよりも、おれはやりたいことを見つけた。おれは星川先生に、おれを見てもらい

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150cm未満の恋

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 一部始終を聞いたけど、よくわかんなかった。だって、デートしてたのは事実なんでしょ?仕事でもないのに、大人が男女2人きりでお茶するって、そういうことなんじゃ…。奏多兄ちゃんの根拠が聞きたい!
「店出たら、すぐ別れてたし。付き合ってはないでしょ。たぶん本当にたまたま会って、ちょっとおしゃべりしたって感じ」
「それってホントに『たまたま』かな」
「わ‼︎小夏、いつの間にいたのよ!」
「えへへ、さっ

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 その2人が入ってきたところを見てなかったけど、注文を聞きに行ったのが奏多兄ちゃんだったんだって。奏多兄ちゃんはすぐに橘先生だって気付いて、挨拶した。
「あれ?橘先生じゃん。お久しぶりです。相沢奏多です。覚えてます?」
「相沢⁉︎おー!久しぶり!びっくりしたー。や、すっかり大人になって!うわ、うれしい」
「ふっ、変わってないですね、先生」
奏多兄ちゃんと橘先生が盛り上がってるのを見て、星川先生

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 そう、おじさんの言う通り。あの先生。
「こいつ運動会の100m走で派手に転んでさ。ほら、かさぶたがちょっとあるだろ。あのときはもっと酷くてさ。結構な血が出てたんだよ。で、保健室に連れてってくれた先生がいて、その先生が『美人』だった。マジ美人。あの人だろ!」
おれはこくんとうなずいた。
「ふーん、美人」
「いや!俺の好みってわけじゃないよ!一般的に見て、美人さん枠に入る感じの人かなってかんじで

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 まだ6年生が走らなきゃいけないから、橘先生は申し訳なさそうな顔をこっちに向けて、おれと星川先生を見送ってた。競技の邪魔にならやいように、足早に保健室の外のドアに向かって歩いていく途中、星川先生は「大丈夫?痛そうだね」と心配してくれた。そのとき痛くはなかったけど、前に倒れたから、腕もやっちゃってるのに気付いて、その夜のお風呂が恐怖ではあったかな。
 保健室の先生がドアを開けて「ありゃー、やっち

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150cm未満の恋

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 それは、この間の運動会のことだった。秋のよく晴れた日で、まぁ、毎年の運動会同様に授業の無い非日常を楽しんでいた。おれの応援には、お父さんとお母さん、なぜかついでにおじさんもいた。クラス対抗競技以外で、個人で参加したのは100m走だった。その100m走でちょっとした事故があったんだ。
 橘先生は、おれに相当期待しているみたいだった。サッカー部で1番足が速いのがおれだから。だからか知らないけど、

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 これから行く店は、おじさんの行きつけのダイニングバー『ルーン』。おれは、そこの日替わりアイスクリームが好きで、おじさんに誘われればだいたいついていくようにしてる。おじさんの目的は料理やお酒の他に何かありそうだけど。まだ時間は夜の8時。おじさんはおれと来たいがために、仕事とか家事とか急いで片付けてるんだって。おれも似たようなもんだな。やることはちゃんとやってるから、ちょっとしたことは許してほし

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 夜、お父さんの弟で、おれのおじさんの真人さんが家に来た。
「ともやー、飲みに行くぞー」
「はーい」
おれはもう晩ご飯を済ませてて、宿題ももちろん終わらせてたから、ちょっと星を見に散歩に行く感じだけど、そりゃ親は心配だよな。
「真人くん、智也はまだ子供なんだから、あんまり遅くならないようにね。あと、飲みすぎないように」
「了解です!お任せください、お義姉さん!」
「智也がどうしてもって言うから

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 空は青く、雲は高くを流れていく。おれの心もふわふわと…、

 隣のクラスに行きかけたが、橘先生に呼ばれた。
「田崎、続きを読んでくれ」
残念だったな。おれはうつつを抜かしていても、ちゃんと聞いてるよ。
 教科書の文章を難なく読み始めると、1段落終わるところで止められた。
「うん、そこまで。ここで主人公の気持ちの変化が見られるが、どこがポイントかわかるか」
「2つめの文章です」
「…、素晴らし

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