150cm未満の恋

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 それは、この間の運動会のことだった。秋のよく晴れた日で、まぁ、毎年の運動会同様に授業の無い非日常を楽しんでいた。おれの応援には、お父さんとお母さん、なぜかついでにおじさんもいた。クラス対抗競技以外で、個人で参加したのは100m走だった。その100m走でちょっとした事故があったんだ。
 橘先生は、おれに相当期待しているみたいだった。サッカー部で1番足が速いのがおれだから。だからか知らないけど、おれが走る組は各クラスの足が速いやつらを集めたっぽかった。その中でもおれが1位になれるって思ってるらしい。
 1年生から2年生、3年生、4年生と順番に走り、5年生の100m走が始まる。1学年3レースずつあって、おれの出番は5年生の3レース目。それまで運動場の真ん中で体育座り。結構待たされるんだよね。
 ようやくスタートラインに立った。ちょっと緊張したかな。いや、だいぶ緊張してた。だって、両親見てるし、おじさんの声援でかいし。たまたま担当になったんだって言い張るだろうけど、スタートの合図出すの橘先生だし、めっちゃ「がんばれ!」って口元動いてるし。他人の期待って嫌い。「どうせ1位取れるから大丈夫、がんばれ」って思ってるんでしょ。取れなかったらどうするんだよ。
「位置についてー、よーい!」
パンッとピストルが鳴って、おれたちは一斉に走り出した。そして事故が起きた。
 密かなプレッシャーと一緒に走ってるやつらの速さを意識しすぎて、力みすぎたおれは途中で転けた。それも、スピードに乗ってたからかなり派手に。周りが「ハッ」て息を飲むのが聞こえたくらい。ダサすぎる。
「田崎!」
橘先生が駆けつける前に、おれは素早く立ち上がってまた走り出した。もう無我夢中だった。
 そしてゴールテープを切ったのは、なんとおれだった。みんなの「どうせ」がちゃんと成就して良かったね。息を切らしながら1位の列に並ぼうととぼとぼ歩いてたら、両膝からかなり血が出てるのに気づいた。そこに星川先生が駆けつけてくれて、保健室に連れてってくれたんだ。

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