150cm未満の恋

7
 その2人が入ってきたところを見てなかったけど、注文を聞きに行ったのが奏多兄ちゃんだったんだって。奏多兄ちゃんはすぐに橘先生だって気付いて、挨拶した。
「あれ?橘先生じゃん。お久しぶりです。相沢奏多です。覚えてます?」
「相沢⁉︎おー!久しぶり!びっくりしたー。や、すっかり大人になって!うわ、うれしい」
「ふっ、変わってないですね、先生」
奏多兄ちゃんと橘先生が盛り上がってるのを見て、星川先生は戸惑ってた。
「あ、こいつ相沢奏多っていって、俺が初めて担任として受けもったクラスにいた子なんですよ。今もう大学生だよな」
「そうです」
「へぇ、思い入れのある子なんですね。それに、こんなとこで会うなんて、すごい偶然」
星川先生が微笑んだのを見て、奏多兄ちゃんも美人だと思ったそう。
「てか先生、彼女さんとデートすか」
「バカ!そんなんじゃないって!」
「え?違うんですか」
否定されたけど、照れてる雰囲気が漂う。あやしい。
「すぐそこで、たまたま橘先生と会ったんです。せっかくだから、ちょっとお茶しましょうってなったの」
「そうそう!たまたま!」
「ふーん」
あやしい。奏多兄ちゃんは注文を聞いて、その席を離れた。
 厨房に行くと、おじさんが絡んできた。
「なぁ、知り合いなのか?」
「うん。智也の担任じゃん。元俺の担任でもある」
「あ!そうだ。運動会で見た顔だな。デートかぁ、いいなー」
「違うってさ」
「はぁ?ぜってぇーウソ」
「だよね」
 その後は、あんまり良くないことだけど、先生たちの様子を観察してたんだってさ。バレないようにね。それで話を聞いてると、何でかおれのことばっかり話してたらしい。
「相沢はウチの田崎といとこなんですよ」
「そうなんですか!確かに、どこか似てる雰囲気あるかも」
「相沢も田崎も冷静なところ似てるんですけど、田崎の方が子供らしい熱血な部分もあって、すっげーかわいいんですよね」
「んー…、そうなんですね」
「いや、相沢ももちろんかわいかったですよ!でも、いやー、田崎はかわいい」
「へぇー…」
「運動会での走りもすごかったじゃないですか!」
「あれはかっこよかったですね」
「でしょ⁉︎転んで、ケガをしても、すぐ立ち上がって、それで一等取るって、…俺は見てて感動しましたよ。あんな頑張り屋が俺の生徒にいるなんて、俺はうれしいです」
「羨ましいですね」
「他の生徒たちも頑張ってる姿が輝いてて、見てて気持ち良かったですし。良い運動会でしたね」
「ですね…」
「そうそう、その運動会を境に、田崎の様子がおかしくて」
「そうなんですか?」
「ここだけの話、どうやら好きな子ができたかもしれないんですよ!」
「ええ⁉︎」
ここで一旦ストップ。橘先生のことを一応かばっておきますが、おれのクラスメイトのこともちゃんと平等に評価していると思います。良い先生だって、お母さんたちから評判良いから。ただおれからの評判は良くない。だって、人の初恋をぺらぺら話しちゃうんだよ?しかもへらへら嬉しそうに。しかも!…、まぁ、続きをどうぞ。
「なんか上の空でニヤついてること多くなったんですよ。傷を見てニヤついて、星川先生のクラス見てニヤついて、マーチングバンド部の音聞いてニヤついて。俺が推測するに、田崎は運動会で何かがあって、恋に落ちてしまったんですよ」
「はあ…」
「おそらく相手は……」
そこで間が空いたんだって。なんでためるんだよ。すぐ言えばいいじゃん。星川先生、あなたです、って。
「まだわからないんですけど」
わからんのかーい。おれたち全員ガクッときた。星川先生も含め。
「でも、星川先生のクラスの子で、マーチングバンド部所属の子ですよ。心当たりないですか?たぶん、田崎が手当てされて帰ってきた後すぐ、あいつ生徒たちに囲まれてて、褒めちぎられてたんですよ。そのうちの1人の子が『田崎くん、とってもかっこよかったよ。うふふ』みたいなの言ったんですよ。それでキュンって!」
星川先生すごいな、引いてるのに、ちゃんと笑顔を保ってる。
「それか、運動会終わって、片付けの時か帰りの時か、2人きりになったところでみたいな!いやー!甘酸っぱいですね!」
「子供同士の恋ってかわいらしいですね」
うんうんと楽しそうに頷く橘先生を見て、星川先生はクスッと笑ったって。おれの知らない笑い方だってさ。
「俺も小5だったなー、初恋。みんなそれくらいなんですかね」
「え!気になります、橘先生の初恋。お相手はどんな子だったんですか?」
「う、んー…、同じクラスの子で、はっきりものを言う子でしたね。クラスをまとめるのが上手くて、何度も学級委員長に選ばれてたな。今頃どうしてるかなー」
「お付き合いされたんですか?」
「してないです。告白する勇気が無くて、片想いのまま終わりました」
「そうでしたか。悲しいこと思い出させてしまって、すみません」
「いえ、そんな。俺の恋なんてそんなもんですよ。星川先生は好きな人と付き合えなかったことなんて、無いでしょ?」
「まさか。私だって思い通りにいかない時もありますよ」
「そうですよね。はぁーあ、田崎の恋は実って欲しい‼︎俺のようにはなるなよ」
「ここで私に言っても、仕方ないですよ」
「ですね」
結局、楽しそうに仲良さそうにデートしてるじゃん。奏多兄ちゃんはこれのどこを見てそんな結論に至ったんだよ。おれにはわからん。百歩譲って付き合ってないにしても、もうすぐって感じじゃん。
 先生たちが店を出た後、おじさんがパッと思い出して騒ぎ始めたんだって。
「おい、そーた!智也の担任と一緒にいた美人、思い出した、智也の隣のクラスの担任だ!運動会で智也を保健室に連れてった!そうだよ!あん時と格好が全然違ったから気づかなかったけど、絶対そうだ!あの人だ!っか〜、先生同士でラブラブとは、なんてこったい」
「ふーん…」

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