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【第10話】網膜剥離闘病記 ~網膜剥離になりやすい人の特徴。手術は滅茶苦茶痛い!?~


明日退院できるか!?入院生活も終盤に。

最初で最後の夕食。

 その日の夕食はイワシのフライが主菜で、その他に根菜とこんにゃくの煮物と白菜ときゅうりの浅漬けが出された。イワシのフライにはお好み焼きソースのような甘めのソースがかけられていて、イワシそのものにもハーブで下味がつけられていた。
 普段は専ら朝食を摂らず、晩酌が基本の夕飯時は炭水化物を食べたり食べなかったりなので、お酒も飲まずに3食しっかりと食べるのは高校生以来かもしれない。毎回食事のトレーには食器と一緒にメニューの書かかれた小さな紙が添えられているが、そこには“米飯
180グラム”と毎回書かれていて、食べる前は少ないなあと感じるが、入院で体を動かしていないせいもあるのか、その量でもおなかは満足だった。

入院患者のおじさんとの会話

 夕食後、2種類の点眼とガーゼの交換を終えると、消灯時間までまた暇な時間がやってくる。その日の天気は、夜になると雨から次第に雪に変わる予報で、19時の時点で既に降っている雨には雪が混じっているのが片目で見てもわかった。夕食の食器の乗ったトレーをスタッフステーション前のカートに返却してデイルームに行くと、そこでよく鉢合わせる70代くらいのおじさんがその時もいて軽く会釈をした。僕と同じようにこのおじさんも暇なのだろう。一面ガラス張りの大きな窓からは病室の小窓よりしっかりと雪が降っているのを確認できた。何もすることがなくて僕が窓の外の雪を眺めていると、おじさんが「今夜あたり、積もりますかねえ」と話しかけてきた。「どうですかね、積もるような雪ではない気がしますけど」と応えると、おじさんはこのまま話してもいい相手という認識をしたのか、僕の眼帯を見ながら「眼科ですか?」と聞いてきた。これはもちろん“眼科に関する病気で入院しているんですか”という意味だと分かったので、「昨日手術だったんですよ」と、“はい”と答える代わりに言った。
 おじさんは、定年までは運送関係の仕事で日本中をトラックで走っていたことや、雪が降るとどこの峠が凍結するとか、どこの高速道路がチェーン規制になりやすいとか、窓の外に降る雪を見ながら話してくれた。
 それからお互いの入院の話になって、僕が次の日に退院だという事を話すと、おじさんは「俺はもう少しかかるんだよ」と言った。内科に入院をしているとのことだったが、あまり突っ込んだことを聞いていいものかわからなかったのでそれ以上は聞かなかったが、おじさんは元気で、体調が悪いようには見えなかったのでそこまで重篤な病気ではないか、もしくは治りかけている状態なのだと感じた。

家族と電話ができるのはデイルームだけ。

 おじさんがデイルームを出てしばらくすると、今度は若い男性が入ってきて、電話をかけ始めた。携帯電話での通話はデイルームでしか許可されていないので度々見かける光景だ。電話の相手は奥さんのようで、子供の今日の様子や、幼稚園であったことなどを楽しそうに奥さんから聞いていた。そして彼も次の日に退院するらしく、帰り道の途中で買って帰るものはあるかなど、奥さんの要望も聞いているようだった。僕も同じく明日退院だが、家で待っている妻も、成長を楽しむ子供もいない。どのくらいの入院期間なのかはわからないが、彼は家族のもとに帰宅できるのを楽しみにしていることだろう。僕はふと留守番をさせている飼い猫のことを思い出し、見守りカメラの映像を見たけれど猫はこたつに潜っているらしくその姿は確認できなかった。

ある夜の災難

 消灯時間の少し前に部屋に戻ると、東南アジア男性が隣のベッドに手術から戻ってきていて、看護師さんに術後の痛みを訴えていた。鎮痛剤の座薬を入れてもらったようで、しばらくするとそれが効いてきたのか、寝息が聞こえてきた。
 消灯時間になり廊下の照明や病室の照明が消されたので、ベッドの手元灯をつけてスマートフォンをいじりながら、友人に昨日中途半端な状態で送ったメッセージの言い訳をしたり、以前スマホにインストールした、面白いかどうかは別としてプレイすることが癖になってしまったぷよぷよのパクリのような海外のパズルゲームをして眠くなるまでの時間をつぶしていた。
 もう右目は、手術による鈍い痛みはあれど、極端に眼球を動かさない限り大きな痛みを感じることはなくなっていて、寝るときも支障はなかった。手元灯を消し、ベッドの背もたれをフルフラットにしてウトウトしていたとき、隣の東南アジアの彼が爆音でいびきをかき始めた。同じ病室の僕以外の2人もごそごそと音が聞こえたので、彼のいびきで起きてしまったのだろう。断続的ではあるが彼のいびきは朝まで続き、僕も、おそらく他のベッドの人もあまりよく眠れないまま朝を迎えた。

看護師による拷問!?

 1月25日、6時に起床するとすぐに看護師が朝の検温と血圧を測定に各ベッドを回る。隣のベッドの彼は、看護師に痛くても手術の翌日からなるべく歩くように指示されていたが、術後の幹部がまだ痛むようであまり乗り気ではなかった。次にその隣のベッドに看護師が訪問し、患者に「昨夜はよく眠れましたか」と聞いていたが、患者はあまり眠れなかったと答えていた。看護師は病状を心配してか、なぜ眠れなかったのかを詳しく聞こうとするが、その患者さんはうまく応えられていなかった。それもそうだろう。カーテン1枚を隔てただけの東南アジアの彼も聞こえる状況で「隣の彼の大いびきのせいです」とは言えない。それでも執拗に看護師は不眠の理由を聞き出そうとするものだから軽い拷問のようになってしまっていて、あまりにも気の毒だったので僕のところにその看護師が来た時に教えてあげようと思ったが、僕にはその拷問をしなかった。

#創作大賞2023


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