奨励賞の小説が単行本化されるまで
7月18日に刊行される「夏のピルグリム」は、「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。
「ポプラ社小説新人賞」には、「新人賞」「特別賞」「奨励賞」「ピュアフル賞」が用意されています(年によって異なります)。
誰に言われたわけではないですが、「新人賞」が金メダルだとすれば、「奨励賞」は銅メダルになるのではないでしょうか。
最終選考通過後に、奨励賞受賞の連絡をいただいたときは、嬉しさ9割寂しさ1割でした(なにも受賞しない可能性も多分にあったわけですから、嬉しかったのは間違いないです)。
100%喜べなかったのは、過去に「奨励賞」で単行本化された例がなかったのを知っていたからです(文庫本化はありました)。
「奨励賞」は読んで字の如く、「奨励されている」賞です。今後も、今後も精進して良い作品を書くことを奨励されているわけですので、まだ上積みがあるということを意味している(と思っています)。
小説の新人賞に詳しい人は知っているように、他の新人賞にも奨励賞はありますが、僕の調べた限り奨励賞の作品が単行本形式で出版された例はありませんでした。
ここから担当の編集者さんにたくさんのアドバイスをいただきました。
僕にとって、過去にない経験でした。今までKindleでセルフ出版を続けていて、文芸サークルや小説塾みたいな集まりに参加したこともなかったので、自作について詳細にチェックされたことがありませんでした。
アドバイスをいただいた瞬間、受賞の喜びは吹き飛び、僕の中でスイッチが入りました。これは出版するための「仕事」なんだと十全に理解しました。会社員時代にクライアントやボスの要求を実現するために工夫したように、多くの読者に喜んでもらえる作品を作らないといけないことを悟りました。
当たり前のことですが、出版社の人にとって出版は仕事ですし、企業にとっては事業です。
そこからアドバイスを参考に応募作の改稿をはじめました。いただいたアドバイスはどれも納得できるものでした。
ただ、それは「回答」ではないので、現在ある問題点の解決方法を自分で考えて、改良しないといけません。
余計なシーンを刈り取り、新たなシーンをつけたし、シーンとシーンをスムーズに繋げるように修正していきました。
その工程は、最初に作った曲りくねった道路を新たに引き直し、もっと走りやすい道に改造し、舗装し直すようなイメージです。
その工程を何度か繰り返すと、投稿した作品とは別物のように美しく生まれ変わりました。矛盾点が消え、こんがらがっていた糸が解けて、クライマックスに向けて強固な紐へとまとまりました。
見通しが良くなり、読者も安心して物語の道を歩けるようになったと思います。
全体からすると、変更した文章の割合はそれほど多くありません。それなのに、小説としては見違えるほどに良くなりました。
作者は思い入れがあるので、自分が書いた場面を削るのに躊躇しますが、他の人に指摘されると、レンズの焦点があったように、その場面が浮いていることが見えてきます。
小説はひとりではなく、大勢の人と一緒に作るものだとと実感しました。
その結果、奨励賞受賞作としては非常に珍しく、単行本形式で刊行されることが決まりました。
こうして美しく生まれ変わった「夏のピルグリム」は7月18日に刊行されました。よろしかったら、ぜひ書店で手に取ってみてくださいませ。