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ダサければカッコよくなればいい

 僕は中学1年生の時分、サッカー部に在籍していたんですが、あるときサッカー部顧問の先生から言われた言葉が、とても印象深く僕の心に残っています。
 それは新入部員の1年生たちに、ようやくユニフォームが配られたときのことでした。

 それは非常にダサいユニフォームでした。トップスが水色で、パンツが青。色味だけではダサさを伝えられないので心苦しいところですが、配られたビニールを開封しながら、みんながポツリポツリと、
「え……」
「ダサ……」
「ええ……」と口々に残念がったのです。
 かくいう僕も同じ所感でした。ダサい。

 すると顧問の先生がこう言いました。
「オマエら、いまこのユニフォーム見て『ダサイ』って思ったやろ?」

 こう言われてしまうと気が緩みます。本音を言っていいのか? ニヤつきながら顔を見合わせる面々。すると顧問の先生はこう言いました。
「オマエら、読売クラブ(ヴェルディ川崎の前身)のことは知ってるな?」

 これは1990年の話であり、まだJリーグ発足前、日本サッカーがプロ化する前の時代でした。なので実業団サッカーのことなんて知らないという人がほとんど。だけど僕らサッカー部に在籍する者たちなど、一部の人間は知っている、という時代。

「読売のユニフォームはな、正直言って、ダサい。なんちゅーか、のっぺりした深緑色でな、デザインといい、なんか華がないちゅーか。なあ? 思わんか?」
 どんなものか知っているみんなはクスクス笑いました。顧問は続けます。
「……せやけどな、読売、めちゃめちゃ強いやろ? ラモスがおって、北澤がおって、武田がおって、柱谷、加藤久……スター選手がいっぱいおって、めっちゃくちゃ強い。
 ほんだらな、コレ不思議やねんなあ、なんかあのダサいユニフォームがな、なんかカッコよく見えてくんねんな……」

 顧問が話の核心に迫ったことに気づき、にやけ顔から真顔に戻る部員たち。顧問の先生はとどめの一言を最後に加えました。

「だからそのユニフォームもな、強かったらカッコよく見える。な? オマエら強くなれよ。強くなってそのユニフォーム、カッコよく見せてみせろや」

 一瞬の間をおいて、キャプテンの大声の返事をきっかけに、みんなが声を張り上げました。

 ――あれから30年以上経つんですが、このシーンは僕の心に鮮明に刻まれています。
 そしてその後の人生において、これは装いだけの話ではない、ということにも気づきました。

 何かに一生懸命に打ち込んでいる人の姿は、迫力があったり、輝いてみえたりして、見る人の胸を打ちます。
 一生懸命に生きる人は、能力のみならず、グングンと魅力も増していきます。美しく、かっこよくなっていきます。

 心に火を灯すなどとよく表現しますが、本当に目に見えない何かが燃え上がって、輝いてみえてるのかもしれませんね。


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