剣の王子、書の王子
「兄さんこれ読んでよ」
「魔人殺しか。好きだな。ユージェフ」
まだ十歳の兄は寝っ転がっていた草原から立ち上がり、さらに幼い弟の差し出した書を手にする。
王宮書院の書庫にある書のひとつであり、貴重な皮紙が使われている伝説の記録である。
かつてこの世界に現れ、今も在るとされる人ならざる人――魔人について記された書であり、それを打ち倒した英雄王アルターブの冒険譚でもある。
いわばアルターブ王国建国記の一部であり、原書として貴重な品である。
だが彼らにはそれを自由に持ち出す権限がある