見出し画像

つかえないアルバイト

 今日は、珍しく家で天ぷらを作った。ちなみに「天ぷら」を「天婦羅」と書く人はこの世界にどのくらいいるんだ。頼むからそれをするのは、作家だけにしておくれよ。と思ったけど、この前入ったお蕎麦屋さんも「天婦羅!揚げたて」って書いてあったな。
 学生のとき一瞬だけやっていた、スーパーの惣菜コーナーのアルバイト。スーパー短期間のアルバイトだったから友人と話す時のアルバイト歴にはカウントしていない。本当は冷凍食品担当で品出しがしたかったんだけれども、気が付いたら白い服に身を纏い、髪の毛が落ちないように帽子を被って調理場にいた。

 社員さんとアルバイト、パートが何人かいる小さな調理場。アルバイト、パートは年齢層がバラバラだったけど、みんな仲が良さそうで和気藹々とやっていた。特にベテランのおば様パートがとにかくみんなに優しく気をかけてくれていた。
 そうそう、入った初日に言われたことをいまも忘れない。それは、社員さんの学歴について訊いてはいけないということ。超が付くほど有名大学を出たのに、スーパーで惣菜を作っているのがコンプレックスらしい。有名大学を出た事実は変わらないんだから、自慢したって良いのにとは、初日の私には言えなかったよね。
 話は戻るけど、私は学生だったから、大学終わりに夕方からシフトに入ることが多くて、調理場と言っても出勤したら殆どが、後片付けと翌日の準備。
 
 今日は、3日目の出勤だ。閉店まで残り1時間。掃除の時間だ、何合炊けるのか結局最後までわからなかった炊飯器と寿司のシャリを自動で握る機械をスポンジで綺麗に洗って、焼き鳥を焼く巨大なオーブンみたいなやつの電源を落とし、それが終わったら汚れた床を水で流す。「あれ?今日は、揚げ物のフライヤーの電源が付いているな。消し忘れかな」
その後、水回りに残されたボウルを洗って食洗機にかける。
 
 社員さんが、調理場に戻ってきたのを見て慌てて他のアルバイトが手を動かし始める。社員さんが私を見て

「ここに置いてあったボウルどうした?」
「洗って食洗機に入れました」
「ええー!天ぷら粉残ってたじゃーん」

完全にやってしまった。

「これからもう少し揚げるんだよー」

そんなこと言われてももう流しちゃったし。
だから今日は、フライヤーの電源がこの時間でも落ちていないのか。でも天ぷら粉はボウルの底の方にちょっとあるだけだったし、使い終わった残りだと思ったし、何より3日目の奴に「残ってたじゃ〜ん」とか言われてもね。
 スーパーの惣菜コーナーは、値引きをするタイミング、商品を補充するタイミングなどなど裏でかなり考えている。廃棄は、一つでも減らしたいが、品切れは避けたい。遅い時間でも来客が多いと思ったら、揚げ物なんかは、再度作ったりするのだ。
私と社員さんのやりとりを聞いて不穏な空気が充満する。社員さんは、一人黙々と薄力粉に水を足して、天ぷら粉を作り始める。今日も疲れた顔をしている。そんな顔を見ながら、私たちアルバイトは、無言で床を磨くしかなかった。
 
 結局私は、その後何日か出勤して、昔痛めた腰痛が再発した。
ことにして、そのスーパーを去った。もともと短期での採用だったけれど、さらに短いスーパー短期で終焉を迎えた。
 大人になって思う。2つの意味で腰抜けアルバイトだなと。
 それでは、また!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?