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バナロ島(仮称)の一致しない姓・屋号・門中名#1|Field-note

このシリーズはかなり具体的な社会関係を聞き書きしているため、地名を伏せます。こみいった内情がテーマですが、家や家筋、屋敷筋に関する昔の慣習と、門中化が進んだあとの正統性のとらえ方や災因論によって偏向された考え方とがぶつかる様子がうかがい知れる資料だと思っています。


各世帯の姓・屋号・門中名は、理念型としてはある程度の統一性があるものだという刷り込みが私にはある(もちろん屋号は連続した系譜的関係を示すものばかりでないことは百も承知だが、と急いで付け加えておく)。

しかし、バナロ島(仮称)では各世帯の姓・屋号・門中名がバラバラに共存している例が多い。そのような姓・屋号・門中名の不一致ないし不統一にいたらしめる背景として、次のような状況が調査資料から抽出された。


Ⅰ型:幼い頃に他の門中の家で育てられたことに由来する

幼い頃に兄弟が多いとか家計が苦しいなどの理由で、他の家で育てられることがあった。この慣行および当事者たる子を、土地の言葉で「モライングヮ」、あるいはもっと古い言い回しで「シカネングヮ」といい、家を継がせる目的の養子とは区別している。

このケースでは、門中帰属は生得のままだが、姓や分家後の屋号は養家から受け継ぐ習わしである。なぜならば分家に際して養家の経済的援助を受けるからである。古くは門中帰属も変更していたらしく、(ユタに指南されて)それを正すための近年の門中変えがみられる。

なお、養家は原則としてエーカ(親戚)の範囲から選ばれる。

Ⅱ型:非嫡出子であり、母の生家か婚家で育てられたことに由来する

いわゆる婚外子であるため、母親が結婚していなければ母の実家で、結婚していれば母の嫁ぎ先で(秘密裏の場合も多い)生活する。

分家の際は費用を養家に捻出してもらうため、姓・屋号は養家に準ずることになる。門中帰属に関しては、生物学的な意味での父親が認知されている場合は父系に沿うが、そうでない場合は非父系に組み込まれ、(ユタに指南されて)のちのち帰属を変更するはめになることが多い。

父親が分かっていながら養家の門中に所属する例もかつてはあった。

Ⅲ型:本家に財力がなく、妻方の援助で分家したことに由来する

妻の生家の援助で分家した場合、自身とその子らは生まれながらの門中に属するが、姓・屋号は往々にして妻の生家にしたがう。

Ⅳ型:男児が生まれず、他の門中から養子をとったことに由来する

養子になる者は、門中帰属も生家から養入先へと変更していたが、(ユタに指南されて)近年再び血筋の門中へと編入しなおす傾向にある。帰属を全く変更せずに養入し、その前後で当家の所属する門中が異なるという例もある。

Ⅴ型:男児が生まれず、他の門中から娘婿をもらったことに由来する

Ⅳ型と同様。

Ⅵ型:空き家に移転したことに由来する

位牌がない空き家に転居すると、姓・門中名は移転者の生来のままだが、屋号は前住者もしくは屋敷のものが継承される。

次回以降、上記の姓・屋号・門中名の不一致について事例を挙げて説明することで、そのおぼろげな輪郭に肉づけをほどこしていきたい(Ⅳ型に該当する事例は調査対象の門中ではみられなかったので省略する)。

なお、まぎらわしさを避けるために、屋号は太字のカタカナで、姓にはかぎ括弧をつけてそれぞれ記すことにする。

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