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家族のこと

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私は家族が大好きです。変わり者で破天荒な父と優しく器のでかい母、ちょっと早めに空へかえった兄の話を主に書いています。
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#エッセイ部門

父の薬

父の薬

最近の私は職場でも薬のセットをして、実家でも薬のセットをしている。

81歳の父、70歳になろうという母どちらもこれまで健康であり、定期的な受診や内服薬とは無縁の人たちであった。

父は去年の冬に新型コロナに感染した。
年齢も年齢なので心配していたが微熱と関節痛くらいで軽症であった。
その後、数日間あけて母と私も感染したが母が最も症状が強く救急を要請したほどであった。

「俺のせいでお前達に感染さ

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忘れていくこと

忘れていくこと

近所に住む高齢男性が最近よく下着姿でウロウロしている。
1軒1軒ご近所のお家の表札をじっと見て指でなぞったり、門扉の把手をガチャつかせたりすることもあるそうだ。

私はそのオジイをよく知っている。
小さい頃から可愛いがってくれていたから。
よく声を掛けてくれていたから。
「かをちゃん、おかえり!」
「かをちゃん、運動会がんばれよ!」
「かをちゃん、ちぃとスカート短かすぎやしねえか」
「かをちゃん、

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お兄ちゃん、またね。

お兄ちゃん、またね。

私には4歳年長の兄が1人いる。
聡明で勇敢で公平で、そしてとにかく優しい兄だ。

そう、兄はとても優しかった。

兄の優しさについていつかnoteに書きたいと思っていたが、それは少しつらい作業になるため躊躇っていた。
それでも書いてみようと、ようやく心が決まった。

兄は大学を卒業したあと就職し、その翌年には実家を出て1人暮らしを始めた。
1人暮らしを始めて数年たった頃、兄に病気が見つかった。

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父のお土産

父のお土産

「お土産」が好きだ。
旅のお土産はもちろん、たとえばコンビニで買ってくれたちょこっとした何かでもとても嬉しい。

母方の祖父はお土産をしょっちゅう買ってくる人だったそうだ。
夜中に酔っ払って帰ってきては、ぐっすり眠っている幼い頃の母たち(6人姉弟)を片っ端から叩き起こしていたという。

「キャラメルやチョコレートなんてなかなか買えなかったから嬉しかったよ。」
「アイスキャンディーなんか取り合いして

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結婚と井戸

結婚と井戸

母は15歳の時に福島から上京し、下町のとある会社に住み込みのお手伝いさんとして就職した。
その会社には父も勤めていた。
父は母より一回り以上も歳上であった。

母は当時の父の印象を次のように語る。
「しょっちゅうズボンや上着を逆さに振って銭湯に行く小銭を探していた。」
「しょっちゅう二日酔いで仕事を休み、せっかく作った食事を無駄にしていた。」
「しょっちゅう社員寮を抜け出して飲み屋の女のところに入

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