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安直かよ 大阪府、地下駐車場保管作品をデジタル化で処分とか(5)

「昔のデジタルデータが読めなくなる」原因

 なぜ、昔のデジタルデータが読めなくなるのか。前回まで述べたことから、デバイスとブラウザ、そして外部記録メディアの変化に原因があることが判ります。
 デバイスには、デジタルデータを読み込みブラウズする(=表示して読める状態にする)パソコンやスマホ等の機器、そして、外部記録メディアを読み込む周辺機器等があります。データをブラウズするアプリには、データのブラウズに特化したアプリ(※14)のほか、そのデータを作成したアプリが含まれます。外部記録メディアには、外付けHDDやSSDの他、写真データの各種記録メディアや、フロッピーディスク、MOディスク、CD-R、DVD-Rも含まれます。
 データをブラウズするアプリを起動するには、そのアプリとパソコンのOSとの適合が必要です。そして、外部記録メディアを読み込むためには、そのメディアとパソコンのファイルシステムおよびメディアの読み込みデバイスとの適合が必要です。デジタルデータはこのように、こうしたデバイスとブラウザ、そして外部記録メディアのデータを読むならそのメディアとが適合している場合にのみ、読むことが可能です。しかしながら、時間とともに、デバイスとブラウザ、外部記録メディアは変わってしまいます。それらの適合はいつまでも続くわけではなく、適合外となったデジタルデータは読めなくなります。
 前回まで述べてきたMacの場合もそうですが、高度情報化社会と言われてこれまで30年あまりの間に、パソコン本体も周辺の環境も変遷し代替わりを繰り返してきました。1990年代初頭に薄いグレーだったMacintoshは、スケルトンボディを経て現在の金属ボディ主流のデザインになっていきました。OSは「漢字Talk」から「OS X」に、「OS X」以降もバージョンアップを繰り返し、ファイルシステムはHFSからHFS+、さらにAPFSに代替わりしています。それと並行して、外部記録メディアの種類も形状も変遷し続けています。そうした中で、「適合」の外となったデジタルデータは、読解ができなくなっていっています。

デジタルデータの儚さ

 いつものように使っていたMOが、CD-Rが、かつて作成したデジタルデータが、「遠く」なり、やがて読めなくなってしまう日が来る。それは、上に述べたような、デバイスとブラウザ、外部記録メディアの適合期間の時間的な限定性に起因します。「行く川のながれ」が「高度情報化社会」の時代の流れだとすれば、デジタルデータの可読期間は「よどみに浮ぶうたかた」のごときものでしょう。そしてそれは、「かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし」。
 デジタルデータを読むことができる環境は、あっけなく喪われます。デジタルの写真のデータならば、紙焼きの写真のように劣化はしません。しかしながら、デジタルデータの可読期間には時間的限定性がつきまといます。私は以前使っていた「ガラケー」を今でも大事に保管しています。あの「ガラケー」で撮ったかつて可愛がった犬、あの犬と一緒にいられた時間くらいに、デジタルデータの可読期間には限りがあると感じています。

「デジタルミュージアム構想」があるとのことですが

 大阪府の地下駐車場に保管されている「塩漬け」美術作品に話を戻しましょう。報道では、その「塩漬け」美術作品コレクションの「デジタルミュージアム構想」があるとのことですが、どのような手段で作品のデジタルデータを保管していくのでしょうか。
 上に述べたように、デジタルデータの可読期間には時間的限定性があります。それを鑑みれば、作品のデジタルデータを未来にわたって保管していく際には、その手段についても慎重に検討されるべきなのは明白です。こうした問題に解決策を見出そうとするならば安直な判断は避けるべきです。そもそも、デジタルデータとして実際に物体としてある作品を再現することが、簡単ではないのです。

次回に続きます。

[注釈]

(※14)例えばMacでは「プレビュー」などがある。

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