【完結】AFC U-23アジアカップ2022 若き「24人」の冒険
あらまし
2022年6月1日、2022 U-23アジアカップがウズベキスタンで開幕した。もともとは翌年のアジアカップを控える中国での開催予定(2022年大会から、オリンピック予選を兼ねない大会については、次の年に行われるアジアカップのホスト国で開催するものとした)だったが、新型コロナウイルスの流行により開催権を返上。代わりに中止した2020年のAFC U-19選手権の開催国を務めるはずだったウズベキスタンがホスト国になった。6月19日の決勝戦まで、国内各地で熱戦が繰り広げられる。
前々回の2018年大会は優勝、前回の2020年大会は4位と近年妙にこの大会に強いウズベキスタン。カパゼ監督率いるU-23代表は、今回も好成績を残せるか。
ウズベキスタン代表メンバー
リストを見て、ノルチャエフ、ジャロリッディノフと並び今大会の目玉だったイブロヒムハリル・ユルドシェフの名前がないことに気づいた。所属先のニージニー・ノヴゴロドで負った「軽い怪我(kichik jarohat)」の影響で選外となったとのこと。爆発的なスピードと圧倒的な攻撃力を持ち、フル代表でも主力に定着しつつある非常に有望な選手なだけに残念だ。
この世代は、ティーンエイジャーのころからウズベキスタン1部リーグを経験している選手が多い。しかし、まだ20歳そこそことはいえ「大人のサッカー」の高い壁にぶつかっている。ここから一皮剥けるかどうか、プロキャリア最初の分岐点にたどり着いた選手たちとも言える。
所属チームで早くから経験を積んできた選手が多いのと裏腹に、各カテゴリーの年代別代表として国際大会に出場したことがない世代でもある。2018年のAFC U-16選手権(予選落ち)、2020年のAFC U-19選手権(大会中止)とやむを得ない事情もあったとはいえ選手の国際経験は乏しく、ここ一番の緊張感や勝負勘がどうなのか気になるところ。
メンバー入りしているウズベキスタンの注目選手は以下の5人。
GKネーマトフ(背番号1、2001年生まれ)
ハイボール対応に不安はあるが、俊敏なプレーでゴールを割らせない大型GK。2019年シーズンに突如表れナサフの主力の座を確保。2020年の前回大会にも出場し4位入賞に貢献した。しかし昨季は不安定なプレーでポジションをエルガシェフに明け渡し、今季も厳しいレギュラー争いに明け暮れている。
MFジャロリッディノフ(背番号10、2002年生まれ)
攻撃に関する能力全てをハイレベルで備える特A級の逸材。16歳でブニョドコルからデビューするやいなやチームの核になり、ウズベキスタンごときでは収まらない豊かな才能を見せつける。2020年にロシア1部のロコモチフ(モスクワ)に移籍するが出場機会は皆無。代理人絡みのトラブルにも巻き込まれ失意のうちに帰国し、アンディジャンに電撃加入。試合勘とフィットネスを取り戻すと、ロコモティフを腰掛けして今オフにカザフスタン1部カイラトに移籍するという浮沈の激しい月日を過ごした。完全復活が待たれる。
MFホルマトフ(背番号17、2002年生まれ)
細かなステップで狭いスペースを通り抜け、必殺のラストパスを放つゲームメーカー。昨季パフタコルを率いたハイストラ監督に大抜擢。レギュラー選手としてデビューシーズンながら充実の時を過ごした。しかし実力者トゥルグンボエフを好む後任のヴォイネスキ体制に変わった今季は出番を失っている。所属チームではウイングだが、今大会は本職のセンターハーフでの起用が予想される。実父アクマル氏も長くウズベキスタン1部で活躍した元選手。余談だが、プロ初タッチでヒールシュートを決める離れ業を演じた。
MFエルキノフ(背番号7、2001年生まれ)
抜群のスプリント力と重心の低いドリブルでサイドライン際を突撃する実力派左ウイング。2020年シーズンに貸し出し先のAGMKでの活躍が認められパフタコルに復帰すると、マシャリポフを国外移籍で失ったパフタコルの左ウイングにそのまま定着。今季は絶対王者らしからぬ不甲斐ない戦いを見せるパフタコルにあって開幕から印象的なプレーを見せており、国内ではやることがなくなりつつある。
FWノルチャエフ(背番号19、2002年生まれ)
若手軍団ナサフのエース。独立で局面打開できるタイプではないが、年齢に似合わぬ落ち着きと正確なシュートが武器。相手を背負ってのプレーにも上手さを見せる。2020年からトップチームの出場機会を得ると、昨季はB.アブドゥホリコフが抜けたセンターフォワードの穴を埋めた。長足の進歩を遂げながらリーグ戦18ゴールを記録し得点王に輝く飛躍の1年になった。今大会ではナサフと同じワントップでの起用が濃厚。
今大会の出場選手は「1999年1月1日以降生まれ」が対象。これに対してウズベキスタン代表は1999年と2000年生まれの選手をあえて外した、2001年以降に生まれた選手のみでメンバーを構成する。「オリンピク」というチームに所属する選手が大多数を占めており、2024年のパリ五輪を見据えたメンバーであることを意味する。
ウズベキスタン以外には、日本がこの「五輪本大会を想定した選考」を行っている。また、伝統的に「今大会用の選考」を行うのは中東のチームに多い傾向がある(気がする)。
U-17、U-20ときてこれが最後の年齢別代表ということもあり、ここで力を認められれば自ずとフル代表への道が開かれる。前回大会のメンバーも(それ以前に既にキャップを保持していたが)アリジョノフ、ガニエフ、ボゾロフ、コビロフ、ヤフシボエフ、B.アブドゥホリコフ、アモノフ、アルクロフら多くの選手がステップアップ。若き主力として現在のフル代表を支える存在に育った。また、前回大会のボゾロフのようなニュースターが誕生するのもこの年代の魅力だ。
グループリーグ試合予定
ホスト国ウズベキスタンはグループAに入った。対戦相手と予定は以下の通り。当然だが、全試合が実質ホームゲーム。
カタール、イランの強豪と不気味なトルクメニスタン。ホスト国にも関わらず、そう簡単にいかなさそうな組み合わせとなった(前回大会の「ウズベキスタン、イラン、韓国、中国」よりかは幾分マシだが)。
私事で恐縮だが、珍しく本業が忙しい中大会が開幕する。そして8日からはフル代表の試合(アジアカップ予選)も始まる。眠れない日々が始まる……!
-----------------------------------------------------------------------------
❶トルクメニスタン戦(6月1日)
Koʻz qoʻrqoq, qoʻl botir
ウズベキスタンは首都タシケントのパフタコル・マルカジー・スタジアムで行われた緒戦。これまでに見たことのないほど大勢の観客がスタンドに詰めかけた。ウズベキスタンが主催する初めてのAFCの国際大会ということで、ファンもサッカー連盟も相当熱がこもっている。スタジアムは異様な雰囲気だ。
対戦相手はこの大会初出場、同じ中央アジアのトルクメニスタン。ここ数年アジア地域の大会でよく見かけるようになった国だ。最近は徐々に実力をつけてきており、現在はアジアの中堅国くらいに位置している。2019年のアジアカップで日本代表が思わぬ苦戦を強いられたのが記憶に新しい方もいるのではないだろうか。歴代大統領の強烈なパーソナリティと独自の政策により「謎の国」の印象が強いが、サッカーもしかり。国内リーグの状況、国の選手育成方針、注目選手と何もかも分からないのだが、とりあえずナメてかかると思わぬ火傷をするチームなのは確かだ。
もちろん隣国ウズベキスタンとも縁深く、最強時代のブニョドコルを影で支えたDFゴチグリエフ、黄金期ロコモティフの攻撃を引っ張った万能FWゲヴォルキヤン、正確かつ強力な左足で各チームを渡り歩いたMFアマノフなど、ウズベキスタン1部リーグで活躍したトルクメニスタン人選手も多い。
それなりに力の入った開会式の余韻も冷めやらぬ中、試合開始。
立ち上がりからウズベキスタンが攻勢をかける。自国開催で相当気合が入っているのか、立ち上がりからフルスロットル。トルクメニスタンを自陣に押し込めて一方的に攻め込む。しかしトルクメニスタンも深く引いてブロックを作って対応。ハーフコートマッチ状態にも関わらず、ウズベキスタンは相手ペナルティエリアにほとんど入れず、もどかしい時間が続く。特にジャロリッディノフに対して最大級の警戒体制を敷いており、激しいマークを受けまともにボールを触らせてもらえない。トルクメニスタンは11番のフドゥロフと10番のディニエフだけで攻めてくるが、ムービングストライカーの前者が時折前線をかき回し、意外に厄介。
ウズベキスタンの選手たちは開幕戦で明らかに動きが重く、よく組織され中央をしっかり固めるトルクメニスタン相手に中央から攻撃を試みては弾き返される。CBのハムラリエフが意表を突いて中央突破してみたり、コーナーキックのこぼれ球をブリエフがシュートしたりするも、DFとGKが身体を張ってゴールを割らせず。16分、ノルチャエフのクロスからエルキノフのシュートが決まったものの、直前のノルチャエフの折返しがビデオチェックの結果ゴールラインを割っていたと判定される不運もあった。
いずれにせよトルクメニスタンを崩す明確なアイデアは見えず、消化不良で退屈な前半が終了。
後半も状況は変わらず、ジャロリッディノフが燃料切れで早々と交代したり、両ウイングの運動量が落ちたりして前途に暗雲が漂い始める。このまま決め手を欠いて引き分け、あるいは不意を突かれて失点しそのまま負けるいつもの「ウズベキスタン的」な展開かと思われた73分、右からのコーナーキックに合わせたハムラリエフの力ないヘディングシュートが相手DFの手に当たりPKを獲得。これを途中出場のMFホシモフが辛うじてゴールに押し込み先制。
その後は疲労困憊のなかトルクメニスタンが最後の反撃。限りなくクロスに近いシュートがウズベキスタンゴールのクロスバーに直撃する事故はあったものの、それ以外は特に危なげなく凌いで1-0で試合終了。試合時間90分の大半が退屈で、決勝点はラッキーなPKだったものの、何とか開幕戦を勝利で終えることができた。
上述の通り選手がガチガチだったのもあるが、中盤から先の動きがまったくなく、ボールを保持していても全く可能性が感じられなかった。技術はあるが足元にボールを置いてプレーしたがるホルマトフとジャロリッディノフの2人をインサイドハーフに置いた逆三角形の中盤(布陣は4-3-3)にしたこともそれを助長したように見える。ワントップのノルチャエフは、相手の深い最終ラインに終始張り付いていたが、全体のラインが伸びてしまっていたことで孤立。敵守備陣に吸収されてしまい効果的なプレーができなかった。
一方で、大会前からの懸念点だった左サイドバックは、ユルドシェフの代役トゥルスノフが頑張っていた。トルクメニスタンは彼のサイドを狙っていたが、小さな身体を必死に投げ出して90分間を凌ぎ切った。攻撃参加はあまりなかったが、専守防衛の意識を全面に出したプレーは好印象だ。また、この日アンカーに入り驚異的なスタミナを見せたブリエフと、一人格の違いを見せた左ウイングのエルキノフが目立った。
どれほど強いチームにとっても緒戦というのは難しい。ましてや開催国のチームにかかる重圧は並大抵ではない。まさしく「Koʻz qoʻrqoq, qoʻl botir(何事も最初が一番大変)」であることを感じる一戦となった。次戦の相手はカタール。手強い相手だが、この試合で選手の緊張感もある程度はほぐれたはず。この日不発に終わったノルチャエフも含め、チーム全体が本来のパフォーマンスを発揮してもらいたいものだ。
なお、現在タシケント在住の筆者の先輩がこの試合を観戦しており、ブログに観戦記を書いている。実際の写真も豊富に掲載されており、現地の熱気が伝わってくる。記事はこちら。
ウズベキスタン1 - 0トルクメニスタン
6月1日 パフタコル・マルカジー・スタジアム(タシケント)
ホシモフ(PK, 75')
ウズベキスタン:ネーマトフ、ベギモフ、ハムラリエフ、ダヴロノフ(90'エブドゥマジドフ)、トゥルスノフ、ブリエフ、ジャロリッディノフ('71ファイズッラエフ)、ホルマトフ(62'イブロヒモフ)、ジュラクズィエフ(62'ホシモフ)、エルキノフ、ノルチャエフ(71'ジヤノフ)
警告:ダヴロノフ(79')、アブドゥマジドフ(81')
観客:28,670人(!)
❷カタール戦(6月4日)
Tor-mor!
開幕戦に勝利こそしたものの、何ともも言えない試合内容に今後の不安も募る中で迎えたカタール戦。カタールの緒戦はイラン相手に1-1の引き分け。映像を見ていないのでどんなチームかはわからないが、まあ弱くはないだろう。かつてこの世代の大会で猛威を奮ったアルムイッズ・アリーのようFWが今回もいるのなら、ウズベキスタンは大変なことになるぞ……。などど思いつつキックオフの笛が鳴らされた。
しかし、開始早々に試合は思ってもみない方向に動く。
5分、逆襲からボールを持ち出したジャロリッディノフ。カタールが許した僅かな時間とスペースを見逃さず、ペナルティエリア外から放った強烈な左足シュートは鋭く落ちながらニアポストに直撃しゴールイン。キャプテンの見事なゴールが決まってウズベキスタンが先制した。ゴール後、ジャロリッディノフはベンチに何かを持ってくるよう要求していたが、ベンチの準備がもたつく間に試合再開。彼が何をしたかったかはすぐ後に判明する。
いきなり先制パンチを食らったカタールも負けじと反撃。中東らしい、ねちっこさと俊敏さを兼ね備えたウイングとトップ下を中心に素早い攻撃を試みる。しかし、フル代表のことを思うと全然「来ない」。軽量級の選手が次々と襲いかかってくる、短剣のようなあの攻撃が、明確な脅威になる前に次々とウズベキスタンの中盤の圧力の前に封じられていく。そして空いたスペースに顔を出した青いジャージが一転攻勢。先制点で緒戦の固さが取れたか、ウズベキスタンが猛烈なゾーンプレスを炸裂。
20分には左サイドを抜け出しエリアに侵入したエルキノフが華麗なステップでDFを置き去りにし、角度のないところからシュートを決め2対0。
ウズベキスタンの選手はベンチが準備した白いTシャツをカメラに掲げ、天を指差した。シャツにはユニフォーム姿の選手の写真がプリントされ、その下には"всегда с нами「いつも私たちと共に」"の文字が書かれていた。昨年12月に亡くなったディヨル・ラヒムクロフへのメッセージだ。
ラヒムクロフは2002年生まれ。今大会のメンバー入りも有力視されていた逸材MFで、昨季レンタル先のアンディジャンでプロデビュー。ルーキーイヤーながら高い展開力と豊富な運動量でチームの主力として奮闘した。今後のキャリアが期待される中、シーズンオフの帰省中に自動車事故で帰らぬ人となった。大会メンバーのジャロリッディノフ、ブリエフ、ジュラクズィエフは同い年かつ同じブニョドコルの育成組織出身。彼らが故人と親しかったことは、Championat.asiaの追悼動画からもわかる。
なお、彼を大会に「帯同」させることを提案したのはカパゼ監督、シャツを用意したのはジャロリッディノフのようだ。イブロヒモフが試合後のインタビューで明かしている。
志半ばでこの世を去った「24人目のチームメイト」に向けて、このあとウズベキスタンはシャツを掲げまくることになる。この2点目でカタールは目に見えて動きが落ち、対照的にウズベキスタンはさらに勢いづく。45分には相手のまずいパスミスをかっさらったエルキノフが単独で突破、最後はゴール前のノルチャエフが彼からのパスをゴールに流し込み3点目。
後半も攻撃の手を全く緩めないウズベキスタン。カタールの中盤はウズベキスタンのプレッシングを前に機能を停止。ウズベキスタンは次々と敵陣でボールを奪っては速攻をかけ、面白いようにゴールが決まっていく。
60分、GKに弾かれたノルチャエフのシュートのこぼれ球にホシモフが詰めて4点目。直後にはノルチャエフが相手DFラインを突破。止めようとカタールDFユースフ・アイマンが背後からボールを足先で突いてクリアを試みるも、そのボールがGKの逆をつくシュートになりOGで5点目。最後は左サイドを突破したジヤノフがエリア内で放った相手DFの股を抜く技ありのシュートがニアサイドを破り6点目。オウンゴールで挙げた5点目を除き、ウズベキスタンの選手たちは得点するたびに白いシャツを掲げ続けた。
戦前はどうなることかと思っていたが、終わってみれば大量6ゴールを奪いカタールを粉砕。2戦2勝でグループA首位の座をキープした。なお、1試合6ゴールというのも、6点差というのも大会新記録。2016年大会の韓国(対イエメン)、2020年大会のタイ(対バーレーン)が持つ5-0の記録を更新した。
門外漢のため采配を語るのはあまり好きではないが、試合はカパゼ監督の用兵がモノを言ったと思っている。
トルクメニスタン戦で中盤を機能不全にした「逆三角形、ホルマトフ起用」に1試合で見切りをつけ、センターハーフを2枚置く三角形の配置に変えた。ホルマトフの代わりはよりフィジカルがあり、相手を潰せるイブロヒモフ。結果、コンビを組むブリエフと息の合ったプレーで中盤の守備を引き締め、高い位置で次々とボールを奪い速攻を開始する起点となった。ゴール前に中盤の選手が次々と飛び込んでいくような攻撃ではなかったが、ゲームメイクはジャロリッディノフに任せるシンプルな方針が奏功した。
トルクメニスタンと違い、カタールが正面からぶつかってきたことも幸いした。長めのパスで中盤を省略しすぐに前線に預ける攻撃がハマり、次々とチャンスを作り出した。ボールをネットに入れられるかはもちろん選手の実力次第だが、時には運と勢いも左右する。この日のウズベキスタンにはどちらもあった。
カタール0 - 6ウズベキスタン
6月4日 パフタコル・マルカジー・スタジアム(タシケント)
ジャロリッディノフ(5')
エルキノフ(20')
ノルチャエフ(45')
ホシモフ(60')
ユースフ・アイマン(OG, 63')
ジヤノフ(67')
ウズベキスタン:ネーマトフ、ミルサイドフ(46'ベギモフ)、ハムラリエフ、ダヴロノフ、トゥルスノフ、ブリエフ(89'トゥルディアリエフ)、イブロヒモフ、ジャロリッディノフ('60ファイズッラエフ)、ホシモフ(60'ジヤノフ)、エルキノフ、ノルチャエフ(68'オディロフ)
警告:ノルチャエフ(7')、ジャロリッディノフ(31')
観客:29,754人(!)
2戦を終えて
首位通過!
カタールに思わぬ大勝を挙げたウズベキスタン。しかし、同時刻キックオフの同組イラン対トルクメニスタンも、ウズベキスタンの試合並に、またはそれ以上に驚きの結果になった。なんとトルクメニスタンが勝ったのである。
開始早々イランに先手を取られる苦しい立ち上がりながら、ウズベキスタン戦でも見せた粘り強さで踏みとどまり、PKと試合終了間際のナイスゴールで2-1の逆転勝ち。イラン相手に挙げたこの大金星は、大会初得点、初勝ち点、初勝利とめでたいオマケもついた。
グループ最大の敵はイランである。トルクメニスタン戦、カタール戦ともに勝利がマストで、イランとは引き分けられれば万々歳、負けても得失点差で辛うじて2位突破という想定をしていた。ウズベキスタンはイランが大の苦手。フル代表の戦績だが、イランとは通算12試合で1勝1分10敗と絶望的に相性が悪く、悲願のワールドカップ出場を何年も阻み続けてきた高い壁である。イランはウズベキスタンと似た、速さと強さを全面に押し出したスタイル。そのせいでごまかしの効かない純粋な力比べになり、当然実力の劣るウズベキスタンは押し切られて完敗というパターンがおなじみだ。
しかしそのイランが2戦を終えまさかの1分1敗と大ブレーキ。この想定外の結果により、最終戦を前にウズベキスタンのグループA首位通過が決まった。これで優勝した2018年から3大会連続のグループ突破だ。
完全に余談だが、ウズベキスタンのフル代表はカタールとトルクメニスタンとは相性が良い。これまで実力はそう変わらない割にカタールと妙に相性が良い気はしていたが、調べてみるとその通りで14戦やって9勝。トルクメニスタンに至っては10戦8勝と完全にカモ。U-23代表とは話が違うとはいえ、実績通りの2試合になったというわけだ。
なおイラン以上に韓国と相性が悪く、16戦で1勝4分11敗と救いがない。
決勝トーナメント1回戦の相手はB組の2位。オーストラリア、ヨルダン、イラクのいずれかになる。どこが相手でも厳しい戦いになりそうだが、短期決戦は勢いとラッキーボーイがチームの鍵を握る。「24人」で戦うウズベキスタン、カタールに大勝し他のどのチームより勢いに乗っている。そしてFWのホシモフが想定外の結果をこの2戦で出し、ラッキーボーイになっている。そして圧倒的な地の利もある。
エースのノルチャエフが不発気味でフラストレーションを溜めているようだが、それをカバーできるだけの選手がいる。また、この世代はウズベキスタンには珍しく守備がしっかりしている。まあ、細かいことは抜きにして、このままどこまでも突っ走っていってもらいたいものだ。
なお、トルクメニスタンにはグループ2位突破の可能性がある。次節のカタール戦に勝てば無条件で決定、敗れてもウズベキスタンがイランに引き分け以上で決まるという比較的有利なシチュエーション。お隣と仲良く決勝トーナメントに殴り込み……となるだろうか。
❸イラン戦(6月7日)
手に汗握る消化試合
身も蓋もないのだが、ウズベキスタンにとってこの試合の勝敗は勝ち上がりに全く関係ない。いわば消化試合だが、こうなったのは2連勝できたチームの特権とも言える。この試合、主力選手の休息と控え選手の試合勘確保のためメンバーを「落として」望むだろうことは容易に想像できたが、カパゼ監督は想像の上を行く、GKを含む11人全スタメン変更を敢行。
対するイランはこの試合に勝つことが最低条件。そのうえでトルクメニスタンがカタールに引き分け以下で初めてグループ2位通過の可能性が生じる。さらにトルクメニスタンには直接対決に敗れているため、タイブレーカーのでは不利。そこそこ厳しい立場に置かれており、何が何でも勝ちに来るだろう。
戦前の予想通り、立ち上がりからイランはワイドに開いたウイングを中心に激しい攻撃を仕掛けるが、控え主体のウズベキスタンも両サイドバックがしっかりこれに対応。ウズベキスタンは前節のカタール戦よろしく長いパスを用いたスピーディな攻めで応戦。この日のスタメン8人がオリンピク所属ということで、全く息が合わずに攻守ともにチグハグというシーンはほとんど見受けられない。あってよかったオリンピク。
しばらくがっぷり四つの状態が続いたが、この日も先手はウズベキスタンだった。ホルマトフの左サイドからのクロスにエリア内でジュラクズィエフが放った強烈なヘディングシュートが、キーパーの足元でバウンドする決まり1-0。絶対に負けられないイランは目に見えて焦り始め、縦に急いでは伸びたラインがウズベキスタンのプレスにかかり、思うように前に進めない。そうこうしているうちに前半終了。
控室でマフダヴィーキヤー監督の檄が効いたのか、後半のイランは戦い方を変えてきた。中盤を薄くして速攻をかけるウズベキスタンの姿勢を逆手に取り、FWを最終ラインに張り付かせ、中盤に空いたスペースを活用し中央を攻める作戦に出る。2点目を取りたいウズベキスタンが引き続き前がかりにスタートしたこと、守備力に不安のある中盤の構成も手伝い次第にイランが優勢に。GKのナザーロフがシュートブロックでチームを何度か救うものの、62分に右からの速いクロスをFWユーセフィーが合わせて1-1。
同点ゴールに俄然勢いづき、フィールドを幅広く使って攻めてくるイランを前にウズベキスタンは防戦一方。いつ守りが決壊してもおかしくなかったが、DF陣とナザーロフが体を張って急所は抜かせない。守勢に回りつつも途中交代のエルキノフ、ジャロリッディノフ、ノルチャエフでゴール前に素早く攻め込み、イランを押し返す。次第にイランもガス欠になり試合が膠着する中、終了間際にサーデギーのヘディングシュートがポストに嫌われ万事休す。試合はそのまま1-1で終了。ウズベキスタンにとって消化試合であることを忘れるような手に汗握る好ゲームは、あと1点の決め手を欠きドローに終わった。
ピッチに倒れ込み涙を流すイランの選手たち。勝利を逃し、この時点でよもやのグループリーグ敗退が決まった。
ウズベキスタン1 - 1イラン
6月7日 マルカジー・スタジアム(カルシ)
ジュラクズィエフ(22')
ユーセフィー(62')
ウズベキスタン:ナザーロフ、ソディコフ、アブドゥマジドフ、トイロフ(64'ハムラリエフ)、ベギモフ、トゥルディアリエフ、ファイズッラエフ、ホルマトフ(64'ジャロリッディノフ)、ジヤノフ(64'エルキノフ)、ジュラクズィエフ(86'ホシモフ)、オディロフ(53'ノルチャエフ)
警告:トゥルディアリエフ(66')
観客:19,876人
グループリーグを終えて
グループリーグの3試合が終わった。ウズベキスタンは2勝1敗、8得点1失点と上々の成績でグループAを首位通過。登録23選手中、第3GKのアブドゥナビエフを除く22人をピッチに送り出しての好結果だ。
グループAの他チームはというと、上掲の順位表を見ればわかってしまうが、なんと2位で通過したのはトルクメニスタン。最終のカタール戦は2点ビハインドから途中出場のムラドフの2得点で引き分けに持ち込んだ。3試合すべてで格上と目される相手に先制されながら、忍耐強く引いて守りワンチャンスをモノにするしぶとい戦い。GKラスル・チャリエフの絶好調と無類の勝負強さで勝ち点4を稼いだ。初出場で決勝トーナメント進出の快挙。トルクメニスタンを下に見ていたわけではないが、まさかカタールとイランがあっけなく敗退するとは誰が予想しただろうか。
好材料と懸念点
激しいプレッシングと個人技がウズベキスタンのグループリーグ好成績につながった。しかし不安要素も当然あったので、ここまでの所見を簡単にまとめてみる。
好材料:プレッシング
まずはプレッシング。ラインを高く保ち、各ポジションが連携して相手を追い込み、パスの向け先でうまくかっさらうことができていた。特にカタール戦では非常にうまく決まり、ブリエフとイブロヒモフのポジショニングと局面の強さが際立ち、次々と中盤でボールを刈り取り相手の自由を奪った。某イングランドの赤いチームが得意とする「ストーミング」のような大仰なものではないが、久しぶりにウズベキスタンが強かった頃のようなハードなプレッシングを見た。
最終イラン戦ではファイズッラエフと「潰し」を期待されていたトゥルディアリエフとの急増ペアが相手に自由を与えてしまい、チーム全体がズルズルと下がらざるを得ない局面を作ってしまったが、3試合通して見れば攻め気にはやることなくじっくり相手と対峙して守備できていたこと、各選手の意識が共有されていたことはとても良かった。
好材料:個人技
そして個人技。当然だが戦術だけでサッカーはできないので個々の選手のスキルに依る面も大きいが、今回のチームにはかつてないタレント力がある。何より目立つ左ウイングのエルキノフ。全試合に出場し、凄みを増した高速ドリブルで相手DFをキリキリ舞いにし、次々にチャンスを演出している。格の違いは、1ゴール2アシストの数字にも表れている。
彼以外にもジャロリッディノフとホルマトフの両MFは共に長短のパスでゲームを作り、巧みなボール扱いでゲームスピードを操作でき、自らゴールも狙う優れたプレーメーカーだ。前者は短いパスが得意でボールキープに抜群の自信を見せる左利き、後者が長いパスやサイドに流れてのクロスが得意でスルスルと相手をかわすドリブルに自信のある右利きと違いはあるが、よく似たタイプの選手。同じ2002年生まれという共通点もある。ジャロリッディノフはいつの間に身体が格段に強くなり、ブニョドコルにいた頃の荒い気性も丸くなった。冷静にゲームを読んで効果的なプレーを選択できる、うまいだけでなく「怖い」選手に脱皮しつつあるのを感じる。ゲームキャプテンを任されているのも、自分のプレー以外にも責任を持つほどの器になったということだろうか。カパゼ監督の信任に応えチームを牽引している。ロシアでは苦労したが、もともとワールドクラスの才能を持つスーパースター候補である。生き生きとプレーする姿を見て、神童の復活を確信した。
巧みなステップで切り込んでいくジヤノフ、鈍重だがパワフルで上背もあるジュラクズィエフ、自分のドリブルが足につかないほどの技術力だがスピードとフィジカルは強烈なホシモフ、この3人を併用する右ウイングも面白い。特にジヤノフはサプライズだ。今季のオリンピクの試合を見て気になってはいた選手だが、ここまでやれるとは。
また、登録メンバー最年少の18歳ファイズッラエフも、チーム内序列は高くないがグループリーグ3試合全てに出場。線が細くデュエルには全く勝てないが、定評のある高い技術とシンプルなプレーで年上相手にも堂々と渡り合っている。守備意識も高く、相手が疲れてきた後半に投入され、エネルギッシュにピッチを走り回っている。
守備については語れるほど詳しくないが、あっさり中央を割られたシーンはイラン戦の後半に一度あっただけで、まだ完全に崩されてはいない。
ユルドシェフを欠くサイドバックは、右はミルサイドフ、左はトゥルスノフが基本線。カタール戦で軽い負傷を得たミルサイドフの状態が不透明な中、両サイドをこなすベギモフの重要性が今後高まるだろう。これにローテーション要員のソディコフを加えた4人は圧倒的な個を持っているわけではないが、豊富な運動量と献身的なプレー、他選手と連動した守備でチームを支えている。また、守護神ネーマトフは出番が少ないとはいえ、ここまで問題なくゴールを守っている。
懸念点:エースの不振
気になることが全くないわけでもなく、セットプレーを攻撃に活かせていない点、ハードなプレッシングの代償かファールが多い点、そしてFWノルチャエフの状態があまりよくない点が挙げられる。
押しも押されぬナサフのエースでフル代表の出番も増えつつあるストライカーはここまで目立った活躍ができていない。リトリートした相手への引き出しに欠け「消えて」しまったトルクメニスタン戦を引きずっているのか、今季は開幕からリーグ戦に国内カップ戦にACLに出ずっぱりでへばり気味だからか。カタール戦で1点挙げはしているが、むしろ取り上げるべきは単騎でカウンターを成立させ決定機を作ったエルキノフ。
イラン戦も途中から出場したが、決定機を2度フイにするなど精細を欠いており、明らかにフラストレーションを溜めている。
もっとも、個人技で勝負するよりコンビネーションで攻めるタイプの選手。アシスト役にも恵まれているため、決勝トーナメントで本来のパフォーマンスを取り戻す可能性はある。幸いにもゴールへグイグイ向かっていくアグレッシブさは失われていない。エースが復調すれば、優勝もぐっと近づくだけに、彼の「ケチャップが出る」ことに期待したい。
懸念点:イブロヒモフの離脱
そして準々決勝を前に悲報が。
チームドクターのアブドゥラフモノフ氏によると、MFイブロヒモフがイラク戦の試合前練習で右膝を負傷。診断の結果、右半月板損傷と判明し手術を受けることになったとのこと。上の「プレッシング」の項でも取り上げたが、イブロヒモフはこのチームでは稀有なバランサータイプで、ポジショニングもよく周りとの連動で相手をしっかり潰せる好選手。相手の攻撃がより激しくなる決勝トーナメントは、カタール戦と同じく彼とブリエフのタンデムが最適だと予想していた。この離脱はチームにとって非常に痛手だ。
イブロヒモフ、ブリエフ以外の中盤の守備的選手にはトゥルディアリエフという選手がいる。上背とパワーがありCBもこなし、かつ正確なロングキックも兼ね備える珍しいタイプの選手だが、肝心の守備能力が今ひとつで中盤に入っても最終ラインに入ってもマークを明け渡す場面が多い。アジリティも低いためピッチのカバー範囲も狭く、ひと癖ある選手。
中盤の3人をどういう形にするのか。多少攻撃に割く人数を減らしてでも逆三角形にするのか、緒戦のトルクメニスタン戦同様、アンカーにブリエフを置いて前に2枚インサイドハーフを置く攻撃的な三角形にするのか。前者で行くのではないかと考えているが、そうする場合、誰をスタートのピッチに送り出すか。今頃はカパゼ監督が頭を悩ませているに違いない。
決勝トーナメントを前に
大会は一発勝負の決勝トーナメントに突入する。準々決勝の相手はグループB2位のイラクに決まった。イラク戦争でサッカーも壊滅的な被害を受けたが、1990年代後半生まれの若い選手の台頭もあり奇跡的な復興を遂げた。最後までB組1位を争っていたオーストラリアと比べると与しやすい相手が来た印象だが、それでもやはりグループリーグを突破した実力は本物だろう。
例の如くイラクの試合は見れていないが、いかにも中東のチームらしく浅めに守ってカウンターで来るだろう。押し込まれても急所は突かせない相手のしぶとい守りをどうこじ開けていくか。先述のセットプレーもポイントになる。ここまで直接フリーキックもコーナーも全てジャロリッディノフが蹴っているが、もう一山越えずに相手に跳ね返されている。受け手の動きも3試合見た中では特段オプションがあるようには見受けられなかったが、どうか。
ウズベキスタンの決勝トーナメントの予定は以下の通り。
ベスト8チームは、ウズベキスタン、トルクメニスタン、オーストラリア、イラク、韓国、ベトナム、サウジアラビア、日本。
準々決勝に勝った場合、ウズベキスタンの準決勝の対戦相手は韓国か日本。前者はもはや説明不要。どうやっても勝てない、ウズベキスタン代表が地球上で最も苦手なチーム。後者は当然強い上に、ウズベキスタンと同条件の2001年生まれ以降の選手で構成されている。どちらがマシとも言えない顔ぶれ。何かの間違いで決勝に進めば、反対側の山からオーストラリアやサウジアラビア、そして4年前の常州で猛吹雪の中死闘を繰り広げたベトナムが上がってくる。
なお、隣国トルクメニスタンの緒戦はB組1位のオーストラリア。見るからにキツそうな相手だが、サッカーは名前とメンツだけでやるスポーツではない。ここまで見せている、およそ中央アジアの国とは思えない忍耐力と冷静さをもってすれば善戦し、あるいはオーストラリアさえ喰ってしまうかもしれない。
大会を山に例えると、今は頂上を頭の片隅にぼんやり意識し始める5合目。ここからは負けられない一発勝負となり、試合の緊張感はぐっと増していく。優勝まで残りたった3つしかないとも、3つもあるとも思える険しい道のり。「24人」で戦うウズベキスタン代表の戦いも、いよいよここからが本番だ。
❹準々決勝 イラク戦(6月11日)
死闘
決勝トーナメントが始まった。ベスト8の相手はイラク。
先述の「懸念点」の通り、直前の試合前練習でMFイブロヒモフが右半月板損傷の怪我を負いチーム離脱。中盤3枚の構成がどうなるか気になるなか試合時間を迎えた。
結局中盤はブリエフ、ジャロリッディノフ、ホルマトフだったのだが、試合が始まってすぐに、そんなことはどうでもよくなってしまう。
立ち上がりから両チームとも激しさ全開、これぞ一発トーナメントの緊張感というプレーの連続。今日はどんな試合になるのだろうと膨らむ期待感は、わずか7分と少しで全て失われることになる。
イラクの間接フリーキック。アバウトに入れてきた相手のロングパスをキャッチしたGKネーマトフ。そのまま前線の選手に素早くフィードしてウズベキスタンが反撃開始、という何でもないプレーだったが、一体何を血迷ったか、プレーを遮ろうとしたイラクDFハサン・ラーイド・マトルークにネーマトフが肘打ちを食らわせ退場。イラクにPKが与えられる。
この判定に対し、パフタコル・マルカジーに詰めかけたウズベキスタンのファンが不服のあまり半ば暴徒化。ピッチに物を投げ込み始める。ジャロリッディノフを始めいくら選手が制止しても止まる兆しはなく、結局試合は10分以上中断。審判団が何度か撤収しかけ、マッチコミッショナーに何かを確認する仕草も見られた。
一体この試合は90分間無事に行われるのだろうか……。興味は勝敗よりそのことに移り始めていた。結局PKをイラクのワカーア・ラマザーンが決めたのは17分すぎだった。ウズベキスタンはホルマトフを下げ、GKナザーロフを入れた。
開始早々、10人対11人、1点ビハインド。騒然としたスタジアム。壊れそうな試合。開始のホイッスルを聞いた時とは違う意味で「どんな試合になるのだろう」と思いつつ試合を見守った。
ややもすれば冷静さを完全に失い、試合にならなくなる選手も出かねない中、ウズベキスタンは驚くほど冷静だった。否、闘志はこれまで見たことないほどに燃え盛っていたが、少なくとも全選手はその熱い気持ちをプレーで見せることを選択。ウズベキスタンの熾烈な反撃が始まった。
ウズベキスタンの猛烈なプレッシングにさしものイラクもたじろいだ。1人少ないにもかかわらず、失点直後からペースを掴んだのはウズベキスタン。まるでバスケットボールのオールコートディフェンスの如くボールホルダーに食らいつき、イラクを自由にさせない。奪ってからはラフなロングボールやスペースへのパスで素早く押し込み圧をかける。絶望的な気持ちで画面を見ていた筆者も、ウズベキスタンの10人を前に失っていた希望が少しずつ湧いていく。
ウズベキスタンの気迫とスタジアムの物々しい雰囲気が相まってイラクは防戦一方に。数的優位を活かすことができず、クリアで陣地回復するもすぐにウズベキスタンが急襲をかけ、息をつく間もなく速いテンポで試合が進んでいく。イラクがボールを持つと容赦なくブーイングが飛び、30分頃までは相変わらず客席からコインか何かの物が飛んだ。25分にはジャロリッディノフの直接フリーキックがポストを叩く。
30分すぎにようやくやや落ち着き、お互い組み合っての試合になった。45分にはノルチャエフがゴール正面からシュートを放つもGKがナイスセーブ。
12分という長いロスタイムが表示された直後、敵陣から中央突破したノルチャエフがスルーパス。左サイドからエリア内に走り込んでこれを受けようとしたエルキノフが相手に倒されPKの判定。「帳尻」判定のようにも見えたがビデオチェックでも覆らず、ジャロリッデイノフがいわゆるコロコロPKを決め同点。1-1で前半が終了。
ドレッシングルームでカパゼ監督からどんな檄が飛んだのか。後半スタートから再びウズベキスタンがゲームのギアを数段上げ、激しいアタックを開始。50分、中央をエルキノフが持ち上がり、ボールを右に張ったノルチャエフに渡し自身はエリア内に侵入。ノルチャエフはエルキノフへリターンパスを放つが、イラクDFフセイン・アンマルのクリアがオウンゴールに。後半開始早々ウズベキスタンが逆転する。
前半戦で体力を消耗したウズベキスタンは、後半立ち上がりから動きが重い選手が何人か見られるようになる。しかし足を止める選手は一人もいない。劣勢に立ったイラクは数の優位を活かして反撃に出るが、さんざん走らされているからか攻撃は途切れ途切れで、ウズベキスタンの気迫のディフェンスに跳ね返される。この試合、最後までハムラリエフとダヴロノフの両CBが冷静にプレーし続け、ウズベキスタンの急所を守り続けた。両チーム次第に疲労の色が隠せなくなり、ピッチに倒れ込む選手が増えてくる。
それでもイラクは、後半から投入したアンマル・ガーリブが結果を出す。68分、軽快に左サイドを駆け上がるとそのままエリア内へ。クロスはおそらくアウトサイドにかかるミスキックとなったが、それが幸いしゴール方向へ。やや早めにゴールエリアを出ていたナザーロフの虚を突くシュートとなりイラクが同点。これには流石のウズベキスタンもショックが大きい失点となり、しばらくはイラクが押し込む時間になる。それでも集中を切らさないウズベキスタンは、90分にコーナーキックからハムラリエフが惜しいヘディングシュート。疲労困憊のなか、両チーム瀬戸際で守りきったとも決め手を欠いたとも言える2-2で前後半の90分が終了。
延長戦になっても両者がっぷり四つ。ここまで来ると流石にスタメン出場の選手もクタクタで試合は膠着し、結局2-2のまま120分が終了。決着はついにPK戦に委ねられることになった。
イラクが先攻。両チーム最初の1人目は成功も、ウズベキスタンの2人目ハムラリエフはGKに止められる。決めれば俄然有利になるイラクの3人目は、前半に先制のPKを決めているワカーア・ラマザーン。狙いすましたシュートは皮肉にも狙いすぎて右ポストにヒット。直後のウズベキスタンはファイズッラエフがプレッシャーのかかるキックを落ち着いて決めて2-2。イラクの4人目はモアンメル・アブドゥルリザー。ウズベキスタンの怒濤の攻撃を中盤で防ぎ続けたこの試合MOM級の働きをした選手だ。しかし激闘の末のPK戦で精も根も尽き果てたようで、力ないシュートはナザーロフに跳ね返され失敗。ネーマトフの退場で急遽お鉢が回ってきた控えGKナザーロフだったが、この場面でチームを救うビッグセーブ。
ウズベキスタンの4人目は、モアンメル同様120分間中盤を走り回ったブリエフ。こちらはしっかりクールにゴールに流し込み、ついにウズベキスタンが前に出る。そしてイラクの5人目はハサン・アブドゥルカリーム。意を決して放った左足シュートはゴールマウスのはるか上方を飛んでいき、この瞬間ウズベキスタンの勝ち抜けが決まった。
ウズベキスタン2 - 2イラク
6月11日 パフタコル・マルカジー・スタジアム(タシケント)
ワカーア・ラマザーン(PK, 17')
ジャロリッディノフ(PK, 45')
フセイン・アンマル(OG, 50')
アンマル・ガーリブ(68')
ウズベキスタン:ネーマトフ、ベギモフ(64'ミルサイドフ)、ハムラリエフ、ダヴロノフ、トゥルスノフ、ブリエフ、ホルマトフ(16'ナザーロフ)、ジャロリッディノフ(79'ファイズッラエフ)、ホシモフ(63'ジヤノフ)、エルキノフ(112'ジュラクズィエフ)、ノルチャエフ(112'オディロフ)
警告:ダヴロノフ(95')、ジヤノフ(107')
退場:ネーマトフ(相手選手への暴力行為、13')
延長戦0-0、PK戦3-2でウズベキスタンが準決勝進出
ジュラクズィエフ(成功) メルチャース・ドスキー(成功)
ハムラリエフ(失敗) アフメド・ナイーム(成功)
ファイズッラエフ(成功) ワカーア・ラマザーン(失敗)
ブリエフ(失敗) モアンメル・アブドゥルリザー(失敗)
ハサン・アブドゥルカリーム(失敗)
美しさと醜さ
試合自体は素晴らしかった。1人少ない上にビハインドという最悪の状態からスタートするも、数的不利を鬼神の如きハードワークでカバーし、少ないチャンスを確実にモノにし2点取り、一度はリードさえした。筆者はこれほど気迫がプレーに乗り移ったウズベキスタン代表を見たことがない。これまで、この国は負けられない試合ほど選手が空回りし、試合巧者の格上相手に無様に負け続けてきたからだ。
愚かなプレーでチームをいきなり危機に陥れたネーマトフを除く、出場した16選手は皆、何かが乗り移ったようなパフォーマンスだった。この試合に限っては、誰が一番活躍したなどと決めることはできない。絶体絶命のピンチにあって、最後まで闘志を燃やしつつも冷静に戦い続けた結果が、きっと最後の最後、僅かな部分で何かがイラクを上回ったのだろう。何が勝敗を分けたのはわからないが、それはもしかしたら「気持ち」だったのかもしれない。試合後のインタビューでハムラリエフが「イラクは我々を恐れてプレーしていた」と語ったが、まさにその通りだった。
ムハンマド・アル・ホアイシュ氏のジャッジメントも忘れてはならない。ピッチの内外が興奮状態に陥り無秩序状態になりかねない危機的な状況下で、硬軟織り混ぜたクリーンなジャッジングで試合の成立をお膳立てした。ウズベキスタン寄りの判定もないことはなかったが、客観的な「正しさ」とゲームを最後まで監視する立場の狭間でどちらをも決定的に乱すことなく職務を遂行したのは賞賛に値する。
そして、困難に巻き込まれたイラクの選手たちも、キャプテンのワカーア・ラマザーン以下全員が120分最後まで統率を崩さず、延長戦に小競り合いこそあったが、スタンドの一部の人間とは違い完全なアウェーでも我を忘れず最後まで死力を尽くして戦い続けた美しい姿に敬意を表さずにはいられない。いわば「被害者」に近い立場で正直言って気の毒な印象さえあるが、彼らなくしてこの試合はあり得なかった。
しかし、一部の観客の取った行動が残念でならない。ネーマトフが退場した場面、ビデオチェックからレッドカード提示、そしてPKが与えられイラクが決めるまでの間、常にピッチには審判とイラクの選手への抗議か、石と見られる物体がスタンドからピッチに投げ込まれていた。ウズベキスタンの選手がいくら止めても投石は止まらず、審判団が試合続行を話し合うほどで、試合再開後も何人かの選手が石を脇に除けていた。言ってネーマトフのプレーより数段醜い、今大会最悪の光景だった。両チームの選手のことも試合そのもののことも顧みない身勝手極まりない行動に開いた口が塞がらなかった。こんな人達をファンと呼びたくないし、試合を見るのはこんな程度の人間ばかりの国のサッカーのことなど語りたくない、それくらい不快な気持ちになった。
悲しいことに、一部のファンのバカな行動の代償はウズベキスタン代表の選手たちが払うことになる。投げ込まれた石と思われる物体が2名のカメラマンに直撃し、怪我を負ったことが試合後に判明した。そのうちの1人、外国人カメラマンの男性は重体だという。これを受けて、次の準決勝は無観客で行われることが決まったとの報道もある。さらにウズベキスタンサッカー連盟に対し罰金などのペナルティが課される可能性もある。というか間違いなくある。
この国にはこの手の「前科」がいくつもあり、直近では2019年のウズベキスタン2部リーグ最終節、ネフチ対トゥロンの試合で判定に憤った観客がピッチに乱入し、ネフチの選手と一緒になって主審を襲撃する事件が起きたのが記憶に新しい。サッカーでも応援でもなくただの犯罪行為である。「これが中央アジアだ」などと一笑に付していい話ではない。百年の恋が冷める日も近いかもしれない。
次の相手は韓国か日本だが、当然ネーマトフは不在。悪質な暴力行為なので、追加で3試合程度の出場停止処分がくだされる可能性もある。さらに延長戦でイエローカードを受けたダヴロノフは次戦は累積警告で出場停止。ここまでハムラリエフと抜群のCBコンビを組んできた成長著しいDFがチームを離脱する。そして上述の通り、ホームではあるが無観客試合。120分をフルに戦った選手たちが、15日の試合までに完全に回復し、コンディションを整えられるかも分からない。
激闘の末、劇的な形で勝つには勝ったが、後には不安や心配事ばかりが残った。せっかくの素晴らしい勝利の喜びをかき消すかのような後味の悪さ。嬉しいのだが、100%手放しで喜ぶことは到底できない。熱戦から一夜明けた今でさえそのような複雑な気分でキーボードを打っている。
なお、現在タシケント在住の筆者の先輩がトルクメニスタン戦に続いてこの試合も観戦しており、ブログに観戦記を書いている。記事はこちら。
当然だが、ウズベキスタンの選手に罪はない。それどころかヒーローである。次の相手は日本になったらしいが、ここまで来たらきれいごとは言ってられない。何がどうなっても勝利あるのみだ。
おそらくこの中で一番悔しい思いをしたのはホルマトフだろう。かなり元気な状態でピッチを後にしたこともあり、準決勝では大暴れを見せてくれるかもしれない。
❺準決勝 日本戦(6月15日)
愚行の報い
イラクに勝利したことで、少なくともあと2試合戦えることが決まった。先述したが、対戦相手は日本。準々決勝で韓国を3-0で下し勝ち上がってきた。登録メンバーはウズベキスタンと同じく、全員が2001年以降に生まれた選手で2024年のパリ五輪を見据えた構成となっている。「年上の選手が相手だから……」という言い訳も通用しない、正真正銘の力比べ。
先のイラク戦での醜聞に対する制裁が出揃った。相手選手への暴力行為で退場したネーマトフは、AFCの懲罰委員会での審議の結果、「3試合の出場停止、500ドルの罰金、今後同様の事態を起こした場合はさらに厳しい罰則を課す」とのこと。
そして観客について。試合翌日には無観客試合の可能性が報じられていたが、その通りだった。しかし完全な無観客ではなく、「ウズベキスタン側のみ無観客、日本側は500人に制限して許可」というもの。
開催国にも関わらずホームのみ観客出禁という厳しい措置である。AFCの報告書によると、「観客がスタンドを損壊した点、観客がコンクリート片、コイン、飲料ボトルを試合中にグラウンドへ投棄し、それらがマッチオフィシャルに直撃した点、スタジアムの過密、試合中に観客が通路や階段を塞いだ点、入場者数を把握するシステムの不備、チケットを持たない観客を入場させた点、持ち込み物管理の不徹底」が確認されたとのこと。タダ見客がいたとは驚きで、運営側のあまりの杜撰さに不意に笑いが出てきてしまった。連盟には併せて5万ドルの罰金も課せられることになった。「善良な」ウズベキスタンのファンはせっかくの大舞台に行けず気の毒だが、やったことの重さを思えば仕方ないというべきか。
静かな熱戦
妙に強気な試合前の評論も出る中、かくしてウズベキスタンホームながら日本のサポーターしか入場できないという、どちらがホームなのかよく分からない奇妙な試合が行われることになった。
なお、最後に日本と対戦したのは2018年大会の準々決勝。このときは0-4とウズベキスタンが驚きの大勝を収め、そのまま勝ち上がり優勝している。これだけ見ると縁起のいい相手のように感じられるが……。
DAZNの中継から日本語が聞こえてくる新鮮さを感じながら試合開始を待つ。日本時間午前1時キックオフということで、開始前から極限状態の脳を解説の福西氏の柔らかな声が束の間の癒しを与えてくれる。
ガランとしたミリー・スタジアム。今日のスターティングイレブンは出場停止中のネーマトフのユニフォームを掲げて試合前撮影に臨んだ。小さく響く日本サポーターの太鼓と歌声。異例の無観客試合は、国内リーグのブニョドコル戦とさほど変わらない雰囲気で始まった。
立ち上がりから両チームとも状態の良さと勢いを感じる展開に。大きな汚点こそ残したが、前の試合で劇的勝利を収め気持ちは乗りに乗っているウズベキスタン。前の試合での疲労が心配されたが、これまでと変わらないハイプレスからの速攻狙い。日本も自陣で組み立てながら速いパスで前進を伺い、相手ボールになった瞬間に組織だったプレス。攻撃の起点となるDFラインから自由にパスを繋がせない。
とりあえずGKが退場することなく10分を過ぎてホッとする。話題のDFチェイス・アンリに挑むのはノルチャエフ。個のフィジカルで彼を抜くのは不可能に近いので、動き出しやコンビネーションで裏を取れるかというところ。立ち上がり15分までは日本の出だしが思ったより穏やかで、中盤の主導権はややウズベキスタン寄り。
20分頃から、鈴木唯人と藤田からボールが出るようになり、サイドから日本が攻め込む場面が増えてくる。ショートコーナーや一旦戻して相手をズラしてのクロスなど、デザインされたプレーで体格のハンディキャップを補う工夫を見せる。しかしボールはハムラリエフとアブドゥマジドフの両CBが跳ね返し、最後のひと山を越えさせない。
反撃に出たいウズベキスタンはジャロリッディノフに藤田が徹底マーク、アイデアと技術で勝負のプレーメーカーとエネルギッシュなセンターハーフの我慢比べ。ここのマッチアップはとても楽しい。日本は敵陣に入ってから今ひとつパスの精度を欠き、素早く攻め込む本来の戦いはまだ満足にできず。それでも形勢はがっぷり四つ。両者ペースを握れずに組み手争いが続く展開だが、集中も強度も高く、あっという間に時が過ぎていく。
そのままどちらも流れを手繰り寄せられないまま前半が終了。不思議とどこからかウズベキスタンの応援が聞こえてくるのだが、スタジアムの外にファンが集まっているのだろうか。
後半立ち上がりも、前半さながらペースの握り合い。55分をすぎるとやや体力の消耗が始まったか、両チーム少しずつ中盤が空くようになる。
試合が動いたのは60分だった。日本のパスをブリエフがカットし、左サイドのホシモフへ。ワンタッチでチェイスと入れ替わり、中央のジャロリッディノフへ。僅かに乱れた日本守備陣が与えた時間とスペースは、背番号10のキャプテンが仕事をするには十分だった。
ゴール正面、約30メートルから迷わず左足を振り抜くと、利き足方向へ強烈にカーブするシュートがGK鈴木彩艶の指先をかすめゴールイン。GL第2試合のカタールとの試合で決めた先制点に負けずとも劣らないスーパーゴールでウズベキスタンが先制した。実力と勝負強さを兼ね備えた希代の千両役者、2019年までプレーしたかつてのホームスタジアムで見事なプレーを見せた。
先取点を取り勢いづくウズベキスタンと、点を取らねばならなくなった日本。試合のペースがまた一段と上がりそうな予感の中キックオフ。多少のリスクを承知で前がかりに攻めに来る日本に対して、ウズベキスタンの守備が持ちこたえることができるか。試合再開直後にブリエフがイエローカードを受け、行く先に若干の不安を覚える。
日本はピッチをワイドに使い攻め込むもウズベキスタンは急所は守り抜く。しかし日本に走らされる時間が長くなり、選手の消耗も顕著になっていく。71分には直前のプレーで負傷していたトゥルスノフと、今大会ほぼ出ずっぱりで獅子奮迅の活躍もさすがにへばってきたエルキノフを下げ、ソディコフとジヤノフを投入。
圧を強めて早めに得点したい日本だったが、ウズベキスタンの抵抗を受けて思うように攻められず、次第にパスがズレ始める。ウズベキスタンも73分にエリア内でフリーのホシモフがシュートを放つも日本DFがしっかりブロック。
75分にジャロリッディノフが下がり、代わりは若いファイズッラエフ。今大会はほぼ毎試合で見られる交代で既定路線ではあるが、絶対的な支柱を代えてどうなるか。日本もこの間に身体の強さがある中島を投入し、ロングボールでの攻めも使い始めて1点を取りに来る。試合のペースは流石に前半ほどの速さを失い、徐々にウズベキスタンが受け身に回る時間が長くなってくる。
最後の10分は日本が攻め込む。ウズベキスタンは集中こそ高く持っているが、明らかに受け手に立ち、このまま逃げ切れればという思惑が伺えるようなプレーに。同時にホルマトフの足が攣るなど選手も満身創痍に。マイボールになってもアバウトに蹴って陣地回復するのが精一杯で、日本にサイドからエリア内に侵入され始めるが、クロスはナザーロフが冷静に処理。
苦しいのは日本も同じで、選手の動きは重く最後の崩しの精度がなかなか上がらない。多少アバウトな形でも前進したいが、空中戦ではウズベキスタンに分がある。ライン間が伸びきってしまい、中盤でウズベキスタンにパスカットされてなかなか前に送ることもできなくなってしまう。
このまま両者攻めつつも何も起こらず終わりかなと思い始めた89分、左サイドでボールを奪ったファイズッラエフが素早く前線のノルチャエフに当てる。CB馬場と競り合いながら落としたボールをホルマトフがワンタッチで裏にパス。直前のプレーでチェイスが右に寄っていたため日本の中央DFが薄くなっており、不利な場面で出血覚悟で取りに行った馬場の背後に広大なスペースが空いていた。裏に抜け出したノルチャエフとGK鈴木彩艶の1vs1になり、左足シュートをゴール左に流し込みウズベキスタンが決定的な2点目。不振にあえぐエースがようやく彼らしい形で得点を挙げた。
最後の時間帯は両チーム死力を尽くしオープンな戦いに。日本も何とか前にボールを送りたいが、思うように進めない。最後までチャンスらしいチャンスを作れないまま試合終了のホイッスル。ウズベキスタンが難敵日本を下し、優勝した2018年以来2大会ぶりの決勝進出を決めた。静かなタシケントの夜空に高らかに鬨の声を響かせたのはウズベキスタンだった。
なお、ファンが自発的にスタジアムの駐車場に集まりパブリックビューイングを行っていたとのこと。試合中に聞こえてきた応援は彼らのものだったようだ。15,000人だとか20,000人だとか書いてあるが、多くて1,000人程度だろう。それでも多いが。
何と言っても勝利の立役者はジャロリッディノフ……と言いたいところだが、この試合に限ってはセンターハーフのブリエフの八面六臂の大活躍が非常に印象的だった。日本の攻撃を組み立てるパスをことごとくカット、ホルマトフとジャロリッディノフという守備にあまり興味のない選手と中盤を組みながらも、組織立ったプレッシングの核としてフィールド中央を死守し続けた。そして奪ってからはシンプルに速いパスで攻撃の起点にもなり、まさにそのプレーが先制点を呼び込んだ。オリンピクでも彼のプレーを見てはいた。元から体力のある選手とは思っていたが、まさかここまでやれるとは。大会を通じて大きく成長しており、このチーム一番の驚きだ。しっかり守れる中盤の選手がシュクロフ以外いないウズベキスタン代表に、新たな希望が生まれた。
さらに、日本にチャンスらしいチャンスを与えず、エリア内に侵入させずに90分守りきったDF陣も素晴らしい。大会通じてハイプレスが効いているため無理をする場面が殆どないのも事実だが、CBもSBも誰が出ても落ち着いた守りで相手の攻撃を止められている。ハムラリエフの個に依る部分が大きいかと思っていたが、ローテーション起用をしても大崩れせず。チーム全体で守備の意識や役割がしっかり共有されているからだろう。ラインをズルズル下げたり、反対に不用意に上げたりといった場面はこれまで見かけない。詳しい内情はわからないが、これはカパゼ監督の功績ではないだろうか。「ウズベキスタン人はこう守らせればいいんだよ」と内外にアピールするかのような、伝統のハイプレスとしっかりしたラインコントロールを組み合わせた守備戦術。これをフル代表でも見てみたいと思ってしまった。
スーパーゴールとFWの裏抜けだったが、2得点とも高い位置でのインターセプトが攻撃の起点。やりたかった形ができ、しかもそれが得点につながる最高の結果となった。
もちろん、前のイラク戦同様、組織力だけでなく個の力も目立った。ジャロリッディノフの先制ゴールは、おそらく大会ベストゴールになるだろう。彼らの力が日本相手にも十分通用し、一部は彼らを凌駕したというのは大きな自信になるはずだ。
また、負傷交代していたトゥルスノフは単に足が攣っただけ、反対に右サイドバックでフル出場したミルサイドフは何と負傷を抱えたままプレーしていたという。緒戦のトルクメニスタン戦で何度か傷む場面があったが、それが長引いているのかもしれない。これで十中八九決勝戦の右サイドバックはベギモフでいくことになるだろう。
準決勝のもう1試合はこの少し前に行われ、ウズベキスタンの対戦相手はオーストラリアを0-2で下したサウジアラビアに決まった。泣いても笑っても残り1試合。雨が降ろうと槍が降ろうと勝つだけだ。
ウズベキスタン2 - 0日本
6月15日 ミリー・スタジアム(タシケント)
ジャロリッディノフ(60')
ノルチャエフ(89')
ウズベキスタン:ナザーロフ、ミルサイドフ、ハムラリエフ、アブドゥマジドフ、トゥルスノフ(70'ソディコフ)、ブリエフ、ホルマトフ(90'トゥルディアリエフ)、ジャロリッディノフ(75'ファイズッラエフ)、ホシモフ(75'オディロフ)、エルキノフ(70'ジヤノフ)、ノルチャエフ
警告:ブリエフ(72')
-----------------------------------------------------------------------------
❻決勝 サウジアラビア戦(6月19日)
ラストダンス
よもやの快進撃を続けるウズベキスタン。飛ぶ鳥を落とす勢いでグループリーグを突破、勢いそのままに乗り込んだ決勝トーナメントは山あり谷ありだったが、ついに決勝戦にたどり着いた。
AFC主催大会では、2008年の U-19選手権、2010年のU-16選手権、2012年のU-16選手権、2018年のU-23選手権ときて5回目の決勝進出だ。ちなみに過去4試合は1勝1分2敗。うち1分(2012年、日本相手に1-1)はPK戦の末勝利しており、決勝戦の星取は五分である。
決勝の相手はサウジアラビア。5試合で4勝1分はウズベキスタンと同じだが、総得点11に対し何とここまで無失点。ゴールレスドローに終わったGLの日本戦を除けば、全試合で得点も挙げている。戦績だけ見ればウズベキスタン(5試合で4勝1分、得点12失点3)を凌ぐ好結果で勝ち上がってきた。
例のごとくサウジアラビアの試合は見ていないので何とも言えないが、フル代表での戦いを振り返ると、中東のお約束である素早いカウンターサッカーだけでなく中盤と最終ラインでのポゼッションを織り交ぜながらの攻撃もできるチームな印象がある。サウジアラビアにはいつも強靭なフィジカルを持ち守りに存在感を効かせ、巧みな配球で攻撃もオーガナイズできる優秀なセンターハーフと高さもパワーもある屈強なセンターバックがおり、ウズベキスタンの選手が苦戦することが多い。中盤から前の選手は軒並み技術があり、気の抜けたプレスをかけようものなら簡単にかわされてしまうだろう。 もっとも、これは勝手な印象論なので、今回のサウジアラビアチームはそうではないかもしれないが。
印象論ではない「事実」として言えることは、サウジアラビアとは前回大会でも対戦しており、勝てば東京オリンピック出場決定だった準決勝を戦い1-0で敗れているということ。さらにサウジアラビアには、その試合から引き続き今大会もメンバー入りしている選手が2人いる。CBのハサン・タンバクティーとSBのサウード・アブドゥルハミードで、彼らはこの決勝戦でもスタメン出場が濃厚だ。前者は全前回戦時ウズベキスタンの攻撃をことごとく食い止めたフィジカルモンスター。あれから2年経ってさらにパワーアップしているに違いない……。なお、ウズベキスタン代表で前回大会から連続参加しているのはネーマトフのみ。イラク戦の肘打ちでサヨウナラしたので、決勝戦はメンバー外である。
試合前日から、どうやら現地のチケット販売が混乱しているようで、ニュースサイトにはあれやこれや感情的な記事が溢れ返ってているが、言っちゃ悪いがどうでもいいので取り上げない。
また、ウズベキスタンが決勝戦で白のホームユニフォームを着用することを希望したがAFCに断られ、結局サウジアラビアが白のシャツ、ウズベキスタンが青のシャツで試合に臨むことも明らかになった。このことについて「決勝戦の主審がカタール人のサルマーン・アフマド・ファラーヒー氏になったこと、AFCのメインパートナーがサウジアラビアのメガプロジェクト"Neom"であること」を結びつけて、AFCが露骨にサウジアラビア贔屓であることを指弾するジャーナリストもいる。サッカーがユニフォームの色で試合が決まるスポーツなら、もっと騒いでもいいと思う。
……あろうことかキックオフ時間を2時間間違える致命的なミスを犯し、試合を生で見ることができなかった。よりによって決勝戦である。自らの過ちを深く後悔すると同時に、画面から試合結果を知った。どうなるか分かっている試合をイチから見るほど苦痛なものはないのだが、それでも見ねばなるまい。モチベーションが上がらないので、更新は断続的かつ遅くなるだろう。
立ち上がりからサウジアラビアが優勢に試合を進める。何より目立つのは守備力。個の能力が際立っているのは当然のこと、中盤とDFの選手がいい距離感を保ちながらプレスをかけ、ウズベキスタンに自由なスペースを与えない。
攻撃の起点になるジャロリッディノフとホルマトフのインサイドハーフには特にハードにいき、自由にプレーさせない。奪ってからはシンプルにCBの背後のスペースに放り込む中東スタイルで攻めてくるが、ウズベキスタンのハムラリエフとダヴロノフがしっかり対処。今大会好調の2選手だが、手強いFWを相手に個の力が試される。これまでの試合と比べ高い個人技を持つ選手につなぎの局面で簡単にかわされるシーンが圧倒的に増えたが、持ち味の組織的な守備で危険なところは通さない。
15分頃からようやくエンジンがかかってきたのか、後方からの長いボールがサイドの選手に通るようになり、ウズベキスタンも押し返す。しかし多少の前進を許せど、ペナルティエリアには相手を近寄らせることすら許さないサウジアラビアの固い守り。ウズベキスタンに形らしい形を作らせない。
23分にはサウジアラビアが敵陣でボールを奪い、素早くエリア内へ。ウズベキスタンDF陣が見せた隙を突いてフィラースがシュートを打つもダヴロノフが身体を張ってブロック。優位に立つサウジアラビアがゴール前のチャンスを作り始める。ボールを保持し攻め込むサウジアラビアに対し、耐えながら屈強なDFラインの裏へなんとかカウンターを仕掛けようとするウズベキスタン。そこまで圧倒的にサウジアラビアペースではなく、ウズベキスタンもボールを持つ時間はそれなりにあるのだが、効果的なプレーやチャンスメイクまでには至らず、サウジアラビアの守備組織を前にボールを下げ自陣で「持たされている」印象。
30分頃から右ウイングのホシモフとCFのノルチャエフがポジションチェンジ。おそらくノルチャエフがCBタンバクティーのマークの前に封じられているため、よりフィジカルな強さがありインファイトに強いホシモフをあてがったということだろう。これに対しサウジアラビアも右SBのサウードを中央に持っていき、より真ん中の厚みを増す対応。おそらく対面のエルキノフがいうほど脅威でないため、ケアする優先順位が高い中央の守りに移ったか。
耐えるウズベキスタンも、相変わらずブリエフが中盤で走り回り、仲間と連動したポジショニングからのパスカットなど高い守備力を見せ、主導権を相手にやらない好プレー。両者互角、試合は徐々に決勝戦にふさわしいハイレベルな攻防になっていく。
33分には自陣からのロングボールから、中央でタンバクティに競り勝ったホシモフがノルチャエフとの連携で敵陣でボールを持つと、連動して左サイドからダッシュしてきたエルキノフにループパス。ペナルティエリア内に抜け出して放ったチーム初シュートは、下っ面を蹴りすぎたか惜しくもゴールマウスの上。「何もない状態」から素早い攻めで決定機を作る。
サウジアラビアも負けじと直後のプレーで、中盤の守備が緩んだ隙きを突いて持ち上がった中盤のハマドがロングシュート。ニアポストの枠を捉えた強烈なボールだったがナザーロフがセーブ。立ち上がりから浮足立ったプレーが見られるGKだが、ここはチームを救うプレー。
そして38分、試合の局面を左右する重重要な場面が。
自陣からのロングボールのこぼれ球を拾ったサウジアラビア。アイマンのスルーパスからエリア内に抜け出したアフメドが食らいついてきたダヴロノフと交錯。前につんのめりながら身体を入れようとするダヴロノフにアフマドが引き倒された。主審の笛が鳴り、PKの判定。ジャロリッディノフ以下ウズベキスタンの選手が猛抗議する中ナザーロフをゴールに付かせ、ペナルティスポットにボールを置きキッカーのフィラースが準備する。
押し気味のサウジアラビアについに先制点か……という時、VARの指摘が入り、主審がオンフィールドレビューへ。どうやら攻撃の起点となった、サウジアラビアGKからのロングボールがオフサイドだったかもしれないとのこと。そして映像チェックの末、判定が覆りPKは取り消し。結局サウジアラビアのフィラースがオフサイドということで試合再開。ウズベキスタンの選手たちはおそらくオフサイドではなく、ダヴロノフのプレーに対する抗議だったと思われる。ウズベキスタンにとってはある意味ラッキーな形で難を逃れる結果となった。
これに勇気づけられたのか、積極性を取り戻したウズベキスタンが再度攻勢を試みる。しかしサウジアラビアの固い守備を勢いだけで割ることはできず。VARのチェックに数分間を要したこともありウズベキスタンの攻撃は不発に終わり、結局0-0で前半終了。
試合を見る気がなかなか起きず、後半戦を放置していたらDAZNのフルマッチ公開期間が終了しており、45分を見ることは叶わなくなった。後半二試合が動くのだが、以降は手短に。ここまで6試合分書いてきたが、ついに気力が尽きたということでご容赦願いたい。
後半戦いきなり試合を動かしたのはサウジアラビアだった。前半終了間際の際どい判定を物ともせず、右サイドバックのハマド・アル・ヤーミーがMFとDFのスペースでボールを持つとそのままドリブルで突進。ウズベキスタンDFラインがエリア内まで下がったところで、ゴール正面のハマド・アル・ガームディーへ渡す。すかさず寄せに来たミルサイドフを軽くいなすと、エリア外から放った左足シュートはナザーロフの指先をかすめ、ゴール左上に突き刺さった。小柄なテクニシャンのファインゴールでついにサウジアラビアが先制する。
ウズベキスタンは失点こそしたが、まだ動じない。徐々にサウジアラビアペースになる中でも、今大会通じて実行する素早い攻撃でサウジアラビアゴールに攻め込む。60分にはゴール前のこぼれ球を拾ったジャロリッディノフがミドルシュート。ブロックしたハマド・アル・ガームディーの足に当たり軌道が変わり、ゴール前で急激に落ちる変化球になるもわずかに上。このシーンでもわかるのだが、状況は前半と変わらず、攻め込みはするものの屈強かつ統率されたサウジアラビアDFの前に、ほとんどエリア内に入り込めない。
そうこうしているうちに、74分に決定的な2点目がサウジアラビアにもたらされる。ウズベキスタンの速攻を跳ね返してのカウンターアタックだろうか。陣形が乱れるなか最前線でボールを受けたフィラース。カバーに入ったブリエフが付いてはいたが、エリア左角から思い切って打ったシュートがファーサイドに突き刺さった。2点とも素晴らしいゴールだが、ウズベキスタンのほころびを突いての攻撃を得点につなげた抜け目のなさには脱帽だ。
その後はウズベキスタンが必死の反撃に出るも、今大会無失点のサウジアラビアのディフェンスを崩すことはできず。固さと組織力に、持ち前のしたたかさが加われば、さしものウズベキスタンも手出しすることはできない。ジャロリッディノフもエルキノフもノルチャエフも、子供と大人が試合をシているかのように完璧に封じられた。サウジアラビアの「顔面にほとんど傷をつける」こともできずに、盤石の試合運びでサウジアラビアが勝利。優勝トロフィーを掲げた。
ウズベキスタン0 - 2サウジアラビア
6月19日 ミリー・スタジアム(タシケント)
ハマド・アル・ガームディー(48')
フィラース・アル・ブライカーン(74')
ウズベキスタン:ナザーロフ、トゥルスノフ、ダヴロノフ、ハムラリエフ、ミルサイドフ(57'アブドゥマジドフ)、ブリエフ、ホルマトフ(57'ジヤノフ)、ジャロリッディノフ(90'トゥルディアリエフ)、エルキノフ(77'ファイズッラエフ)、ホシモフ(78'ジュラクズィエフ)、ノルチャエフ
警告:ミルサイドフ(52')、ジャロリッディノフ(86')
大会を終えて
自国開催というのは表裏一体の条件だ。調整面や気持ちの面で普段と変わらぬ準備ができる反面、却ってチーム全体へのプレッシャーにもなる。その中で選手、スタッフ、観客が一丸となっての快進撃は見事の一言。再三述べたが、激しいプレッシングと奪ってからの素早い攻撃、そして個々の高い能力が大陸レベルの戦いでも通用したことは、若い選手にとっても、コーチングスタッフにとっても自信になったのではないだろうか。少なくとも、伊達や酔狂で準優勝にはなれない。素晴らしい結果である。
MVPを決めることはあまり好きではないし、簡単に決められるものではないが、候補として挙げるならジャロリッディノフ、エルキノフ、ブリエフの3人だろう。厳しいマークに遭いながら圧巻のパフォーマンスで攻撃のほぼ全てを司り、貴重な得点も挙げ、さらには主将として仲間に戦う姿勢を見せながらチームを引っ張ったジャロリッディノフ。スピードと技術のあるドリブルで相手を翻弄し、左サイドを切り込み続けたエルキノフは、大会期間中にロシア1部のチームが興味を示しているという怪情報が出回るほどのインパクトを見せた。センターハーフのブリエフは、大会を通じてチームの根幹を成すプレッシングの中心選手として活躍。適切なポジショニング、90分落ちない運動量、専守防衛のプレー。途中でイブロヒモフが離脱し負担も増す中、チームを陰から支え続けた。
他の選手も頑張った。右ウイングは決定的な選手がいない中、当初はローテーション、強度の上がる決勝トーナメントからはスピードとフィジカル、そして闘争心のあるホシモフをスタメンに、彼自身も相手も疲れた後半からは新鮮でトリッキーなジヤノフを投入する起用を確立。ゴールだけでは測れない貢献を見せた2人も殊勲選手のひとりといえる。ホルマトフはおそらくグループリーグで序列を下げたが、イブロヒモフの負傷でそのまま最後までセンターハーフに入った。高い攻撃力はそのままに、プレッシングの駒としての働きを高めて準優勝に貢献した。ハムラリエフとダヴロノフのCB陣、4選手をうまく使ったSBも忘れてはならないし、ラフプレーは誉められたものではないがネーマトフ、彼の不在を必死のプレーで埋め、オリンピクとは別人のパフォーマンスを見せたナザーロフも特筆に値する。ノルチャエフは最後まで思うようなプレーができなかったが、それでも仲間のお膳立てもあり2得点。相手の警戒もある中、唯一の「まともな」FWとしての最低限の役割は果たした。もちろん、決勝戦の「戦犯」探しなんてもっての外である。言葉は陳腐だが、まさに「皆がヒーロー」だった。全員が奇跡的なパフォーマンスだったと思う。
マルセロ・ビエルサのような存在でなければ、指導者というのはどれだけ魅力的なサッカーを展開しようと結果でしか評価されないものだ。カパゼ監督はその観点で言えば株を上げた。その姿は断片的にしか伝わらなかったが、采配や用兵、そして選手の動機付けでチームを巧みに操り戦う集団に仕立て上げ、自身のキャリアもまだ浅い中でAFC主催大会の決勝に導いた。今後のキャリアが大いに楽しみである。
私事だが、今後もこの熱量でウズベキスタンサッカーをフォローしていくべきか悩んでいる。詳述するつもりはないが、この国のサッカーを取り巻く状況に幻滅したのがその理由だ。大多数の選手とファン、一部のジャーナリストとお偉方に罪はなく、日々ウズベキスタンサッカーの発展に汗を流している。
しかし、ピッチ内外での醜聞を撒き散らす国のいびつなサッカーの価値に疑問を抱くようになったのも事実だ。つまり、ただ「サッカーを見る」ことだけに焦点を当てるなら、もっと違うやり方がある気がしてならないと思うようになった。少なくとも、年に1回は重大なスキャンダルが起き、3回は財政難のチームがリーグを脱退する報道が出、数え切れないほど試合中に乱闘が起こるようなサッカー。普段は国内大会に見向きもしないくせに代表戦にだけ湧いてきては罵詈雑言を投げかけていく「ファン」と、文句を言えば仕事になると思っているようなジャーナリズムに溢れたサッカー。一向に改革をしない連盟と意味もなく敵対するリーグ機構、質の低い審判とおよそ21世紀とは思えないマッチオフィシャルが試合を司る国のサッカー。こんなモノを見たいだろうか。幸い「前の地主」が土壌改良を行ったためそこそこ肥沃だが、種も蒔かずロクに土も起こさなければ雑草も取らない。放っておけば勝手に生えてくると思っている。そんな人間が耕す土地から世界を目指そうなんて、言葉は悪いが笑止千万だ。
話はそれたが、それでも今大会を通じて見る者を驚かせたウズベキスタンU-23の戦いの美しさが損なわれることはない。大会は終わり、既にリーグ戦が再開している。オリンピクは大きな痛手となったが、再開後の緒戦で既にジュラクズィエフやソディコフといった今大会にメンバー入りした選手が出場している。ウズベキスタンサッカーのこれからを担う若者たちのさらなる活躍、さらなる成長に期待が膨らむ2週間だった。
最後に、「24人」とともに最後まで大会を戦い抜いたカパゼ監督のインタビューで記事を締めたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?