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ウズベキスタン1部リーグ 2021年シーズンが終了ほか

 ウズベキスタン・スーパーリーグは先の週末で全26試合を消化、2021年シーズンを終了した。全チームを取り上げるとキリがないので、有力チームの戦いについて簡単にまとめた。

総合力で勝ち取った栄冠

今シーズンの最終順位表。

 優勝はパフタコル

 なーんだ、またパフタコルか、と思われる方もいるかもしれないが、今季のチームはいつもと違う苦難の船出だった。まずはコロナ禍で親会社の業績が悪化、開幕前にいきなり資金難が報じられた。事実、開幕以降は何と5ヶ月間給与未配という、おそらくチームの歴史上最も困難な時期を過ごした。その後チームの所有権がタシケント市に移管され財政危機は回避したが、代わりに昨季までの主力選手のマシャリポフハムダモフハムロベコフセルゲーエフが一気にチームを去った(シーズン中にはユルドシェフも抜けた)。補強も当然行ったが、新戦力はこれまでと比べて「慎ましい」顔ぶれだった。 
 さらに、開幕前に守りの大黒柱の2選手、CBのクリメーツ(膝の負傷が感染症を起こし、6月以降全休)とGKスユノフが長期離脱。大きな戦力ダウンは否めず、今季はAGMK、ソグディアナ、ナサフら第2勢力にも可能性があるかもしれない、そう予期していた。
 しかし蓋を開けたら開幕から他を寄せ付けない横綱相撲。お金の都合がついたためか夏にハムダモフとハムロベコフが復帰。昨年までアルヴェラゼ監督の下でコーチを務めたハイストラ監督も、前任者のサッカーを引き継いだことで戦術の乱れもなく、結局難なく連覇達成。通算14回目の国内チャンピオンに輝いた。

 戦力ダウンにも関わらず優勝できたのは、それを補う存在があったから。つまり、バックアッパーの頑張りと新戦力の台頭の2点に尽きる。控え選手では、アンズル・イスモイロフとコンビを組むCBにはアーザモフが「サブ」以上の働き。パフタコル加入以降ベンチを温める時間が長かった30歳だったが、最後までチームの守備陣を引っ張り続けた。GKも控えのクッヴァトフが守護神不在をカバーし、シーズン半ばにスユノフが復帰したあとも「GK2人体制」に持ち込み、久々に代表入りする活躍を見せた。

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シーズン通して大きく成長したホルマトフ。

 新戦力では、チーム首脳陣から指示が出ていたこともあるが、多くの若い選手が起用された。絶対的な攻撃の核であるマシャリポフが抜けた左WGに入ったのはユース育ちの2002年生まれ、偉大なフォワードを父に持つ19歳のディヨル・ホルマトフ。マシャリポフに似たトリッキーなボールタッチとステップが持ち味。プロデビューした昨季の出場時間はわずか23分だった若武者が、王者のレギュラーを掴み、U-23アジアカップ予選でも主力で戦うなどこの1年で大きく飛躍した。「若手の梁山泊」状態の2002年生まれ世代。これからのウズベキスタンを引っ張る名手が誕生した。

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テミロフ。イカツい見た目だが、プレーはクリーン。

 もうひとりチームを救ったのは、異色かつ無名の若者だった。その名はシェルゾド・テミロフ。1998年生まれの23歳、本職はウイングで、スピードとフィジカルを生かした豪快な突破が持ち味の選手。マシュアルに所属していた昨季「パフタコル相手に得点した」その1点のみで注目され、そのパフタコルにやってきた。「弱小マシュアルにしてはいい選手」程度で、まずパフタコルが手出しするような選手ではないのだが、チームの緊縮財政が幸いして王者の門を叩いた。
 開幕後は、両翼にトゥルグンボエフとホルマトフが据えられたことで出場機会は皆無。しかし転機は突然やって来た。5月末にワントップを務めていたデルディヨクが突如契約を解除し退団。FWの人材が払底してしまう。この緊急事態に白羽の矢が立てられたのは彼だった。本職でないどころか経験したことすらないCFとして起用されると、その試合から5試合で4得点。その後チームはセルビア人FWマティッチを緊急補強し一時的に出番は減るも、彼がフィットに手こずる中で再び存在感を増し、終わってみればチェランに次ぐチーム2位の8得点。誰も知らない選手から、チームの危機に突如出現し、自らの新境地を開拓しつつチームを救うヒーローにまでなってみせた。

 その他にも、アブロル・イスモイロフ、アズミッディノフ、チョバーノフ、イミノフ、エルキノフら控え選手も総動員しシーズンを戦いきったパフタコル。まさに総力戦で勝ち取った優勝と言えるだろう。

 もちろん、これまでもチームを牽引してきたトップ下のチェランの存在も大きい。大柄な体躯と繊細なプレーを兼ね備え、ラストパスにゴールに、全攻撃を一手に率いる最強セルビア人選手が今季も大活躍。16得点で3季連続の得点王に輝いた。33歳のベテランながら市民権を取得してのウズベキスタン代表入りもかねてから噂されており、本人もやぶさかでないようだ。左サイドバックのサイフィエフとセンターハーフのソビルフジャエフもほぼ出ずっぱりでチームを支えた。

混戦だった2位争い

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AGMKとナサフ。ここ3年で、すっかり「確かな第2勢力」に定着した。なお写真は先日行われたカップ戦準決の試合前のもの。試合自体は大いに荒れたが両チーム共に強度が高く、中立の立場で見れば好ゲームだった。なお、現在タシケント在住の筆者の大学時代の先輩が生観戦に行っており、中継にも映り込んでいた。読ませる観戦記はこちら

 開幕から好調だったAGMKナサフ。一時はパフタコルに迫る勢いで勝ち星を重ねたが、シーズン序盤からAGMKはACL、ナサフはAFCカップを同時に戦う過酷なスケジュールのツケを後半戦に払うことになった。負けが込む時期こそなかったが、AGMKはリーグ5戦勝ちなしなど明らかに連戦の疲れが見えた。結局最終節でソグディアナにかわされ、AGMKは3位、ナサフは4位でシーズンを終えた。ベテランを重視し攻守ともに完成度の高いAGMKと、恐れ知らずの若者を揃え魅力的な攻撃サッカーを見せるナサフ。スタイルは対象的だが、共通するのは攻守にシンプルであること。来季以降も上位争いを演じることになりそうだ。
 バコエフ体制2年目のソグディアナ。守備陣を支えるミトロヴィッチやチェルメリ、エースのノルホノフやウイングのカフラモノフなど、地味だが能力の高い選手を揃え、AGMKを更にピーキーにしたような堅守速攻で戦い、26試合制で「総得点28、総失点15」という驚異的なまでに守備的な戦いで、ウズベキスタン独立直後、初のリーグ戦が行われた1992年以来30年ぶりの2位に滑り込んだ。来季は初のACL予選に参加することとなる。
 また、一時の圧倒的な力をすっかり失ったブニョドコルも、総合力の高さはまだまだ健在。もたもたするナフバホルや今季最も期待を裏切ったチームであるロコモティフらライバルを尻目に5位に滑り込んだ。

維新・改革勢力の降格

 それでは、順位表の下の方では何が起きていたのか。結論を言うと、降格2チームはトゥロンアンディジャン。開幕前から熱心なチーム強化を行っていた野心的な両チームだったが現実は厳しく、1部リーグを去ることになった。

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降格が決まり呆然とするトゥロンの選手たち。

 このサイトで何度も言及してきたトゥロン。小さな町が本拠地、個人保有のチーム、潤沢な資金で急速に強化し創立3年で1部挑戦、魅力的な攻撃サッカー信奉者の若き監督が率いるということで昇格チームとしては異例の注目を受けていた。今季も初のトップディビジョンの戦いに向けてチーム強化を行った。
 アンディジャンもメインスポンサーが代わり、ロゴマークとチームカラーを一新し、スタジアムを改修。熱心なファンかサクラか知らないがホームアウェー関係なく大応援団が駆けつけ、更にロシア移籍が失敗に終わったジャロリッディノフを含む大補強まで敢行。

予想したほどド派手な補強ではなかったが、用兵が定まり、粒よりの選手たちがしっかりフィットしてくれば、出入りの多いサッカーでリーグ戦を大いに盛り上げてくれる存在になりそうだ。逆に心配なのは、いつまでもベストな布陣が決まらずに、シーズン通して低調な戦いを強いられること。大型補強のチームによくある「失敗例」で、最悪、フロントも我慢できずに監督をクビ、新監督は調整期間が足りず結果が出ず、そしてクビ、新監督招聘……という悪循環のおそれもある。

 しかし、筆者が開幕直後にトゥロンについて予想した通りの事態が起きてしまった。両者とも戦力の見極めに手こずる間にいたずらに時間ばかり過ぎていき、ベストメンバーが組めないままズルズルと順位表を滑り降りていった。泣きっ面に蜂で、さらに中断期間中に主力選手をゴッソリ引き抜かれてしまった(アンディジャンがより深刻で、ブアチー、アブドゥマンノポフ、ジャロリッディノフという攻撃の牽引車が全員退団)。

 トゥロンは新米指揮官のイスモイロフ氏を解任(試合後の会見で判定にブチギレしたことが引き金となった。その後育成部門に異動しシーズン後に退団)し、経験豊富なシュクヴィーリン氏を後任に据えるなど改革を実行。理想的なアタッキングスタイルを放棄し、地に足を付けた戦いにシフト。また経験豊富な実力者ムサエフが長期離脱から復帰したことで攻守に厚みが増したことで、持ち直しの兆しが見えたこともあった。
 アンディジャンも「取られた分だけ取ればいい」と言わんばかりに中断期間中にさらなる補強で挽回を試みた。新加入のザヴェーリンとソウペリの活躍で点が取れるようになり、一時は自動降格圏を抜け出したこともあった(パフタコル298日ぶりに土をつける大金星)。
 彼らは必死にもがき続けたが、残念ながら苦境を抜け出す勝負勘と神通力まで補強することは叶わず。第25節、仲良く敗れて降格が同時に決まってしまった。次節(最終節)はトゥロン対アンディジャン。残留争いがもつれていれば、間違いなく今季のベストバウトになっていただろう。

 トゥロンは最終節後、チーム会長のアブドゥヴァホブ・アフマダリエフ氏が辞任した。まだ若い人物だがチーム発足時から会長を努めてきたが、これからこのチームはどうなっていくのだろうか。大きな改革のうねりが押し寄せているのか、そして2部リーグの荒波をどう切り抜けていくのか、少し気になるところではある。

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アンディジャンのイスモナリエフ。地元出身で絶大な人気を誇り、不安定な最終ラインで懸命に戦ったが、その熱さが空回りすることもあった。


 2部リーグも全日程を終了。来季の昇格チームはネフチディナモ。ネフチは昨季末に大問題を起こしたが立ち直り、大補強で1部所属チームと遜色ない戦力を手に入れ盤石の戦い。財政難の噂もちらついてはいるが、難なく昇格を勝ち取った。ディナモも1年での復帰。ハムラリエフという若く才能豊かなCBがおり、来季その姿を見るのが楽しみだ。

 2部を3位で終え、残る最後の1枠を賭けて1部12位チームと一発勝負の入れ替え戦を戦うのはオリンピク。今シーズンサッカー連盟が設立した「ウズベキスタン・アンダー21選抜」のようなチームだが、他チームと同様に昇降格を争うようだ。対戦相手はマシュアル。ショムロドフが育ったかつての育成チームも、ここ数年はすっかり下位が定位置に。
 フレッシュなチームとしぶとく生き残ってきたチーム。好対照な両者の対戦は、3-1でオリンピクが勝利し1部昇格。なお、2015年、2016年、2018年、2020年にも入れ替え戦が実施されていたが、2部所属チームが勝利したのは今回が初めてである。10月に行われたU-23アジアカップ予選を戦ったウズベキスタン代表の大半がこのオリンピク所属の選手だった。今季のトゥロンに続き、2シーズン連続で初昇格のチームが誕生したことになる。活きの良い若手たちが揃う面白いチームで、どんな戦いを見せるのか早くも来季が楽しみだ。
 なお、敗れたマシュアルは2017年シーズン以来4シーズンぶりの降格。アレクサンドル・ホミャコーフ監督は昨季もブハラを率いて降格している。

選手たちに胴上げされるオリンピクのカパゼ監督。


 なお、残留争いのさなかで不穏な動きがあったことも記しておこう。
 メタルルグが「来季からの1部リーグのチーム数を14から16に拡大する」案をリーグ機構に提出するとの怪情報が出回った。一見リーグ拡大を目指す健全な提言に見えるのだが、今季のかつてない不振に陥り、報道があった頃は自動降格圏まで目と鼻の位置。つまり、「参加チームが増えれば今季の入れ替えはなくなり、自分たちも残留できる」という目的の可能性がある。
 この反則スレスレのグレーすぎる行為に国内では非難轟々。報じたChampionat.asiaも「スポーツマンシップに反する方法で残留を目指すようだ」と痛烈に書き立てた。なお、このメタルルグの話に乗り、拡大案に賛同したのは当時ブービーのアンディジャンと入れ替え戦圏内のマシュアルだったという。見事なまでに「そういうチーム」である。
 結局メタルルグは辛くも10位で残留を決めたため、おそらくこの件も有耶無耶のうちに消滅するだろう。近年好感の持てる戦いをしていたチームなだけに、残念なニュースだった。

若き新戦力

 さて、次は個人の選手について紹介する。サッカーを応援する者にとって、「若手選手の成長」は何にも代えがたい喜びだ。今シーズンも多くの選手が台頭し、チームの主力に成長した。特筆すべきは4選手。パフタコルのホルマトフ、ナサフのノルチャエフ、アンディジャンのラヒムクロフ、ロコモティフのジュマボエフだ。ホルマトフはパフタコルの項で紹介したので割愛する。

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フサイン・ノルチャエフ

 まずはナサフのノルチャエフ。今季のウズベキスタンサッカー界で最も可能性を感じさせたのは間違いなくこの選手だ。2002年生まれの19歳で、左利きのフォワード。
 一昨シーズンに、U-21チームのエースとして活躍し、昨シーズンに本格的に活動をトップチームに移した。当時はウイングでの出番がメインで時たまCFを務めており、筆者もサイドアタッカーとして育っていくのかと思っていた。しかし今季開幕前にワントップを務めていたボブル・アブドゥホリコフがウクライナのルーフ(リヴィウ)に移籍。選手層が致命的に薄く、昨季末から深刻な財政難に見舞われていたチーム事情から、いきなりFWの核としての働きを余儀なくされた。
 経験も実績も少ない若者には精神的、身体的に大きな負荷のかかるシーズンとなったが、そんな筆者の心配をよそに開幕から素晴らしいプレーの連続。毎試合「こんな速かったっけ?」「こんな強かったっけ?」と思うほどの長足の進歩を遂げ、ひ弱な選手がマルチなストライカーに変貌を遂げた。終わってみれば全体会通じて38試合24得点と、見事エースとしての働きをこなし、準優勝のAFCカップでは7試合7得点で得点王に。さらに10月の親善試合にウズベキスタン代表に初招集、デビュー戦のマレーシア戦で嬉しい初ゴールも記録した。シーズン終盤にはパフタコル移籍についての飛ばし記事が出るなど今最も注目されている若手選手。偉大なショムロドフの後継者になりえるほどの逸材だが、パフタコルのイリスメトフSDも語るように継続することにこそ価値がある。来季に真価が問われる。

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ディヨル・ラヒムクロフ†

 こちらも2002年生まれの19歳。地味ながら豊富な運動量とゲームを作るシンプルだが精度の高いパスが武器の守備的ミッドフィルダー。シュクロフやかつてのハイダロフのようなコンダクタータイプとはまた違う、守備により重きを置くウズベキスタンには少し珍しいタイプの選手。
 アンディジャンの監督(当時)のグロムフジャエフ氏がブニョドコルの育成組織にいた頃からの付き合いで、いわば氏の「秘蔵っ子」。今季ブニョドコルのセカンドチームから加入すると、同じくブニョドコル時代からのチームメイトかつ同い年のジャロリッディノフと共に開幕から定位置を確保。メンバーが決まらず低迷を続けるチームの中でポジションを守り通した。シーズン終盤に疲れと代表戦の参加により欠場したが、終わってみれば全26試合中20試合に出場。初めての1部リーグで立派な成績を残した。

 これまで主だった代表チームでの活動はなかったが、アンディジャンでの活躍が評価され10月のU-23アジアカップ予選を戦うウズベキスタンU-21代表メンバーにも選出。主力選手として3試合全てに出場した。
 所属チームは残念ながら降格してしまったが、若手選手にとってトップレベルでの経験は何にも代えがたい貴重なもの。アンディジャンが出すかは別にして、強豪チームが食指を伸ばしても何ら不思議ではない。来季のステップアップも十分にあり得る。

 ※12月25日追記:2021年12月11日、交通事故により帰らぬ人となった。わずか19歳。惜しまれる、あまりに早い死だった。詳細はこちらの記事

ジャロリッディン・ジュマボエフ

 筆者が完全にノーマークだった逸材がこのジュマボエフだ。2000年生まれの21歳で、国家レベルで危機的状態のDFそれもセンターバックの新戦力。圧倒的な上背があるわけでもなく、ゴリゴリのフィジカルモンスターというわけでもないが、足元の技術に長け、CBに求められる能力を高水準で備えるモダンなタイプ。所属チームで相方を務めるコビロフにも似ているが、そちらに時折見られるひ弱な面やボーンヘッドもない総合力の高い選手。

 昨季はバックアッパーとして12試合に出場しており、完全な無名選手というわけではなかったが、それでも印象には残らず。さらに今季のロコモティフはスィディコフ、コディルクロフ、コビロフ、アブドゥジャリロフといった代表経験のある錚々たる顔ぶれを補強した。その中で埋もれていくかと思いきや、本気で優勝を目指すチームが盛大にズッコケる中6月のリーグ中断明けに完全にスタメンを奪取。それ以降はDFの柱として君臨。シーズン最後まで戦い、ウイングのアモノフと共に大きく評価を高めた。
 さらに驚いたのが、11月15日に行われたジョージア代表との親善試合に向けたウズベキスタン代表に招集されたことだ。試合はメンバー外だったが、カタネツ新体制で特にDFラインに新しい戦力を探索している中での抜擢だった。1シーズンでCBのサブ要員からチームの核に成長し、さらにウズベキスタン代表選手に選ばれるほどにレベルアップ。今はウズベキスタン代表の当落線上から、国家を代表するディフェンダーになる日も近い……かも?

 他にも、ナサフには代表定着まですぐそこの若手選手がわんさかいる。トリッキーなウイングのボゾロフ、馬力と正確なクロスが武器の左サイドバックのナスルッラエフ、中央も右サイドもこなすDFのアルクロフ、豊富な運動量で中盤を締めるモズゴヴォーイ、スピード溢れる右サイドバックのサイドフ、クイックネスが売りの小柄な右ウイングのヌルッロエフ、今季レギュラーを奪い返したGKのエルガシェフなど、従来から期待されてはいたが今季主力選手の座をつかんで大きく成長を遂げた選手が大勢いる。このうちヌルッロエフ(パフタコル出身)以外は全員地元出身、自前の育成組織出身。さらに準レギュラーにも、サイドフとポジション争いを繰り広げる右SBのマンノノフ、CBとボランチをこなすトゥルディアリエフ、今季はエルガシェフに守護神を奪われたが昨季一気に台頭した能力の高いGKネーマトフ、何歳か不明だが攻守にバランスの取れたMFラフマトフ(昨季まで「フジャンベルディエフ」)など多士済々。
 昨季オフにはエースのボブル・アブドゥホリコフと右ウイングのケンジャボエフが退団したが、即座にノルチャエフとヌルッロエフで塞いでみせるなど、この驚異的な若手充実ぶりでチームを大きく強化し、今やパフタコルと並ぶ「代表選手供給チーム」となった感さえある。

将来のスター候補

 レギュラー奪取には至らなかったが、限られた出場機会で存在感を見せたティーンエイジャーも紹介する。10代の選手の未来予想など当たるはずもないものだが、「当たるも八卦当たらぬも八卦」で、26節見た中で特に期待が持てる選手をピックアップした。

アッボスベク・ファイズッラエフ

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ウズベキスタン人には珍しい、彫りの浅い「しょうゆ顔」。

 育成の名門でもあるパフタコル。全国から集った金の卵の中でも来季最も注目すべき選手がファイズッラエフ。2003年生まれの18歳で、ウズベキスタンによく出現するプレーメーカータイプ。パス、展開力、ドリブル、シュートと攻撃に求められる技術すべてを高い水準で持っている司令塔。インサイドハーフからウイングまで幅広いタスクをこなす柔軟性も持ち合わせる万能さも魅力だ。

 今季はU-21チームの主力としてシーズンを戦い、その合間にACLのターンオーバー要員などで数試合トップチームも経験。ゴールやアシストは記録できなかったが、独特の繊細なボールタッチとジャロリッディノフに似たプレーで、多士済々の王者にありながら存在感を示した。

 また、シーズン終盤にはU-23アジアカップ予選を戦うU-21ウズベキスタン代表に飛び級で招集。偉大な先輩ジャロリッディノフとポジションが重なるため出場機会は限られたが、それでも第2節のバングラデシュ戦で得点を上げるなど、年上世代に混じっても遜色のないプレーを見せた。
 財政難からこれまでのようなお金の使い方ができないチーム事情から、今後はパフタコルでの出番も増えるのではないかと予想しているのだが、このまま順当にいけば来季は先述のU-23アジアカップメンバーに入る。そのため、来季は1部リーグ昇格を決めたU-21選抜のオリンピクに派遣される可能性もある。

ウマラル・ラフモナリエフ

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褐色の肌と若さに似合わぬ鍛えられたボディが印象的。

 ファイズッラエフと同じ2003年生まれの18歳。彼とは打って変わって、相手にガツガツ食らいつく泥臭いマークと高い危機察知能力が武器の守備的ミッドフィルダー。非常に小柄な選手だが鍛え上げられた身体が特徴的で、アジリティが高く足腰の強さを感じる。物怖じしない負けん気の強さも持つエネルギッシュな選手。まだまだ未熟だがパスで繋ぐ意識も高く、年齢に似合わず落ち着いたプレーぶり。機を見たオーバーラップで攻撃にも貢献するマルチなMFだ。

 ブニョドコルの育成組織出身で、今シーズ開幕時にU-18チームと戦手契約を結んだばかり。当然所属はU-18チームながら、すぐにU-21チームに「飛び級」して主力に抜擢される。シーズン後半から徐々にトップチームでもベンチ入りメンバーに名を連ねるようになり、第15節のメタルルグ戦でデビュー。さらに第21節のAGMK戦でプロ初スタメンを勝ち取り83分間プレーすると、第23節のトゥロン戦では途中出場からプロ初ゴールを記録。出場機会は少なかったが、そのプレーはファイズッラエフ同様筆者の印象に強く残った。
 まだまだプレーは粗さが見られるし、さらに同じポジションには元代表選手でチームの精神的支柱のルトフッラ・トゥラエフがいる。来季いきなり主力になれるとは言いがたいが、所属チームも代表チームも中盤の守備力が壊滅的な中、彼のような選手は何人いてもいい。この1年間で遂げたのと同じ速さで来季も成長できれば、道が大きく拓けるかもしれない。

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パフタコルのウリンボエフ。こちらもプレーメーカーで、高精度のパスが武器。

 上記の選手以外にも、育成王国ナサフから2002年生まれのCBでリーグ最終盤に突如スタメンを奪ったダヴロノフ、2004年生まれの左ウイングアクロモフ、16歳183日で今季最年少出場記録を作ったパフタコルの2005年生まれムハンマダリ・ウリンボエフ(元徳島ヴォルティスのザビフッロ・ウリンボエフの実弟)、AGMKの17歳アブドゥラッゾコフなど、今季プロの世界にお披露目したティーンの逸材は多い。彼らが主力になる日はまだまだ先のことだろうが、今季もまた、今後の成長を見守るのが楽しみな存在が出現してくれた。

 キラリと光ったのは若手だけではない。今季はベテランも元気なところを見せた。パフタコルの苦しいDFラインで奮闘したアンズル・イスモイロフ、AGMKの大黒柱でPK職人のトゥルスノフ、キジルクムの堅守を支えたレジェンドのネステロフと老いてなお守備的MFとして円熟味を増し、代表入りの声すら上がったボイドゥッラエフ……。ここ数年で、30代後半まで一線級で活躍する選手がかなり増えた印象を受ける。

 決して、いいことばかりのシーズンではなかった。
 9月にはスルホンで給与をめぐるトラブルから「所属選手と元所属選手が、チームのキャプテンと首脳陣に殴打される」という前代未聞の事件が起きた。

 さらに今季から導入されたVARの運用についても選手、監督、ジャーナリストいずれからも批判が相次いだ。特にPKとゴールの判定についての意見が多く、実際に「審判の目に見えなかったプレーを確認する」目的というより「審判の『結果ありき』の判定を正当化する」ために使われたのではないかと疑ってしまうようなケースがちらほら見受けられた。もともと判定への不満がよく出るリーグ(国民性)だが、かといってマッチオフィシャルも権威を笠に着て安全な場所であぐらをかくのもよくない。来季はより円滑かつ明確な運用を期待したい。

 記事執筆直後の12月4日に、今シーズン最後の試合であるカップ戦決勝が行われた。パフタコル対ナサフ。リーグ戦王者が「ダブル」を達成するか、若手軍団が待ったをかけるか、2021年シーズンのサッカーシーズンを締めくくるにふさわしい好カードは、1-2でナサフが勝利。2015年以来2度目の栄冠に輝いた。

 年末にサッカー連盟主催の表彰式が行われ、それをもって今年の全行事が終了する。そして来年は、年明けすぐにウズベキスタン対日本の親善試合(キリンチャレンジカップ)も控えている。さらに6月には自国開催のU-23アジアカップも行われる。
 そして12月7日、来季の日程が一部発表された。シーズンの幕開けを告げるスーパーカップ(リーグ戦王者とカップ戦王者の対戦)は2月26日リーグ戦第1節は3月2日。冬の移籍市場もオープンし、各チーム戦力補強とトレーニングを行い、今よりさらにチーム力を高めていくことになる。鬼に笑われるが、早くも来年のことで頭がいっぱいになってきた。


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