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前代未聞の「エソンクロフ事件」についてのレポート

 ウズベキスタン1部リーグは残り10試合を切り、終盤戦に差し掛かっている。各地で熱い戦いが繰り広げられているが、今季も優勝争いに面白味はない。というのも、2連覇中の王者パフタコルが独走態勢を崩さず、2位以下を10ポイント以上の差をつけて大きく引き離しているからだ。マッチレースが味気ないのは圧倒的な強さの裏返し、このまま14回目のチャンピオンはほぼ確実と思われる。

 しかし、歴史的快挙もあった。第19節、最下位アンディジャンがそのパフタコルに勝利したのだ。前半にロングボールから抜け出したソヒブジョノフがループシュートを決め、その後は王者の猛攻をしのぎ続け、虎の子の1点を守り抜いてのウノゼロ。パフタコルは今季初黒星、さらにこの試合まで565分連続無失点を続けており、まさかの失点、まさかの敗戦に国内が騒然とした。アンディジャンはパフタコルに5年ぶりの勝利。
 優勝争いの大局には何ら影響のない黒星だが、アンディジャンにとっては大きい。この勝利で順位を2つ上げ、最下位から自動降格圏外の12位に浮上。残り7試合で勝ち点15、スルホン、トゥロン、マシュアル(、メタルルグも可能性はある)との残留レースが、昨年同様熱を帯びてきた。

事件のあらまし

 そんな中、白熱するリーグの戦いに水を差す出来事があった。事件の舞台はスルホン。今季は開幕から低空飛行を続けており、現在も自動降格圏内で苦戦を強いられているチームで、とんでもない事件が起きてしまった。

 事の発端は9月18日、Instagramのある投稿がきっかけだった。投稿の主はジャヴォヒル・エソンクロフの妻であるルシャナ・ミルソディコワ氏。エソンクロフは今夏までスルホンに所属した24歳のフォワード。10代から将来を嘱望され、メタルルグで頭角を表してからは各チームを転々としている。今季初めにナサフからスルホンに加入したものの、大して試合に絡めず7月に契約を解除し退団。現在は無所属である。
 画面に映し出されたエソンクロフの姿は非常に痛々しい、ショッキングなものだった。左目付近が大きく腫れ上がり、口元にも切り傷を負っており、何者かに暴行を受けたことは一目瞭然である。

事件についてのミルソディコワ氏のInstagramの投稿(いつの間にか削除されていた)

 この事件の「被害者」はもうひとりいる。アクロム・フジャエフである。彼は22歳の若手ゴールキーパーで、彼も今季からキジルクムのリザーブチームからスルホンに加入。開幕からしばらくはスタメンで出場し、貴重な実戦経験を積んでいる。ミルソディコワ氏の投稿には、右目の下と口元に切り傷を負ったフジャエフの画像もあった。

 投稿には長めのキャプションがつけられている。曰く、スルホンの選手には6か月間未払いの給与があり、彼らはその支払いを求めていた。エソンクロフとフジャエフは書面でも支払いの要求をしており、それをチーム事務所のドアに貼った。9月17日、チームから「未払いの給与を払う」と事務所に呼び出されたが、事務所に入るなり拘束され、チームの人物4人に襲われた。その間エソンクロフが逃げ出さないように、コーチが彼の体を押さえつけていたという。

 フジャエフはエソンクロフより先に事務所に到着していたが、彼もまた同様に拘束され暴行を受け、「犯人」に窓から投げ落とすと脅された。現場にはドライバーとロープがあり、2人はそれらで痛めつけると脅されつつ、謝罪文を書くよう強いられた。さらに彼らは防犯カメラの映像を削除し、血の付いたシャツを新品に着替えさせ、この件を他言したり当局に通報しないよう迫るなど隠蔽工作もされたという。

 ミルソディコワ氏は短い動画も投稿。病院の廊下と思しき場所で、何者かの問いかけにエソンクロフが答えている。会話の一部分だけなので具体的な内容は分からないが、おそらく暴行を受けた人物の名を上げていると思われる。動画の最後には、別室から出てきたフジャエフの姿も写っている。

……コーチ。選手のアスロル。
(名字は?)アスロル・ゴフロフ
(他は?)アザマトの息子。
(アザマトとは?)社長です。
(社長?)はい。
(名前は?)アザマト。
(社長の息子の名前は?)息子の名前は分かりません。
(全員で4人?)はい。1人が身体を押さえつけていました。
(それは誰?)マジド・トイロフ
(それは誰?)コーチです。
(彼もコーチ)はい。……

ミルソディコワ氏がInstagramに投稿した動画より

 4人のうち、エソンクロフが明かしたのは3人。アスロル・ゴフロフはなんとスルホンのキャプテンである。そして「アザマト」とはおそらくチームの副社長のアザマト・アブドゥラフモノフ氏。そしてコーチのアブドゥマジド・トイロフ(エソンクロフはファーストネームを「マジド」としている)氏。

 さらにミルソディコワ氏は"Championat.asia"のビデオメッセージで証言を行った。ゴフロフに棒で殴られたこと、エソンクロフの書面とは、8月31日書かれた「Azamat...(筆者註:おそらくアブドゥラフモノフ副社長のファーストネームと、「素晴らしい!」を意味する間投詞"azamat"をかけた皮肉と思われる)」というものだったことなどを語った。
 なお、ミルソディコワ氏はタシケントでモデルやメイクアップアーティストとして活動しているアーティスト。父は元ウズベキスタン代表監督のルスタム・ミルソディコフ氏で、少なからずサッカー界にも縁のある人物(換言すると、エソンクロフは元代表監督の義理の息子ということになる)。

 これが事実なら、チームの選手と元選手が、チーム経営陣、そして現場の指導者、さらに元同僚のしかもキャプテンから集団で暴行を受けるという前代未聞の事態である。


スルホンの反論

 この事件について、ニュースサイト"Championat.asia"がセンセーショナルに報道。その直後、すぐさまスルホンの公式Telegramアカウントが以下のような声明を出した。Telegramの投稿はnoteにシェアできないので、代わりに報じた"Championat.asia"の記事のリンクを貼った。文言はまったく同一である。

①スルホンとエソンクロフ選手との契約は2021年7月21日、双方の合意のもと無効になり、選手はチームに何ら金銭的な異議がないことを示す公式な書面にサインした。その後、選手はリーグの選手登録リストから削除された。
②エソンクロフ選手は契約終了後もチームの事務所を何度も訪れ、追加の給与支払いについて主張するようになった。
③エソンクロフ選手とフジャエフ選手は、共謀してチーム事務所のドアのそばに経営陣に対する侮辱的なメッセージを書いた。
④この状況を伝えられたチームキャプテンのアスロル・ゴフロフは、状況を明らかにするため2選手をチーム事務所に連れて行き、なぜそのような言葉を書いたか説明を求めた。当初彼らは関与を否定していたが、オフィスに設置された監視カメラに2人の行動が映っていた。
⑤ゴフロフ主将は選手をこのチームでプレーし、このチームで受けた恩を仇で返さないよう戒めたが、その途中で憎悪が募った2人の選手は互いに殴り合った
⑥チームのタイロフSDとアブドゥラフモノフ副社長は2人を引き離し、和解させた。
追記:エソンクロフとフジャエフ両選手は自らの過ちを認め、書面で謝罪した(動画と写真で記録している)。

 当然のことながら、エソンクロフとミルソディコワ氏による告発内容と大きく異なっている。まず、エソンクロフへの給与未払いについて否定。「金銭的異議がないことを示す契約終了通知」にサインしているにも関わらず、エソンクロフが追加の金銭を要求したという。そしてフジャエフはエソンクロフと共謀してチーム首脳陣に対する侮辱的なメモを書いたこと、さらに彼らの顔面の傷はフジャエフと「同士討ち」した際にできたものだと主張した。また、「脅されて書いた謝罪文」については、非を認めた2人が自発的に書いたものと主張。チームのメンバーがエソンクロフとフジャエフに暴行した件については言及すらない

スルホンのTelegramアカウントには、何のシーンか不明だがエソンクロフとフジャエフが事務所の一室に入っていく映像や、壁に貼られたメモ(肝心の内容は「個人の尊厳に関わる」ため隠されている)2人がチームに提出した謝罪文の画像が投稿。さらにはエソンクロフの契約書、支払った(とされる)給与の明細、さらにはどういう意図かは不明だがウズベキスタン憲法の一節まで取り出して自らの潔白を主張。火消しに躍起になっている。

 スルホンの主張に目を通すと、チームに一方的に不満を抱いたエソンクロフが元同僚と手を組んで暴発しただけようにも思える。こうして、双方の主張が真っ向から対立した。

「彼の目に強く当たってしまった」

 ここまで、すべて9月18日の報道である。事件の輪郭はかなり明らかになった。しかしまだまだ「エソンクロフに未払いの給与があったのか?」「誰が2人を殴ったのか?」「いったい何が原因なのか」など、事件の核心については分からないことが多かった。不穏な予感がムンムン漂う中、この日遅くまで精力的に記事をアップしていた”Championat.asia”だが、午後10時も近い中、ついに当事者のインタビュー記事が出る。「エソンクロフを棒で殴った」とされているスルホンのキャプテン、アスロル・ゴフロフである。
 結論を言うと、ゴフロフは、経緯はどうあれエソンクロフとフジャエフを「殴った」ことを認めた

 事件について、あなた方のサイトを見た多くの人が知るところとなりました。状況はこうです。賞金が支払われるということで私は事務所に向かい、ドアを開けようとすると侮辱的なメモが目に入りました。誰がやったのか尋ねたところ、防犯カメラにフジャエフとエソンクロフが映っていました。フジャエフを電話で呼び出しました。彼は「やってない、エソンクロフがやったのかもしれないが、分からない」と言いました。なぜこんなことをしたのか糺すと、彼は怒りからこのようなことをしたのだと答えました。
 彼は「俺たちはチームから追われた。追い出された」というようなことを言っていました。我々にかなり腹を立てているようでした。15~20分遅れてエソンクロフが来ました。彼に防犯カメラの映像を見せると「俺がやった」と言いました。それから小競り合いが起こりました。私の手が彼の目に強く当たってしまったのを覚えています。私たちが互いに身を寄せ合おうとしたところ、彼らは離れました。フジャエフが離れていくときにも、私の手が当たってしまいました。見てみると顔が少し腫れていました。私たちはしばらく話し合いました。
 「押さえつけられて4人に殴られた」と彼らは言いますが、それは違います。もしそんなようなことが起きたら、もっとひどい怪我をしているでしょう。最終的に、紙に書こうということになりました。若気の至りで申し訳ないことをしたと言っていました。私たちは外に出て、男らしく握手をして別れました。夜10時半ごろ、マハッラ・ノズィル(筆者註:小地域の自警団のようなもの、”mahalla posboni”とも)から電話がありました。以上です。エソンクロフは大げさなことを言うべきではありませんでした。彼が言ったように「体を押さえつけて殴られた」というのは間違っています。彼の目は腫れていて、私も気の毒に思いました(以下略)。

 何やらよくわからない弁解をしているが、とにかく彼が手を挙げたのは事実のようだ。さらに、「ハエからゾウを作る」という英語やロシア語など欧米の言語では割とポピュラーな表現(「大げさに言う」「針小棒大」程度の意味)を用いてエソンクロフを批判までしている。

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 ゴフロフはスルホンダリヨ州出身の地元っ子(エソンクロフも同様)である。愛するチームに対し聞き捨てならないことを言われたため義憤に駆られたのか、よっぽどチームに不都合な事実を指摘されたからなのかはわからないが、キャプテンとしてチームの和を乱す者を許さないのは理解できる。しかし、熱くなりすぎた末に何が待っているか、考えることはなかったのだろうか。そしてインタビューでは「こんなに拡散されるとは思っていなかった」と釈明しているが、拡散されなければそれでよかったのか。事務所に貼られたメモに怒るなというわけではない。発見した時点でチーム首脳陣に報告でもしていれば穏便に、少なくとも誰かが血を流すような一大事にはならなかったはずである。
 経緯はどうあれ、他人を殴打し負傷せしめた事実は重大である。拳で黙らせたのか本当に「手が当たってしまった」のかは分からない。しかし手よりも先に出すもの、解決のために手よりも遥かに熱心に使わねばならないものがあったのではないだろうか。キャプテンはピッチの上で選手をまとめさえしていればいいのだろうか。真実が明らかになっていないだけに性急な評価は控えるが、ゴフロフの取った行動には疑問を感じずにはいられない。それともこれが「ウズベキスタン式・トラブル解決法」なのだろうか?筆者には到底、そうは思えないのだが……。 

当事者周辺の動き

ウズベキスタンサッカー選手連合

 いよいよ事件がただごとではなくなってきた中、ウズベキスタンサッカー選手連合のカモリッディン・ムルゾエフ会長のインタビューが”Championat.asia”に掲載された。 

 ウズベキスタンサッカー選手連合は2017年に設立。FIFPro(国際プロサッカー選手会)にも加盟しているサッカー選手の権利擁護団体である。(事件があった)17日の晩に事件を知ったムルゾエフ会長は、すぐさまウズベキスタンサッカー連盟にこの件について連絡。この中で会長は「チームは選手に負債があった。未払いの給与を支払う必要があったが、月給について何らかの誤解があったようだ」「この件で問題なのは、スルホンに在籍中の選手も事件に加わっていることだ」「連盟の懲罰委員会に諮り、適切な対応を求めた」と話した。
 当然選手会は選手目線で行動する団体である。「金銭的異議はない」とするスルホンの声明と食い違っているが、これはエソンクロフ本人か、彼に近い人物からの情報に依拠しているためだろう。ムルゾエフ会長は連盟への連絡に加え、内務省と検察官にも通報したという。そして「スルホンがゴフロフにすべての責任を負わせるのは好ましくない」という選手会らしいコメントも付け加えた。

警察

 ムルゾエフ会長も話していたが、この件を受けて警察も動き出した。タシケントのミルゾ・ウルグベク地区(スルホンの事務所があるのだろうか?なぜテルメズではなくタシケントなのかは不明)の警察は20日、ウェブサイトを更新。この事件に関する短いニュースをアップした。
 どうやらエソンクロフかフジャエフのどちらか、もしくはその両方から通報があったようだ。

 給与未払いをめぐるスルホン経営陣と選手との間の争いについての動画がSNSで広まりました。この件について以下のことを報告します。
 9月17日、サッカークラブ「スルホン」の元選手「J.E.(ジャヴォヒル・エソンクロフ)」および「A.X.(アクロム・フジャエフ。ここでは「元選手」扱いになっている)」、チームキャプテン「A.G.(アスロル・ゴフロフ)」の間で、建物の壁面にチーム経営陣に対する侮辱的な書き込みをした件で、意見の相違がありました。 同日、ミルゾ・ウルグベク地区の内務部治安維持部門は、選手から負傷させられたという苦情を受けました。
 審理前の調査が進行中であり、法医学捜査が行われることになりました。捜査後、法的措置が取られます

ウズベキスタンサッカー連盟

 21日、ついにウズベキスタンサッカー連盟がこの件についてコメントを出した。事件について遺憾の意を表し、当局の捜査に協力。捜査が終了するまで事件に関わったと見られる人物を活動停止処分にするとのことである。事実関係が明らかになるまでは、とりあえず喧嘩両成敗といったところか。

 SNSで、サッカークラブ「スルホン」のジャヴォヒル・エソンクロフとアクロム・フジャエフ元選手がチームの事務所を訪れ、チームのメンバーと特定の選手との間で論争になるという事態が発生し、それに関する情報が拡散しました。
 この状況に関する特別会議が本日、ウズベキスタンサッカー連盟の役員と責任ある専門家の参加を得て開催されました。
 ウズベキスタンサッカー連盟はこのようなネガティブな事件を強く非難します。これらの人物の無責任さと倫理基準に従わない振る舞いは、ウズベキスタンのサッカーのイメージを傷つけています。
 現在、この事件は関連する法執行機関によって調査されています。法医学捜査も行われることになりました。
 法執行機関(警察)によって事件の状況が明らかになるまで、ウズベキスタンサッカー連盟は、サッカークラブ「スルホン」のアザマト・アブドゥラフモノフ副社長、アブドゥマジド・トイロフスポーツディレクター、アスロル・ゴフロフ選手、ジャヴォヒル・エソンクロフ選手、アクロム・フジャエフ選手に対し、サッカーに関するあらゆるの活動を禁止しました。
 同時に、ウズベキスタンサッカー協会はすべてのサッカークラブの経営陣に対し、チーム内で厳格な規律を維持し、いかなる状況においても倫理基準を遵守するよう奨励します。

 なお、エソンクロフの妻のミルソディコワ氏は、自身のInstagramアカウントでその後も事件についてアピールを行っている。真相解明に賛同する著名人に"за справедливость!「正義のために!」"という紙を持ってもらい、ユーザーにも同様の文言をハッシュタグ付きのコメントとして書き込んでもらう取り組みのようである。おそらく下の投稿に映っているのはかのレジェンドGK、イグナチー・ネステロフと思われる。

今後どうなるのか?

 エソンクロフとフジャエフ、スルホン、ゴフロフ、警察、サッカー選手連合、サッカー連盟……。多くの団体が関与する大事件となってしまった。ウズベキスタンでは、昨シーズン末に2部リーグで起きた「ネフチ選手による審判襲撃事件」に続き、2年連続でサッカー選手による大スキャンダルが起きたことになる。時期尚早なのでコメントはできないが、なんだかなあ、大変な国だなあと思わざるを得ない。少なくとも好ましい事態ではない。

 スルホンは以前から選手への給料に関するトラブルを起こしている。当事者は元所属選手のヴラディミル・ブバニャ。2018年にAGMKに移籍しウズベキスタンにやってきたセルビア人DFは、翌年に昇格組のスルホンに加入。チームリーダーとして活躍し驚きの6位入賞に貢献した。
 しかし2020年のシーズン途中に突如チームを離れセルビアに帰郷。チームは「同意なく去った」と彼を非難し「税金分を差し引かずに支給したので余分に払っている」と反論したが、実際にはチームに2度、リーグ機構に1度書面で問い合わせをしている。FIFAの規定には「2ヶ月分の給与が未払い担った場合、選手主導による契約破棄が認められる」という条項があるので、退団そのものにもブバニャの落ち度はない。
 その後ブバニャは給与未払いをFIFAに訴えるまでの騒ぎになった。未払い分の給与は75,000ユーロにものぼるとされ、給与未配を認定し処罰もちらつかせたFIFAに恐れをなしたか、スルホンとブバニャで話し合いが持たれ、結局2021年2月に再びチームに合流した。その後彼自身が「美しくもなく、プロ意識もない」と呼んだチームと契約を延長し、トラブルは解決したかに思われた。

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 しかし、2021年7月にブバニャは再びスルホンとの契約を破棄。セルビアに戻り、現在は地元のチームでプレーしているという。案の定今回もまた給与未配で、3〜5月分が支払われていなかったという。本人いわく「指導者との関係は非常に良い」「運が良ければ来年1月に戻れるかもしれない」とのことだが、現在双方合意には至っていない。蛇足かもしれないが、スルホンとはこういうチームなのである。

 事件は現在進行中である。現在国内の世論は大いに荒れている。警察による捜査はしばらく時間がかかると思われるが、おそらく21日に下した「喧嘩両成敗」をより幅広くした、チーム・選手双方に処分が下る形になるだろう。しかし選手を預かる立場ということもあり、さらに「前科」があるため、選手よりスルホンへの処罰の方が遥かに重くなるのではないかと見ている。今後も進展があればその都度加筆修正していく。(2021年9月22日、10月5日にブバニャの項を加筆)

 すっかり続報もなく、有耶無耶になっていた本件だが、11月8日にたったひとつだけ進展があった。サッカー連盟から活動停止処分を課されていたゴフロフ主将の、バングラデシュのサイーフ・スポーティング移籍が発表された。スルホンによる尻尾切りか、それとも彼への救済措置か。いずれにせよ、それでいいのかと感じざるを得ない。
 さらに、国際的なエネルギー関連会社の「エリエル・グループ」がスルホンの新スポンサーに就くと報じられた。12月に正式にチームを買収し、すでに具体的な資金投入の話も出ているという。ロシア、中東地域で石油・ガス会社に坑井整備や設備供給・メンテナンスを行っている持株会社で、CEOはウズベキスタン人のバフティヨル・フォズィロフ氏。スポーツへの関与も積極的で、ロシア・ホッケーリーグのスパルタークとタシケントのフモのメインスポンサーを務めている。来季はチームが大幅に強化される可能性がある。

 エソンクロフ事件以降妙に調子を上げ、追記時点で残り3試合のうち1勝すれば残留が決まる位置にいるスルホン。来季以降に向けた明るい話題も浮上する中で、この醜い事件も霧の中に消えていくのだろうか。(2021年11月12日追記)

顛末

 事件から4か月近くが経った2022年1月14日、タシケント市ミルゾ・ウルグベク地区の刑事裁判所が判決を出し、「暴行を加えた」側とされる人物を罰金刑に処したとのこと。これを受けて、判決が出るまでサッカー活動を禁止されていた当事者(エソンクロフ、フジャエフ、ゴフロフ、アブドゥラフモノフ、トイロフ)の処分が解除された。

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