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不器用が邪魔をして言えなかったこと。
別れてから、ずっとずっと会いたかった。
去年の夏、数年ぶりに彼から連絡が来て、夜中だったけど会いにいった。
暗い中タクシーで何度も鏡を見て、心臓がバクバクするのを抑えて、笑顔の練習なんかしたりして。
もしまた会えたら「ずっと会いたかった」って素直に言うはずだったのに、数え切れないほど頭で練習したのに、
実際に彼の前に立ったら「久しぶり」しか出てこなかった。それですら声は震えてた。
彼とその友達と3人でお酒を飲んで、会ってない間の出来事を少しずつ埋めた。
なぜか誕生日の話になって、彼の誕生日なんて覚えてないはずがないのに「いつだっけ?」って忘れたフリをした。ほんとかわいくない。
誕生日も記念日も、彼のだけは覚えてるのに、数年経った今も好きだってバレるのが怖くて、また会えなくなってしまうのが怖くて、言えなかった。かっこ悪い。
太陽が昇ってから、付き合ってた頃によく行った海の見える公園に行った。あの頃と同じ場所で同じ景色をみて、過去を懐かしんだりして。
以前より大人びてかっこよくなった彼に「何も変わらないね」とだけ言った。
本当にね、何も変わってなかったの。私の好きだったところが。大好きな彼のままだった。
能天気なところ、いきなり歌ったり踊り出しちゃうところ。目を見てちゃんと話してくれるところも、愛情深いところも、少年らしさは残ってるのに大人びてるところも。あとは、笑うと目が無くなるところとか、えくぼが片方だけできるところとか。
すきなところを挙げるとキリがないところも昔と同じ。
変わってないってね、最高の褒め言葉だったんだよ。あの頃と同じように、どうしようもなく好きって意味だったの。
だけどそんなこと言えるはずがなくて。ぶっきらぼうに「変わってない」なんて言って、悪い意味で勘違いさせちゃったかな。ごめんね。
すきなひとの前ではいちばん可愛い自分でいたいのに、なんでか上手くできなくて、いつももどかしい気持ちになる。
もっと素直でいれたら今もまだ一緒にいれたかな、なんて思ったり。
毎日会いたくて、何度も彼の夢を見た。
朝起きたとき。酔っ払ってひとりで帰るとき。綺麗な景色を見たとき。嬉しいときも寂しいときも、いつもそばにいてほしいのは彼だけで。
鏡に映る私はいつもどこか寂しそうだった。
結局言いたかったことは全然言えなくて、出てきたのは可愛げのない言葉ばっかりだった。そんな自分が嫌になって、帰り際なんて笑って手を振ることすらできなかった。
いつかまた、目を見てすきだって言いたいな。
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