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マチネの終わりに

著者 平野啓一郎
出版 文藝春秋 2019年6月10日第一刷 2019年10月15日 第5刷
初出 毎日新聞2015/3/1-2016/1/10
単行本2016/4 毎日新聞出版刊

以前読んだ「本心」が楽しめたので平野啓一郎の他の本を読んでみようと思い、手に取ってみた。

巻末の主要参考文献
イラク戦争、旧ユーゴ紛争、神曲や聖書まであるのを見たり、
過去に対する記憶そのものがその時の感情によって変わる=過去が変わる
というテーマを感じると、つい先日読んだカズオイシグロの「忘れられた巨人」を始め、カズオイシグロ作品を思い起こす。
イラクに関する取材ではジャーナリスト故・後藤健二氏に取材していたようだ。

リルケ ドゥイノ悲歌

「天使よ!私たちには、まだ知られていない広場が、どこかにあるのではないでしょうか?そこでは、この世界では遂に、愛という曲芸に成功することのなかった二人が…彼らは、きっともう失敗しないでしょう、…再び静けさを取り戻した敷物の上に立って、今や真の微笑みを浮かべる、その恋人たち…」

40代前後の繊細な不安定さと他者を考慮せざるを得ない大人の恋愛をしている主人公たちのその後はもちろんのこと、それだけではなく、イラク戦争、旧ユーゴ民族紛争地域に対する著者の祈りがこの詩に託されている様に思えた。

小峰洋子を通して、イラク戦争でのPTSDや、彼女の父を通して旧ユーゴ紛争も少し触れられているが、そこを深く掘り下げて洋子と聡史の関係が描かれていて欲しかったというのもある。

設定の細部に対し、その辺りも設定としては詳細になってはいるが、あまり真からの問題提起が感じられない。その辺りはイシグロ作品の方が僕は好みかも知れない。イシグロは深くこうした問題を否応なしに考えさせてくる。とは言えども、クラシックギタリストにしても、民族紛争や戦争に関しても、決して上部だけではなく、かなり取材されているのであろうことは、聡史と洋子の設定から推し量れる。

逆に言えば、そこまで重々しくもなく、あくまで大人の恋愛小説として雰囲気を楽しめる。

喧噪と静寂

音楽の静寂といえば、著者のモデルとされたギタリストよりも僕はソ連からベルギーへ亡命したピアニスト、アファナシエフの言葉が脳裏に思い浮かぶ。
静寂の中にこそ、人の感情を動かし訴えるものがある。

ときには 音楽が静寂となる。 自分がして いることを聴けば、自然とそのようになります。 自分の演奏を聴く、すると音楽は静寂へと育っていくでしょう。音楽は自ずと静けさに向かうのです。
ヴァレリー・アファナシエフ. ピアニストは語る (講談社現代新書) 

過去の戦争や民族紛争に、”今”、人々に静寂は訪れているだろうか?

余談 音楽の事

本書で扱われていた曲とは違い、僕の中では本書のイメージはAstor PiazzollaのMilonga del Angelを編曲されたものが近かった。

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