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トレブリンカ叛乱

『トレブリンカ叛乱』
著者 サムエル ヴィレンベルク
出版 みすず書房
ノンフィクション

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運命とは切り開くもの
とか安易に言えなくなる本。

ナチ占領下で生き抜いたユダヤ系ポーランド人である著者の壮絶な自伝。

この本を読むきっかけは、村上春樹長編「騎士団長殺し」でこの本の一節が出てくる事だった。
騎士団長殺しを少し前に購入した際、第一部の最後を見たらまるまる引用されていたからだ。
過去の歴史的事実として知っておくべきナチスによるユダヤ人迫害について書かれている。
ホロコーストのノンフィクションとしては「夜と霧」(著者ヴィクトール・フランクル)の方が有名かも知れないが、夜と霧よりも更に残虐さが伝わってきて重くやるせない気持ちになる。

200ページ程の分量にも関わらず1か月弱くらいかかった。
読んでいるのが痛々しくしんどかった。

トレブリンカは強制収容所ではなく、「絶滅収容所」。到着後10数分後にはガス室送りで、その作業場の重労働から遺留品の仕分けなどさまざまに作業員としてユダヤ人たちが労働させられていた。
著者はその中で1942年から特別労務班員として労働していたが、1年後の反乱に加わり、逃走に成功しワルシャワへ生還した。

人間の尊厳など全く皆無のホロコーストでの彼ら。
麻薬のように、虐殺が繰り返される度に双方それに対し鈍化してゆく事を「夜と霧」(ヴィクトール・フランクル)でも触れられていたと思うが、まさしくそれと同じ状況で、収容所の内側から見てきた全てが書かれている。
肉親がガス室で亡くなった事を遺留品から知ったり、犬にユダヤ人たちが引き裂かれるのを楽しむナチや激しい虐待など、純粋にただ殺害するためだけの施設であった模様が生々しい。読むのが結構辛くなる。
1943年8月2日、ついに反乱を起こす。その様子を鉄道作業員が撮影したものが、本書の表紙だ。
反乱を起こした仲間の大部分は脱走後捕まり命を落とす者がほとんどだった模様。
著者がこの自伝を母国語ポーランド語で書いたのが1948年。
イスラエルへの亡命後の約40年後にヘブライ語にて出版する。
長きに渡って出版しなかったのは、ワルシャワでの蜂起で目をつけられたり、著者の中で、死んでいった同胞たちに対して、同胞たちの死の上に生かされているということや半分ドイツ兵に加担したという自責の念から中々出版に至らなかったらしい。

繰り返されてはいけない歴史の不条理。
平和であることの意義、人間としての尊厳とかそういうのを考えさせられる。

ソ連兵と出会った際、母国のために、仲間のためにと言われる著者はのちに心の中である想いがよぎる。
「誰のために私は闘っているのか?」

最後まで読み切って良かったと思える。
著者の葛藤しながらもワルシャワで本書を出版試みた勇気、壮絶な不条理の中を生き抜いたというそのものに対しては深い敬意しかない。

「人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ
人間とは、ガス室を発明した存在だ
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。」
(夜と霧 ヴィクトール・フランクル収容所生活より引用)

著者は2016年2月に93年の生涯をイスラエルにて閉じた。

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