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ピアニストは語る

著者 ヴァレリー・アファナシエフ
出版 講談社現代新書

「静寂と音楽はひとつになっています。ときに静寂は聞こえてくるし、ときには音楽が静寂となる。自分がしていることを聴けば、自然とそのようになります。自分の演奏を聴く、すると音楽は静寂へと育っていくでしょう。音楽は自ずと静けさに向かうのです。」
—『ピアニストは語る (講談社現代新書)』ヴァレリー・アファナシエフ著


妻があるとき、アファナシエフの演奏をYouTube で聴かせてくれた。
その時はベートーヴェンのピアノソナタ悲壮、月光、熱情だったと思う。
彼女の言うとおり、確かに休符を大事にしているのが、僕のような素人でもわかる演奏だった。

「休符の中にこそ、感情の高まりがあるのよね!」
と、聴き終わった時に妻が目をキラキラさせながら言っていた。

この本は2ヶ月ほどかけて妻とペア読。

第一部はアファナシエフの生い立ち第二部は音楽について語られている。

「過去の自分を排除し、別の自分、つまり新たな可能性を迎え入れる。それが私のやりかたです。もし別の自分を迎え入れることができれば、言い換えれば、そのための場所を自分の中に空けてやることができれば、それらの可能性を現実と化すことができる。このことが非常に重要だと思います。」
—『ピアニストは語る (講談社現代新書)』ヴァレリー・アファナシエフ著


常に過去ではなく、新しい可能性へと向かう姿が印象的であるが、彼の音楽への誠実さもとても印象深い。

「カラヤンのコンサートにロンドンに行き、カンディンスキーの展覧会にパリに行きたいのです」

—『ピアニストは語る (講談社現代新書)』ヴァレリー・アファナシエフ著

旧ソ連からベルギーへ亡命するきっかけとなった、エリザベート王妃国際音楽コンクールへの出場の為の出国もギリギリまで可能であるか分からなかった当時の様子から、いかに共産圏からの亡命が難しいものであったのか何となく推し量ることしか、今の僕にはできない。
それでも、アファナシエフに運命は味方し、何とか出場に漕ぎつけた。

その時のことを語るアファナシエフの言葉から、艱難汝を玉にす、が出てきて、僕はとてもアファナシエフが好きになった。
艱難汝を玉にす、は、僕の好きな路傍の石でも吾一が胸に抱き続けた言葉であり、僕の座右の銘でもある。

「エリザベート王妃国際音楽コンクールでのことをお話し頂けますか。 V・ A  世界三大コンクールの一つですから、このコンクールに参加することはとても重要でした。しかし、いろいろ問題がありました。そもそもコンクールに行けるかどうかが最後の最後の瞬間までわからなかった。誰か私に行ってほしくない人間がいて、私が西側に亡命したいと思っているという──たしかにそれはほとんど事実だったのですが──匿名の手紙を KGBに送ったのです。行けるとわかったのは、翌日の朝八時に出発だったのに、出発予定日の前日、午後五時でした。出発予定の一五時間前にもまだ行けるかどうかわからないなんて想像できますか?  これもまた非常にタフな状況でしたが、おかげで私はさらに強くなることができました。よく言われるように、「艱難辛苦、汝を玉にす」なのです。」

「私は全人生を通じて自分の独立を守り通してきました。たぶんそうするのは正しかったのだと思います。音楽家としても作家としても、外部の情況に左右されることなく、自分ができることにだけ忠実に従ってきたのですから。」
—『ピアニストは語る (講談社現代新書)』ヴァレリー・アファナシエフ著


情勢に流される事なく、確固たる自己表現と音楽への誠実さ、静寂と美しい音の粒たちのハーモニーへのあくなき探求心がよく伝わってくる内容だった。

読んだ後に夫婦で彼の恐ろしくスローテンポな月光を聴くと自然と泣けてきてしまった。

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