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帰り道のサルトル先生

帰り道のサルトル先生

こんにちは。こんばんは。
資格試験が終わり、ようやくまとまった時間が取れたので日記を更新させてください。

全くもって腹立たしい帰り道の出来事を書きたいのです。

何しろ朝早くから資格試験の為に鎌倉の田舎から大都会の東京は練馬区の某大学キャンパスまで行ってきたので、少し文章の辻褄も合わないところがあるかも知れません。

よく晴れた4月のような気温の朝。
江ノ電に乗り、鎌倉でJRに乗り換え横浜でさらに乗り換え池袋へ。
池袋でさらに今度は有楽町線に乗り換え新桜台とやらへ。

有楽町線で乗り換えると、チラホラと似たような目的のオジサンたちと遭遇しました。

お互い皆心の中で思っていた事はきっと似たり寄ったりでしょうね。

まあとにかく試験会場まで何とか辿り着いたのですが結構な密状態で並ばされ、さらに会場内もまあまあ密。

現場職人系のオジサンもいれば、スーパーゼネコンの無理やり取らされに来ましたみたいなひょろっとした方もいます。

同世代は野心に燃えてる系よりも、燃え尽きかけてる系が何故か多かったので、僕は思わず同情しかけました。

3時間の試験の後の解放感の中、暫く綺麗なキャンパスを呑気に歩きまわり、帰りの有楽町線へ。池袋で降りてジュンク堂本店にでも行こうかと迷いましたが、家で待つ妻と娘の顔を思い出し、そそくさと寄り道せずに帰ることにしたのでした。

江ノ電に乗っているうちに、やはり本屋に行きたくなり、自宅最寄り駅で降りずに藤沢まで行く事にし、気になっていた本をジュンク堂で数冊買い込み、また江ノ電へ。

電車のドア付近で突っ立ってボケっとしてました。

買い込んだ本の中には、サルトル先生の書かれた「実存主義とは何か」も入ってます。
僕にはかなり敷居の高そうなタイトルですが、白地の表紙がかっこいい。

ジャケ買いというやつです。

午後歩いたキャンパスでインテリ風にベンチで妻とサルトルについて話し込んでいるのを妄想しながら江ノ電のドア窓から海を眺めていました。

車窓に映る僕。
背格好と風貌は瓜二つでも、僕とは、まるきり違う世界で生きている男。
窓を挟んであちら側とこちら側。

車窓の向こうの男はゼネコンなどではなく大学で教鞭をとり、生徒からは熱い尊敬の眼差しを時には向けられ、一年中心地よい研究室で書物を読んだり書き物をしたり。
仮称サルトル先生としておきます。

秘書の若い頃の池脇千鶴似の少しふっくらした女の子、仮称シモーヌ、と時々デートして、夜は都内タワマンの自宅に連れ込んでシモーヌと寝て朝は何事もなかったかのように別々に大学へ向かうといった生活。

書き忘れましたが、サルトル先生とシモーヌは部屋でマーラーの交響曲第5番のアダージョ、カラヤン指揮のレコードを大音量で、かけるのが決まりです。
決まりというよりも必然。
ラップではありません。クラシックです。
カラヤン指揮のなんとかフィルハーモニーで、レコードじゃなきゃいけないし、部屋は黄色味帯びた薄暗さで窓の外にはスカイツリーが見えてないといけない。

一方でこちら側には毎日セコセコと朝早くから夜遅くまで働き泥のように疲れ切った顔の俺。

燃え尽きかけてる系の俺を鼻で笑うかのように窓越しにサルトル先生が見つめてきやがる。

有楽町線で出会ったいかにも現場職人20年みたいな同業者たちをふと思い出すやいなや、訳もなくそいつら全員がニヤニヤしながら、俺に、サルトルなんか相手にすんなと言ってきている。

無性に何もかもが腹立たしく思い、僕は、今にもサルトル先生に向かって先生の書いたかっこいい表紙の本を思い切り投げつけてやりたい衝動に駆られ、睨み返してやりました。

すると上品そうな、すかした野郎でしかなかったサルトル先生もほぼ同時に睨み返してきやがる。

教授の瞳には、ハッキリと僕を嘲りの感情と見透かしているような意思が表れていました。
僕はお構いなしに睨み続けました。
それと同時に教授の瞳に何処かで僕に助けを求めているような、僕を憐んでいるような、何処か悲しそうなものを感じ、

お前って、哀れな奴だな。

と、ボソっと教授に言ってやりました。
相手はサルトル気取りでしたが、こちらはナポレオンです。

何故、ナポレオンか?
単に僕が好きな偉人の一人であり、サルトルと演説で戦わせたらナポレオンの方が勝ちそうだからです。
何しろナポレオンは皇帝だ。負けるわけがない。

実在だとか本質だとかどうでもいい。

俺は妻の中で実在し、それが俺の本質と誰かが言うかも知れない。泥のように疲れ切っているのは見せかけで、俺の精神は強靭で不屈だからお前に嘲り笑われようが関係ない。

唐突にドアが開き、教授は何処かへ行ってしまいました。

開いたドアの向こう側に目をやると見ると自宅の最寄り駅だったので、慌てて電車を降りました。
辺りは、すっかり夕闇に覆われています。
駅を降りてからも、教授が僕のあとをつけていないか少し確認したものです。

帰り際にコンビニで妻の為に花を買って帰るか迷いました。

しかし、そんな姿を教授に見られて弱みを握られたくもないので、そのまま足早に妻の待つ家路へと急いだのでした。

本当に腹立たしい奴だし、可哀想な奴だとしか言いようがないですが、あまりにも挑発的に睨み返してこられたので、書かずにはいられなかった。

そして、これを妻に読み聞かせしていると、2,3分で寝てしまわれました。

僕だけ、世界にたった一人取り残されたような気分になり、少しだけ寂しくもなりました。
起こすのも可哀想なので僕も寝るとします。

おやすみ、シモーヌ。
僕の大切な人。

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