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「王」と「料理人」

おはようございます!!! 書評行きます!!!

「不屈の心」 2019年出版 ポプラ社 上原浩二著 253P

(以下は読書メーターのアカウント https://bookmeter.com/users/49241 に書いたレビューです)

100勝100ホールド100セーブ。巨人でのプロ1年目でいきなり20勝を挙げ、先発ピッチャーの主要タイトルを全て獲得。MLBでは13年にクローザーとしてワールドシリーズを制覇。まさに投手のスペシャリスト。そんな逸材が高校卒業後に一年浪人し、学費のためにバイトをしていたというだけで読み応え十分。150キロに満たないストレートとフォークで世界を席巻した点からもヒントを得られた。短所を直すよりも長所を伸ばす。武器は増やすよりも磨く。そして無事是名馬。歳に関係なく、反骨心と雑草魂を自覚する人にオススメしたい一冊。

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2年前、阪神タイガースにピアース・ジョンソンという中継ぎ投手がいました。大いに活躍してくれたのですが、ひとつ印象深い思い出があります。

ある試合の終盤、リリーフの能見投手(現・オリックス)が満塁にした状態で降板し、彼がマウンドに上がりました。惜しくもヒットを打たれて失点を喫したのですが、その後「能見さんに申し訳ない」というコメントを残したのです。

普通だったら「俺はヒットを一本打たれただけ。失点の責任はない」「ランナーを溜めた奴が悪い」と考えます。でもこの本によると、プロ野球における中継ぎ投手とは「ピンチの場面でも抑えて当然」「そこで結果を残さないと信頼を得られない」という不条理なポジションなのです。つまり「マウンドに上がった局面がどうであれ、打たれて点を失ったら自分の責任」ということになる。

先発は長いイニングを投げるし、大量失点したら試合を壊してしまいます。その代わり日本では一週間に一度しか投げないし、ある程度点を取られることも許容範囲。クローザーはリードしている最終回が仕事場。負けている展開で投げることはまずありません。チームが勝ちさえすれば失点してもOKです(あまり頻繁だと信用にかかわりますが)。

一方、中継ぎはどのタイミングで出番が来るかわかりません。リードを保ってクローザーへ繋げる役目の「セットアッパー」が負けている場面で投げることは珍しくありません。連投も当たり前。なのに失点するとたとえチームが勝っても評価は下がり、ポジションを失います。

つまり先発には先発の、クローザーにはクローザーの、そして中継ぎには中継ぎの過酷さがあるわけです。荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」第6部にこんなセリフがあります。

「どんな者だろうと、人にはそれぞれ、その個性にあった適材適所がある。王には王の……料理人には料理人の……それが生きるという事だ」

ちなみに私は職場においては間違いなく「中継ぎ投手」のひとり。俺がいないと店は回らないと自負し、先発やクローザーと比べて評価が低いことに落胆し、でもそれらになりたくない自分もいます。結局いまのポジションが「適材適所」なのかな?

上原投手みたいに先発・中継ぎ・クローザーの全てで結果を出した人を尊敬します。ぜひ指導者になって欲しい。自分が料理人だったら、料理人の気持ちを理解できる王に仕えたいから。


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