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【本125】『急に具合が悪くなる』

著者:宮野真生子・磯野真穂 出版社:晶文社

末期の癌で死を目前にした哲学者(宮野)と文化人類学者(磯野)との往復書簡。それぞれの専門を用いながら、互いの言葉を紡ぎ、思索を深めていきます。

テーマは偶然、病、選択、運、死、魂など、いろいろとありますが、私は「偶然」にも癌に罹患してしまった宮野が「選択」について「運を引き受けること」について、語っているところが印象的でした。

私たちは偶然を前にすると、この先どうするのか、選択を迫られます。ただ、どんな選択肢をとってもそこには「必ず」はありません。全てが「不確定」なものです。宮野はこの状況について、九鬼の思考を用いてこう綴ります。

「偶然という自分ではどうしようもないものに巻き込まれながら(無力)、その偶然に応じるなかで自己とは何かを見出し、偶然を生きること(超力)であったと言えます。」

私たちは偶然を前に「無力」な存在になるのではなく、力強さを伴っています。それは磯野の言葉を借りれば、

「連結器と化すことに抵抗しながら、その中で出会う人々と誠実に向き合い、ともに踏み跡を刻んで生きることを覚悟する勇気」

なのです。

偶然出会った宮野と磯野。2人がともに踏み跡を刻み合い、偶然を必然として引き受ける覚悟をもつとき、新しい「始まり」がそこに訪れます。

私たちは生きている以上、思ってもみなかった偶然の不運な出来事に時々であいます。でも、「不幸である」と自分を固定化するのではなく、未来に訪れる「不幸」を生きるのではなく、自分を確率論のなかに手放すのではなく、「今」を誠実に生きることの大切さを、この本は教えてくれました。

また、読み返したい本です。


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