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5年以内にブックカフェを作りたいと思っています。その日のために、まずは、ブックレビュー…

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5年以内にブックカフェを作りたいと思っています。その日のために、まずは、ブックレビューを書きためようと思いnoteを始めました。みなさんの心にも、本を通して、素敵な「言葉」との出会いが訪れますように。(2021年1月)[Twitter:@kotonoha_tp]

最近の記事

【本125】『急に具合が悪くなる』

著者:宮野真生子・磯野真穂 出版社:晶文社 末期の癌で死を目前にした哲学者(宮野)と文化人類学者(磯野)との往復書簡。それぞれの専門を用いながら、互いの言葉を紡ぎ、思索を深めていきます。 テーマは偶然、病、選択、運、死、魂など、いろいろとありますが、私は「偶然」にも癌に罹患してしまった宮野が「選択」について「運を引き受けること」について、語っているところが印象的でした。 私たちは偶然を前にすると、この先どうするのか、選択を迫られます。ただ、どんな選択肢をとってもそこには

    • 【本124】『アルジャーノンに花束を』

      著者:ダニエル・キイス 出版社:早川書房 6歳児なみの知能しか持たない32歳のチャーリーの願いは賢くなること。賢くなると友達も増えるし、自分を捨てた両親が喜んでくれる。そのために、チャーリーはある研究の第一号として脳の手術を受けることになります。 日に日に賢くなっていくチャーリーは、その分、今まで自分がおかれていた環境にも気がついていきます。仲が良いと思っていた友達が本当はチャーリーを馬鹿にしてあざ笑っていたこととか、母が自分のことを憎んでいたこととか。目の前が開け賢くな

      • 【本123】『羊と鋼の森』

        著者:宮下奈都 出版社:文藝春秋 ピアノの調律師の物語。美しい音が響くたびに澄んだ空気に包まれ森の中にいるような感覚になります。 「大ホールの扉を開けると、気圧まで変わったように感じた。森だ。森にいるみたいだった。」 森で育った外村は、音を森で、森を音で感じながらその美しさを引き出しています。まるで、詩集を読んでいるようにゆったりと物語が流れていきます。 調律師が作り出す繊細な音。こんなにも音が作り出す世界が繊細なものだとは知りませんでした。もっともっと音に触れていた

        • 【本122】『世界から猫が消えたなら』

          著者:川村元気 出版社:小学館 さらさらと読めるけど、大切なことがいっぱい書いてあって、2回読み直しました。主人公の率直な気持ちが書き連ねてあってぐっときました。きっとこれからも何度か読み直すと思います。 余命わずかな30歳の主人公。自分の寿命を1日のばすことと引き換えに、何かをこの世から消すという悪魔がやってきます。悪魔が提示するものは主人公の人生に寄り添っているものばかり。とはいえ、主人公は最初それほど深くは考えておらず、本当に消えてしまってから、自分とそのものの関わ

        【本125】『急に具合が悪くなる』

          【本121】『悼む人(下)』

          著者:天童荒太 出版社:文春文庫 事故や事件で亡くなった人を悼み歩く静人。本人もなぜそれをするのか、何がそうさせるのか、分かりません。そんな彼の周りに集うのは、世の中を蔑む週刊誌の記者・蒔野、夫を殺した罪を負う女性・倖世、殺された夫・朔也の亡霊、そして、末期癌に侵された母・巡子です。みな、静人がなぜそれをするのか、自分なりに解釈し、意味付けをしようと懸命です。 でも、人の解釈って面白くて、その人自身の経験を通してでしか意味付けはできないもの。こうして、それぞれが静人像を描

          【本121】『悼む人(下)』

          【本120】『悼む人(上)』

          著者:天童荒太 出版社:文春文庫 静人は、不慮の死を遂げた人々を亡くなった現場で「悼む」旅を続けています。その多くは新聞やニュースで知った死であり、静人とは接点のない人たち。彼ら・彼女たちは、誰を愛したのか、誰に愛されたのか、そして、どんなことで感謝されたのか、静人はそれを周りの人に聞いて、心にとどめ、悼んでいきます。 「ぼくは、亡くなった人を、ほかの人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです。それを<悼む>と呼んでいます」 週刊誌の記者・蒔野は自分とは異な

          【本120】『悼む人(上)』

          【本119】『むかえびと』

          著者:藤岡陽子 出版社:実業之日本社文庫 主人公の助産師・美歩が命に向かって奮闘する物語。飛び込み出産、産婦の緊急搬送、出生前検査の悩みなど、いろんなケースを前にしてベテラン看護師や佐野医師たちと一生懸命頑張る姿に心が打たれます。経営陣には全く恵まれないし、後輩看護師の妊娠・流産事件に翻弄されるけれど、美歩は命を一番最初に迎える「むかえびと」として成長をしていきます。 「母親の中に生涯残るものを、子供は必ず置いていく。命を宿すということは、そういうことだとおれは思う。(略

          【本119】『むかえびと』

          【本118】『包帯クラブ』

          著者:天童荒太 出版社:ちくま文庫 『傷を愛せるか』で宮地さんが紹介していた小説、気になったので読んでみました^^ みんなどこか傷ついている。その傷を受けた場所に包帯を巻く「包帯クラブ」。 主人公のワラはかつて離婚した両親たちとともに楽しいく過ごした遊園地に包帯を巻いてもらいます。遊園地に足を踏み入れることのできなかったワラ、離婚なんてたいしたことないと思っていたワラ、でも、タンシオが巻いてくれた包帯を見ながら、涙をこぼして、私はこんなに辛かったんだと思うのです。 「わ

          【本118】『包帯クラブ』

          【本117】『晴れたらいいね』

          著者:藤岡陽子 出版社:光文社文庫 現代の看護師・沙穂が、終戦間近のフィリピンにタイムスリップ。従軍看護婦・雪野となり、命を救うために奮闘するお話しです。国のために...よりも、生きること、命をつなげることに懸命になる強さが眩しかった。 「自分は命が産まれる手伝いをする看護師だ。だから、命を簡単に懸ける戦争を決して許さない。命を生み出し、そして育むのに、女たちがどれほどの時間と力を費やすのかを、男は知らない。」 1944年。命の重さはどのぐらいだったんだろうと思う。治療

          【本117】『晴れたらいいね』

          【本116】『満天のゴール』

          著者:藤岡陽子 出版社:小学館 夫に浮気された主人公の奈緒は、小学生の息子涼介をつれて、丹後半島の実家に戻ります。ペーパーナースだった奈緒は、生活のために海生病院で看護師として働き始め、三上医師や過疎地に住む高齢患者たちとの関わりの中で、さまざまなことを学んでいきます。 どこか孤独をかかえた三上医師。彼は、在宅医療を施す患者に頑張った分の星シールをわたしています。300もの星々の煌めきのなかで、穏やかでどこか誇らしげな死をむかえたトクさん。死は終わりではなく「ゴール」。ト

          【本116】『満天のゴール』

          【本115】『傷を愛せるか』

          著者:宮地尚子 出版社:ちくま文庫 トラウマ研究の精神科医・宮地尚子さんのエッセイ集。旅先や留学先での出来事、アートや日常の風景や経験を切り取り、優しい言葉で綴っています。 きっとこのエッセイを読むと、じんわりと心に響く風景が、どなたにもあるはずです。今の私には「張りつく薄い寂しさ」がずんと心に残りました。 「剥がしても剥がしても張りついてくる薄い寂しさのようなものを、わたしたちは今抱えている気がする。人の価値が下がっている。」 社会人も学生も、そして、子どもたちも、

          【本115】『傷を愛せるか』

          【本114】『この世界で君に逢いたい』

          著者:藤岡陽子 出版社:光文社 主人公・周二と夏美が訪れた与那国島は、生と死の境界線があいまいな不思議な島。そこで出会った少女・花は、何かを探しているという。花が人生をかけて探しているものは何か。花の周りにいる人たちは、花の想いに手を貸し、過去を紐解いていきます。 この物語のテーマは転生。私たちは、前世でやり残したことをするために、生まれ変わるといいます。この世に強い想いを残したまま去った魂と、現世に姿を変えて戻ってきた魂。温かなつながりのなか、前世の想いを見つけていきま

          【本114】『この世界で君に逢いたい』

          【本113】『手のひらの音符』

          著者:藤岡陽子 出版社:新潮社 この物語は、主人公・水樹が、恩師のお見舞いで帰省することを機に、幼少期を思い出すことで話が展開していきます。現在と過去を行き来しながら、服飾デザイナー(リストラ予定)として働く自分を振り返ります。苦しいなかでも諦めなかった力、支え合った友人・信也、背中をおしてくれた恩師、いろんな記憶が甦るなかで、自分の姿が浮き彫りになっていきます。 「諦めない心の先に、何かがあるかもしれない」 同じ団地で家族のように育った水樹も信也もその兄弟も、みな、貧

          【本113】『手のひらの音符』

          【本112】『キラキラ共和国』

          著者:小川糸 出版社:幻冬舎 大好きな『ツバキ文具店』の続編。主人公の鳩子がミツローさんと結婚して、ミツローの娘QPちゃんとの日々が中心になっていきます。ミツローさんの亡くなった元妻・美幸さんとどう向き合ったら良いか悩む鳩子。そんな姿も、なんだか、鳩子らしく一生懸命で、微笑ましくも思えます。 あと、鳩子の仕事のひとつである手紙の代筆。今回もたくさんのお客さんが代筆を頼みにきます。私だったらどう書くんだろう。鳩子と一緒になって考えながら読み進めました。言葉は生き物だから、人

          【本112】『キラキラ共和国』

          【本111】『さみしい夜にはペンを持て』

          著者:古賀史健 出版社:ポプラ社 学校でいじめにあったタコジローにヤドカリのおじさんは、日記を書くことの大切さや日記の書き方を丁寧に教えていきます。この本はそんな2人の心の通った会話で物語が進んでいきます。 初めは泡のようにモヤモヤした気持ちも「今の自分」を文章にすることで、かたちを持った「考え」に変えることができます。「思ったこと」と「考えたこと」は違うことだとおじさんは言います。思ったことは「感じたこと」、たとえば、感情のままに吐き出された憎しみや悲しみなど。でも、考

          【本111】『さみしい夜にはペンを持て』

          【本110】『みかづき』

          著者:森絵都 出版社:集英社文庫 あまりにも面白くて606ページある長編をいっきに読んでしまいました。この本を読みながら、私は教育が心から好きで、子どもたちに教えることに人生をかけているんだと、改めて思いました。 この物語は、昭和36年、学校の用務員室で子どもたちに勉強を教えている吾郎が、保護者である千明と出会い、学習塾を開くところから始まります。公教育を「太陽」とするなら、塾は「月」。塾は、公教育を助ける存在であったり、はたまた脅かす存在であったり、常に明るい表舞台にあ

          【本110】『みかづき』