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【本120】『悼む人(上)』

著者:天童荒太 出版社:文春文庫

静人は、不慮の死を遂げた人々を亡くなった現場で「悼む」旅を続けています。その多くは新聞やニュースで知った死であり、静人とは接点のない人たち。彼ら・彼女たちは、誰を愛したのか、誰に愛されたのか、そして、どんなことで感謝されたのか、静人はそれを周りの人に聞いて、心にとどめ、悼んでいきます。

「ぼくは、亡くなった人を、ほかの人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです。それを<悼む>と呼んでいます」

週刊誌の記者・蒔野は自分とは異なる死生観をもつ静人にどんどんと引き込まれていきます。静人は、ホームレスであっても、不良で救いようもない人であっても、全ての死を平等に扱い優劣なく悼んでいきます。蒔野は、そんな静人の生き方に反発しながらも強い興味を抱き、ついには静人の母を訪ね、真相を聞きます。ただ、母はこう言うのです。

「静人は、あなたにはどう映ったんです?あなたには何を残しました?」

それは、何が原因で死んだのか、その人は社会的にどんな人だったのか、ではなく、周りに何を残し、何を受けていたのか、そこに焦点を置く人生への問いかけです。そして、人の心に残る亡き者たちへの記憶は、まさにこの問いに集約されるんだろうなと思いました。

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