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文化を越えて信頼を築く

DE&Iをテーマとした採用動画広告を当社で担当しており、私自身も多様なメンバーをマネジメントする機会が増えていますが、グローバル環境で相手と自分の文化のちがいを理解し、心地よくパフォーマンスを出せる環境を作る方法について日々考えています。

その中で、この本はいつも新たな気づきや発見があるため、一度まとめてみたいと思います。

異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とされているINSEADのエリン・メイヤー教授は、世界の文化の見取り図となる下記の「8つの指標」を紹介されています。

【カルチャー・マップ】

1)コミュニケーション
ローコンテクスト vs ハイコンテクスト

2)評価
直接的なネガティブフィードバック vs 間接的なネガティブフィードバック

3)説得
原理主義 vs 応用主義

4)リード
平等主義 vs 階層主義

5)決断
合意主義 vs トップダウン主義

6)信頼
タスクベース vs 関係ベース

7)見解の相違
対立型 vs 対立回避型

8)スケジューリング
直線的な時間 vs 柔軟な時間


8つの指標とも示唆的な内容ですが、私が最も意識するようになったのは、6の「信頼を築く方法は文化によって異なる」という点でした。

この本では「2種類の信頼」とその構築法が語られており、

「認知的信頼」
相手の業績、技術、確実性に対する確信に基づき、ビジネス上のやりとりを通して形成される

「感情的信頼」
親密さ、共感、友情といった感情に基づき、個人的な付き合いによって形成される

そして、これら2つの信頼をはっきり分けて考える文化を「タスクベース」と呼び、アメリカ、オランダ、デンマーク、オーストラリア、ドイツなどでこの傾向が見られ、「仕事は仕事」という考え方があります。

一方、認知的信頼と感情的信頼が強く結びついている文化を「関係ベース」と呼び、中国、ブラジル、ロシア、インド、サウジアラビア、ナイジェリアなどでこの傾向が強く、「仕事は人」という前提があります。

もしこれらの信頼の前提を知らずにコミュニケーションをとってしまうと、お互いに「礼節や誠実さが足りない」「不自然だ」と感じやすくなってしまいます。

そうならないための対策として、たとえば「タスクベース」のクライアントから食事に誘われた場合は、プロフェッショナルとしての姿勢を崩さないよう警戒して隙を見せず、交流と仕事を混同しないように心がけるべきだといいます。しかし、「関係ベース」の場合は逆に、楽しんで友情を育み、ビジネス以外の自分を見せ、心を開いて隠すことは何もないことを示す必要があります。

この本で最も驚いたのは、日本が世界でも例外的な文化を持つ国として紹介され、日本人は日中は主にタスクベースのアプローチをとるものの、夜に行われる関係構築がビジネスにおいて重要な意味を持つ、と言及されていて、確かに…と納得しました。

こうした異文化の信頼から起こる問題を避けるために重要なこととして、

・自分たちのスタイルが普通で、相手がまちがっていると思わない
・文化の観点から自分の行動を言語化し、この方法で問題ないか尋ねる

などを提案されていました。

私は今、多様なメンバーと仕事をする中でコミュニケーションのチューナーにいつも手を置いて、相手に応じて微妙に調整しながら進めている感覚があり、自分の国の文化に偏り過ぎないように気をつけています。

日本で仕事をしていると、コミュニケーションの前提となっている日本の文化に普段は気づかず、多様なメンバーとのプロジェクトが始まってから違いに気づくことがあります。

エリン・メイヤー教授によると、そんな時に最も効果的なのは、

・文化の観点から自分の行動を率直に言語化する
・自分の文化を笑い飛ばし、相手の文化をポジティブな言葉で表す

ということだそうです。

この本では、世界の中で日本がいかに特殊なカルチャーを持っているかが度々登場していました。

【日本文化の特徴】

◆ハイコンテクストかつ間接的なネガティブフィードバック
・ネガティブフィードバックをソフトに、控えめに、ほのめかして行う
・グループの前でのフィードバックを避け、1対1で行う
・改善点を優しく少しずつ伝え、徐々に全容がわかるようにする
・好ましくないメッセージをぼかすために食べ物や飲み物を使う
・良いことは伝え、悪いことは言わない
・何を言っているかより、何を意味しているかが大事

◆強固な階層主義+合意志向の意思決定システム(稟議)
・提案書を承認する前に、非公式に会合を持って合意を形成
・早い段階から動き、会議までに根回しが必要
・日中はプロとして振る舞い、夜の個人的な関係構築も重視される
・見解の相違は、調和を乱す兆しと捉えられる
・地位や肩書きに敬意を表して従う

◆直線的なスケジューリング
・プロジェクトは連続的なものとして捉えられる
・1つの作業が終わったら次の作業へと1つずつ進む
・締切とスケジュール通りに進むことを重視
・計画、組織化、迅速性に価値が置かれる

これらの文化的特徴を見た際、「わかる…」と共感するものもあれば、「そうとは限らない」と反論したくなる点もあると思いますが、著者によるとそのような文化の位置付けへの意見は、コミュニケーションのカギになるといいます。

特に日本人の「決断」や「時間」に対する象徴的なエピソードがあり、

・ある国の人は、日本人が決断が遅く、柔軟性に欠け、変化を好まないと不満を持っている
・日本人は、ある国の人がよく考えず、性急な決断をし、混乱を増長させてると不満を持っている

というケースが頻繁に発生しており、このようなすれ違いが起きたときは、文化の違いが仕事の効率にいかに影響を与えているかをメンバー同士で自覚することから始めるとよいそうです。

そして、文化の違いを考慮した上で、どうすればより効率的に協働できるかを話し合い、同意したことを「チームの文化」として言語化すると、そのチームは独自の文化を守るようになるといいます。

グローバルな環境でチームを成功に導くためには、文化の架け橋の役割を演じ、状況を相手の側から眺め、文化的柔軟性を身につける手助けをすることが重要だと言えそうですね。

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