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関東制覇の裏側~関東合同選抜大会~

関東合同選抜大会が3月18日19日と茨城県水戸ツインフィールドで開催されました。

この大会では普段は合同チームを組む学校の生徒たちの中から各都県,様々なセレクションを実施し,選抜されたチームで優勝を目指す。

そんな神奈川県選抜を2年連続私が率いることとなった。
神奈川県ラグビー協会,各先生方に感謝しかない。

昨年は1試合目に怪我人を多く出してしまい,満身創痍のブロック決勝戦で敗戦。

普及育成の側面もありつつ,子供たちが全力で優勝を目指していく過程には大きな価値があると信じ,今年度は昨年度の雪辱に燃えていた。

そして今年度,彼らは神奈川県に「関東制覇」のニュースを届けることになる。そして彼らは「優勝」「関東制覇」を成し遂げる。
今回のnoteでは私がどんなことを意識していたか,また試合の裏側など掘り下げて記録しておきたい。
今回は人の繋がり,続けることの大切さを感じる大会だった。

2日間の準備期間

神奈川県の準備期間は2日間のみ,合同選抜としてセレクションしたメンバーが集まりトレーニングする1日と実戦形式の1日というスケジュールである。
短期間で何を絞り込むのか・・・どこまで落とし込めるのか・・・
選手の個性を探りつつ,今回は3つのポイントで落とし込んだ。
そして3つに特化した戦術マニュアルを作成し,選手に日頃の練習や,家での時間に確認できるように形を作った。以下の3つである。

①エリアマネジメントの徹底
②アタックのストラクチャー化
③ラック時のDFセット

まずは①エリアマネジメントの徹底だ。このエリアではこの動きをとる。必ず15人に迷いがないように「枠」を作ってあげる。この枠では全員がとるべき行動がわかっている。仮に「枠」の中でのチャレンジをしても,それも含めて頭に入っている状況を作った。

アタックのストラクチャー化は特にセットピースからの動きの流れだけをストラクチャー化させた。どんなサインをするのかシェイプさせるのか,しないのか,などは選手たちがプレーをしていく中で自由に発想させる。これも前述した「枠」をつくることに似ている。

③ラック時のDFセットはこの子たちを優勝させるためには必要不可欠なポイントだった。なにか短期間で「強さ」を生むなら,チームに絶対的な自信を植え付けることが大切で,それがメンタル面でも良いが,彼らが短期間でも「上手くなった」「ラグビーが楽しくなった」という成長を感じさせるのも私の仕事なので,「どの都県よりも圧力のあるDFを体現する」この確固たる「強さ」これを意識させるトレーニングやコーチングに時間を割いた。

「勝利」は「楽しみ」の先にある

かといって「勝利」だけをやみくもに追いかけるなら,このチームの存在意義はない。「ラグビー」という15人制スポーツを心から楽しむ。同じ神奈川県でラグビーをする高校生と触れ合う。とにかく練習中も試合中も会話を止めなかった。会話することで人と人が触れ合う。その繰り返しが短期間でも顔見知りでも「チーム」になっていく。少しぐらい「緩くても」その雰囲気を見極めていけば怖くはない。

決戦前の直感~ペッパーミル開始~

そして迎えた大会初日,予報は雨,降りしきる雨の中,1つ考えを巡らせていた。そう世間はWBCが連日報道されており,同じスポーツの野球においてアメリカと日本の「チームジャパン」が「ペッパーミル」でビルディングしている。

ちなみにペッパーミルの意味とは

「小さなことからコツコツと継続して進んでいけば、良いことが起きる」という意味が込められている。 打者自身がヒットやホームランを打つとペッパーミルで胡椒を挽くようなポーズをする。 それに呼応するようにベンチでは複数の選手が同じポーズで返す。

dazn.com

チームは最後の練習から期間が離れており,今日の最初の集まりではまた人見知りというか少し距離がある感じだった。今日は悪天候。ベンチ内(インパクトメンバー)のテンションも心配。

そう考えたときに,直感で閃いた。
この短期間でも堂々と二番煎じしてやろう。
勿論,リスペクトを欠いては絶対にいけない。
自分たちの良いプレーを称える魔法のおまじないにしよう。

奇しくもその日に甲子園ではエラーが発端のパフォーマンスが実施され,大きく世間に広まったことは予想外だったが、、、。

選手たちに練習前に伝えると反応は良好だった。
WBC観てた生徒も多く,タイミングもばっちし,チームとして結束できる引き出しも増えた。

そして運命の東京都選抜の試合が始まる。


初戦 東京都選抜~雨中での徹底~

大雨にも関わらず,多くの東京都の応援団がスタンドに構え,フィジカル,技術的にも申し分ない彼らが1回戦の相手となる。
しかし,この日我々は最大のチャンスだと踏んでいた。
東京都選抜は見事に組織化されたアタックやワイドに展開するランニングラグビーというのが,私の分析で普通に勝負すると地力がでると感じていた。

だからこそ,今回の大雨でピッチが上手く使えない。ならば落とし込んできた3つのポイントのうち,2つのポイントを自信もってできれば勝機は出てくると,だから何も恐れずにプレーしようと。ハドルの中で伝えた。

前半は圧倒的に東京都選抜ペース。しかし要所,要所でDFが粘り強く刺さり,中々東京都選抜もトライを奪うことができない。
前半終了間際に自陣のペナルティを東京都選抜がPG成功で0-3で折り返す。

ハーフタイムでは選手たちは敵陣にいこう。エリアを取ろう。「やれる」と自信に満ちていて,私からは狙われている場所とラックサイドのペナルティの改善策を提示。あとは選手を信じる。

スマートに伝える。あとは選手の会話に任せる。

ミーティング後の後半は,それでも東京都選抜に押されるがあと1歩で食い止める。ラックサイドのペナルティも1減少でき,それが敵陣でないことが大きかった。

そして後半9分に敵陣15m付近でのペナルティを迷いなくショットを選択。
この迷いない選択がすべてだった。難しい距離を沈めて3-3の同点。
そしてそのまま一歩も引かぬままノーサイド。

良いプレーには「ペッパーミル」これが後半本当に多くなり,チームは同点ながら素晴らしい雰囲気を持ったまま,抽選を待つ。

抽選を引くは去年も選出された選手で,去年の思いもある分神様は振り向いたのかもしれない。抽選勝ちで次へと進むことができた。

終了後のハドルでは嬉しさを噛みしめ,東京都選抜をリスペクトし,東京都選抜の為に戦うことを決めた。素晴らしい態度だと思う。そして東京都のキャプテン素晴らしいメンタリティーでした。尊敬です。

最後まで可能性を信じる。誰も諦めていなかった。


2回戦 栃木選抜~決定的な成長~

インターバルは50分間,東京都選抜戦の分析を行い,その後はすぐにウォーミングアップに移る。
今回の大会では試合開始20分前のみ全体アップで強度と熱量をマックスにするやり方で,その前の時間は各選手に委ねる時間とユニットの時間と主体性を作り出す工夫もスタッフ間で話し合い確立していた。

1回戦での激闘を経て,インパクトメンバーの出場が確実に必要であり,また選手1人1人異なる役割があって,それを遂行する。
それが大会の鍵を握ることとなる。

1人1人のウォーミングアップにかける熱量を観察して,次へのビジョンをイメージしていた。

2試合目のメンバーのスタートには何選手かインパクトメンバーを抜擢した。

対戦相手である栃木県選抜は大学の2つ上の先輩が率いており,とにかく嬉しいという想いでいっぱいなのと,何かしてくるという思いでいっぱいだった。

試合開始から栃木県選抜はラックサイドを連続で攻撃してくる。とにかく雨の中で徹底的に自分たちのやるべきことを遂行してくる。

連続でラックを重ねるのは両チームにとってもリスクのあるもので,しかしながら神奈川県選抜はラックサイドでペナルティを重ねてしまう。

敵陣でペナルティを獲得すると,迷いなくペナルティゴールを選択してくる。1回戦我々が東京都選抜に迷いなくプレーしていた姿と重なる。

前半を3-6で折り返す。
1試合目の流れからみると受けたようにも感じる内容である。

しかし,ハーフタイムで彼らの決定的な成長を感じる。
選手が誰ひとり焦ることもなく,また不安な表情もせず,チームキャプテンやバイスキャプテンの話を聞いていた。
「焦らず外で勝負したら大丈夫」「15分あるから全然ひっくり返す」
選手たちはもう自分たちである程度,方向性を修正できる集団になっていた。

こうなると私たちがエゴを出す意味はなく,ペナルティが起きてしまう原因とその改善策を提示するだけで,早めに選手たちに時間を与えた。

そして後半インパクトメンバーを次々に投入する。
やるべきことが明確ならば,勢いはこちらが上回り,逆転トライ含め後半はゲームを支配することができた。

25-6という最終スコアは彼らがこの短期間でも大きな成長を遂げた,確かな記録である。

試合までのセルフアップ。必須項目以外はどんなことをしても良い。選手に考えさせる1つのアイディアだ。

決勝戦 群馬県選抜~想いと強さ~

決勝戦前の前日のホテルでジャージ授与式を行った。東京都の想い,栃木県の想い,それを明日必ず勝利に結びつける。

1人1人の想いには去年の雪辱や,自分の持てる武器を出す,などなど。

そんな中で1人の選手が「今までラグビー楽しくなかったんですけど,今1番楽しいです。だから明日も楽しみます。頑張ります。」と話してくれた。

「勝利」はあくまでも「過程」に過ぎず,人生の中で「楽しいという経験」が何よりも人を育て,また成長させてくれるのではないかと心から感じる瞬間でした。

これを聞いた時,明日は必ずいい日になると確信していました。

迎えた朝は快晴の空模様。

そして群馬県選抜を率いるのは大学4年間,苦しい時期を共に過ごした同期の板谷先生である。
私も熱い人といわれるが,彼もまた同じように熱い人間で,素晴らしい集団を率いて決勝まで進んできた。

それはウォーミングアップや会場での様々なシーンで感じることができたので,こちらも最高の準備をして決勝戦に挑んだ。

前半

群馬県選抜の想いの強さが勢いになり襲い掛かる。敵陣に侵入し,鋭いタックルでプレッシャーをかけられる。ペナルティを得ると,タッチに蹴りだしトライを狙ってくる。
真っ向勝負である。
勢いで受けてしまった神奈川県選抜は前半試合の9割を自陣で過ごし,先制トライを奪われるが,チーム全体で次の点数を許さなかった。
要所要所でビックタックルがさく裂し,そのまま前半終了。
圧倒的に攻められながらも1トライに抑えることができた。

私はとにかくこの状況をポジティブに伝えた
私自身は一切ネガティブなことを言わないようにしているので,
選手たちには自分たちが前半とんでもないくらいに攻められていたよね。
まずは素直に受け入れよう。素晴らしい攻撃だった。

それを止めたみんなは凄いんだ。さぁ後半ギアを上げよう。と伝えた。
そして,あくまで自分たちが築き上げたゲームプランは壊さずに1つ1つ重ねていけば20分(決勝は20分ハーフ)で追いつく。と続けた。

後半

勢いを少しづつ取り戻す彼らに,大きな味方がついた。
いや,ついていたのだ。最初から。
昨日のペッパーミルパフォーマンスが,試合を終えた他県の高校生が応援がてらスタンドから同じように盛り上がってくれたのだ。
ビックタックルや良いプレーに神奈川県選抜に向けてペッパーミル。
ミスなどリスペクトに欠けるような行為はない。
恐らく,ペッパーミルが持つ本来のエールがそこにはあった。

みんな高校生,ラグビーを愛する友達である。青春だ。

良いプレーでペナルティを得る。
エリアマネジメントを徹底してゴール前でラインアウトモールを形成する。
神奈川県選抜が短期間でも作り上げた。チーム戦術。

この戦術で2トライを奪い,14-5でノーサイドを迎える。

この瞬間,彼らは優勝そして関東制覇を成し遂げる。

ほんとうに板谷先生は良いチームを作る。熱くて最高の群馬県選抜だった。

ありがとうございました。

2日間という集合だったが,しっかりとスタッフ陣が連携をとること。
キーワード,キーパーソンなどゴール設定含めて準備をしておくこと。

これが私が準備したものや,結果です。

コーチングに関わる方の何かになれば幸いです。

選手1人1人役割は違う。だから蔑ろにしない。


終わりに~彼らには次のステージが~

さて,大会は幕を閉じたが彼らにはコベルコカップの挑戦権がある。

まだ横一線ではあるが,彼らのラグビーを通した青春はまだまだ続く。

そんな子供たちの青春と学びを今後も支援することができれば幸せです。

合同チームという,普段15人でラグビーができないからこそ。
そんな大会もある。

大小ではない。どんな想いで,どんな大会を,成長する場を,青春の1ページを,作っていくかは今後も我々の責任だろう。引き続き学び続けたい。

これからも全国のラグビーに関わる全ての学生に素晴らしい時間が訪れることを願って終わりにします。

ありがとうございました。


関東合同選抜大会
神奈川県代表監督
飯塚淳平

選手がしてくれた胴上げ。忘れません。ありがとう。



noteを読んでいただきありがとうございます。「こんなことしてみたい!」「このようなこと一緒にしませんか?」などご連絡お待ちしています。サポートは「子ども達」「ラグビー」の未来の為に活かします。「ラグビー」を通して「大きな夢」を持とう。