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泉のほとり

  Celui qui a soif.

  Moi, je lui donnerai de la source de Vie gratuitement.

   渇けるものよ

   我は汝に生命の泉を欲しいままに与えよう


 ロマネスク様式の建築、彫刻が好きな私は、長い休暇がとれるといつも気ままな旅に出る。おもにフランスの田舎。ひっそり残る敬虔な石たちは、私にとって愛おしく神聖すぎる秘密の花園だ。

 ある夏、私は南仏の修道院を訪れた。隠遁する修道士の瞑想のごとく、神と自然を友とする、人里離れた水辺のほとりの憧れのロマネスクに会いに。

 乾いた空気、強い真夏の陽射し。迷いながら歩いたため、たどり着いたときにはかなり疲れていた。聖堂に入りリュックを下ろす。ひんやりして心も身体も安堵の息をもらす。
 
 素朴で稚拙だけれど、信仰あふれる彫刻たち。光を集める小さな窓。厚い壁。深く重い精神と時の重なり。並んでいる椅子に座ると全身の力が抜けた。感謝と喜びと安らぎと。

 そっと目を閉じる。

 誰かに肩を叩かれ、目が覚めた。いつの間に眠っていたのか。顔を上げると僧服の男が立っていた。

「すみません。眠ってしまったようで・・・」

「陽が暮れると冷えますから。」

 その声はまるで聖堂内から湧いてくるように聞こえた。外を見ると、もう、西の空にオレンジの雲が流れている。ろうそくの灯がせかすように揺れている。

「今から山を下りるのは危険です。今夜はここにお泊りください。僧室が空いています。」

 彼は修道士で、かつては多くの僧がいたこの修道院を今はひとりで守っているのだと言った。時折、巡礼者が助けを求めにやってくる程度だとも。

 聖務の間に語ってくれた彼の言葉と瞳には、深く堅く積み重ねられた神殿があった。長い年月、信仰の人々に踏みならされ、滑らかになった床石のように。

 彼はベルナールと名乗った。

「諦めるのでなく、希望を持ち信じるのです。あなたの心にも神殿があるはずです。信じることです。」

 大地から生えたようなこの修道院もまた神殿であり、そこに住む彼の静かな喜びが、私の心にも浸透してきた。私は何も言わないのに、彼は答えをくれた。日常に磨かれ過ぎた心の傷にひりひりと染み込んだ。

 僧室は思ったより暖かかった。

   毛布にくるまり横になった。自分で自分を抱きしめるように。
 
 彼の言葉がずっと頭の中で響いていた。

   遠くで祈りの声がする。

 いつの間にか涙がこぼれた。感謝と喜びと安らぎに。


 再び肩を叩かれ、目が覚めた。私は聖堂の椅子に座っていた。

幼い男の子が立っていた。後から父親らしき男が入って来て、月に何度か修道院を見廻りに来る村人だと言った。

外には真夏の太陽が輝いている。

「ベルナールさんはどこですか?」

 聞くと、彼は回廊を指さした。


 かつては薬草を栽培したであろう明るい中庭を囲む列柱の隅に、古びた石像がたっていた。その足元には、こう書かれていた。


「聖ベルナール 彼もまた神殿であった」



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